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竹本美月の公理8  作者: 日野ねぎ
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珈琲と公費7 探偵は女にモテるが、それ以上に男にモテる

「だが、まず一旦落ち着こう。このコーヒーサーバーに入ってるやつは飲んでもいいんだな?」


 シュータさんはコーヒーメーカーの下にある、透明の目盛り付きポットを取り出しました。それはコーヒーサーバーと呼ぶのですね。今は目盛りの半分くらいまで、黒い液体が溜まっています。


 コーヒーメーカーで作ったコーヒーがドリップする容器のようです。わたしはコーヒーが苦手で飲まないので知らなかったですが、流石に一杯ずつ淹れるわけではないですよね。


 シュータさんはサーバーを持ち上げます。そしてテーブルの下を見て固まります。……? それから顔を上げてキョロキョロしました。


「ああ、注ぐためのカップですよね。別のものはこちらに」


 ノエルくんはバッグから新聞紙にくるまれたカップを出します。五つも。さっきのと合わせると、六つ持って来ていたのですね。準備がよろしいこと。


「美月は飲まないよな?」

「はい、コーヒーはいいです」

 シュータさんは、わたしの好みを把握してくれています。ミスター・ホームズのように紳士です。


「じゃあ、ノエルと俺の分だけ注ぐから」

「流石に冷めてしまったと思いますよ。保温にしておきましたが、少しぬるいはず」

「いや、いい」


 ノエルくんが注いでから、かなり時間が経ったようですね。それでも、シュータさんがカップにコーヒーを注ぐと、コーヒー豆の芳ばしい香りが教室中に広がりました。


「うん、いいコーヒーだ。苦すぎなくて、酸味がある。すっきりした味わいだ」

 シュータさんは、いつも先生が座る回転椅子に座って、ゆったりとコーヒーを嗜みます。大人です。


「いいコーヒーメーカーだから、細かく豆を挽いているんだろ?」


「いいえ。普通コーヒーは細かく挽くと、エスプレッソのように苦みが強くなります。反対に、粗挽きにするほど酸味が強くなるのですが、これは機械の設定としてはその中間くらいですね」

 ノエルくんが冷静に解説しました。


「確かに、その中間くらいの味わいだ」

 シュータさん、子供です。


「だが、確実にわかったことがある。生物室に入ったやつは、咄嗟にコーヒーがあることに気付く」


 ええ、シュータさんの仰る通り。この匂いは誤魔化しきれません。


「つまり、『捨てた』/『別の目的に使用した』のどちらにせよ、犯人は偶然入ったこの教室でコーヒーの存在に気付いた。そして当該の行動を起こした」


 ノエルくんはカップを持って、わたしの向かい側に腰掛けます。そして、コーヒーと一緒にいただくはずだったのでしょう、ビスコを差し出して下さいました。ありがとうございます(本当に気が利く人ならば、ウェットティッシュとゴミ箱を近くに置いてくださるものですが、わたしはレディなのでワガママは言いません)。


「なるほど。でも、『捨てた』って。俺のスペシャルなコーヒーになんてことを」


「うん、『捨てた』ってのはおかしな話だ。なあ、美月。捨てたとしたらなんでだろう?」

 シュータさんの質問です。うーん。


「たとえばですが、虫が入っていたとか」

「余計なお世話だけどな。一理ある。他にもゴミが入っていたとか」シュータさんは頷きます。


「どこに捨てたと思います?」ノエルくんが言います。

「十中八九、生物室の水道だろう」


 わたしも窓の外や、教室外の水道に流したとは思えません。


「美月、他の可能性は?」

「え、ええと。その入って来た方が、コーヒーマニアで、ノエルくんのコーヒーは本物のコーヒーとは認められない、捨ててしまえと怒ったから、とか?」


 顔が真っ赤になってしまいます。二人にも笑われました。だって、思いつかないんですもの。


「でも、そうだな。コーヒーに憎しみを抱く人間かもしれない。案外、教師が犯人でさ、学生の分際で高いコーヒーメーカーをオモチャみたいに遊びやがって、クソって怒って捨てられたかも」


 でも、わたしカフェインもコーヒーも苦手ですが、コーヒーを捨ててやろうなんて思いません。


「ま、人のコーヒーを勝手に捨てるようなやからが犯人だったら、不運だったと諦めるほかないな」


 シュータさんは苦笑いでカップをテーブルに置きました。そして再び黒板の前を歩きます。


「俺の本命は、『別の目的に使用した』だ。『こぼす』も『飲む』も『捨てる』も合理的な理由づけができない以上、通常では考えられない目的でコーヒーが使われてしまったと考えればいい」


 でも、そんなことあり得るのでしょうか? コーヒーなんて飲む以外に何に使えるんですか?


「それを考えるのさ、美月。これは頭の体操なんだから」

 まあ、考えるのは主にシュータさんと作者さんなので、わたしは一向に構わないのですが。

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