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竹本美月の公理8  作者: 日野ねぎ
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珈琲と公費8 財布カラッポの方が夢詰め込める

「コーヒーを別の目的に、って何をしたんです?」

 ノエルくんがシュータさんに尋ねます。


「何でもいいんだが、アイデアは無いか? ノエルならどう使う?」


 ノエルくんはニヒルな笑みを浮かべました。この陰のある笑顔は、彼の可愛らしい童顔にふさわしくないように思う方もいらっしゃるでしょう。わたしやシュータさんは薄々勘付いていますが、ノエルくんは爽やかな笑顔の裏に、ちょっと面倒臭いひねくれ者が潜んでいるのです。言ってしまえば偽善者なのです。ノエルくんのすがすがしいまでの偽善者っぷりを見たい方は、やはりというか何というか本編を――〈以下略〉



「たとえば、コーヒーは液体ですから高い所から低い所に落とせば、水力発電ができます。コーヒーを高温で熱して蒸気にすれば、火力発電もできるでしょう。コーヒー豆は植物ですから分解して原料を取り出せば、植物由来のバイオマス発電も可能でしょうし」


 もちろんノエルくんは本気で言っていません。


「発電か。コーヒー1杯で? 非効率極まりない。なら手回し発電機でも回している方がいい」

 シュータさんも即断却下です。


「美月は考えつく?」

「いいえ。話を振られると思っていましたが、全然思い浮かびません。コーヒー1杯というのは、大掛かりな水分を必要とする仕事には少なすぎます。でもコーヒー1杯の水分は簡単に消せるものでもありません。それに、代わりとなる水はどこにでもありました」


 シュータさんは、またわたしの目を見ました。

「美月、良いことを言うね。つまりさ、犯人にとって水道で汲める水ではダメだったが、コーヒーなら良かったんだ」


 水は駄目で、コーヒーなら良い? それがコーヒーを必要としていた理由ですか?


「水とコーヒーの違いを挙げていこう」

 シュータさんは早速、黒板に向かって白墨チョークを握り締めます。


「色が違うっす。水は無色透明、コーヒーは濁った茶色か黒」ノエルくんが答えます。

「あと、匂いもします」とわたし。

「味もしますね。水は無味だが、コーヒーは苦い」

「コーヒーは熱かったです。水道の水は少し冷たいくらいです」


 他に、なにかあったでしょうか?


「大体こんなもんだろ。あとコーヒーはカップに入っている状態だった」

 シュータさんはそれらを書きまとめました。そして満足そうに微笑みます。


「したがって、犯人の狙いが絞られた」


 なるほど。


「1、犯人は色のついた液体を求めていた」

「2、犯人は匂いのつく液体を求めていた」

「3、犯人は味のついた(苦みのある)液体を求めていた」

「4、犯人は熱された液体(お湯)を求めていた」

「5、犯人は容器に入っている液体を求めていた」


「この五つのうちどれかに当てはまることになるだろうな」

 シュータさんは再び回転椅子に座り直しました。そして熟考タイムです。わたしは、小声でノエルくんに質問しました。


「この5つが犯人の狙いなら、何をしたかったと思いますか?」


「そうっすね。1なら、色のついた液体で絵でも描きたかったんじゃないですか?」

 ノエルくんは淡々と答えます。


「2なら、嫌いな人の体操服をコーヒー臭くしたかったとか」


「3なら、嫌いな人に苦い顔をさせたかったとか」


「4なら、嫌いな人の顔にぶっかけて、火傷させたかったとか」


「5なら、当然嫌いな人の所に持って行くのに、容器に入っていた方が都合がいいでしょう」

 ノエルくんは「ね?」と言いますが、相変わらずこの犬畜生は性格が悪いです。性格が悪い人の発想をしています。


「美月先輩はどうなんです?」

「わかりません。でも、ノエルくんの発想もあながち間違いではないのかもしれませんね。水は洗浄に使えますが、コーヒーは逆です。汚れになります。どう転んでも、良い目的には使えないような気がします」


「なるほど、そうっすね」

「それにですよ。もし別の目的に使ったのだとしても、ノエルくんがさっき言ったみたいに、生物室の外にまで持ち出して、人の物や顔にコーヒーをかける時間は無かったはずです。コーヒーは生物室の中で使われたんじゃないでしょうか?」


 そのとき、ガタッと前方で音がします。シュータさんが立ち上がったのです。


「美月、お前は天才だ」

 え、そ、そうでしょうか? 照れます。


「『ワットダニット』の答えだ。ここで何が起こったのか? それは、何者かが『コーヒーで何かを汚した』。そしてそれは教室内で行われるほど、小さな何かを汚したんだ!」


 あらら……。いつの間にやら、核心にどんどん近付いています。

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