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竹本美月の公理8  作者: 日野ねぎ
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珈琲と公費4 あのOPでウルトラマン連想できないオタクまじ萎えるぜ

「コーヒーは完全に消えていない? どういうこと?」


 シュータさんに見つめられます。あら、なんだか恥ずかしいです。


「えっと、コーヒーカップの底には少しだけ残っていたのです。水滴程度の微量のコーヒーが」


 ですから、わたしとノエルくんはコーヒーが飲まれてしまったと勘違いしたのでした。


「シュータさんが最初にされた質問――『カップは洗われていたか?』――これは大事な疑問ではないですか?」


 シュータさんは、恐らく「カップが洗われていない」=「こぼした」と考えたようです。ですが、わたしはそうは思いません。


「それが何か問題でも?」ノエルくんが言います。

「もしわたしがこぼしてしまって罪悪感を覚えたなら、こぼした分を拭くだけじゃなくてカップまできちんと洗います」


 こぼした人は、放置したのです。倒したカップを洗わずに。


「言われてみれば、こぼしたカップは最低でも水洗いすれば良いな」シュータさんは言います。


 生物室の長机には一列に小さな蛇口・排水溝が一つと、教室の横に流し台が一つ。こうして水道が備え付けてあります。容易に水洗いは可能です。


「生物室のテーブルはお世辞にも舐められるほど綺麗じゃない。またそのカップでコーヒーを飲むことになるんだから、倒したものを立てるだけじゃあな」

 シュータさんはアグリーです。


「単に、そこまで気が回らなかったのでは?」ノエルくんが言います。


「そんなやつが几帳面にこぼしたものを拭き取るのも、変な話だぜ」とシュータさん。

「それに、阿部さんなら洗いますよ」わたしも援護です。


「なら、チャラ田先輩がこぼしたんだ。あの人はガサツそうです」

 ノエルくんは、シュータさんやわたしの意見に容易に賛成しません。懐疑論者というのが、ワトソンくんの役目なのです。これはシュータさんの思考を深めるのに役立ちます。


「コーヒーをこぼした犯人は、中途半端な証拠隠滅を図った。わざわざトイレに行ってトイレットペーパーを持って来て、それを拭き取り、またトイレに行ってそれを流し、平然と立ち去ったにもかかわらず」


 そして阿部さん、チャラ田さん、福岡さんは試飲役を任されているので再びここへ戻って来るのです。こぼしたことを黙ったまま。いくら何でも、面の皮が厚すぎます!


「美月の言いたいことはわかったよ。アイツらがこぼしたんじゃない。やっぱりアイツらなら、こぼしてメンゴメンゴくらいは言いそうなものだ」


 「メンゴ」は言わないと思います。


「だよね。素直に謝ってこないっつーことは、だ。犯人はその三人じゃないな?」

「やはり、お三方とも嘘は吐かれていない」


 シュータさんとわたしは、そういった結論に至りました。


「では、何が起きたのでしょう?」


 ノエルくんは当惑顔です。それはそうです。わたしだって、こんな複雑な話になってしまっては、事態が迷宮入りしたように思えます。


「今回の問題は、珍しいケースだ。ホワイダニット(なぜ)を考えると行き詰まって、ハウダニット(どうやって)は問題ではない。フーダニット(だれ)でもないし、アリバイトリック(いつ)でもない。ましてやフェアー(どこ)でもない。そう、ワットダニット。この生物室で、()()行われていたのか? だな」


 シュータさんが得意顔でわたしたちに言い放ちます(ドヤ)。カッコいいです(これはお世辞ではなく、わたしはシュータさんが世界一いけめんだと思っています。本当です。今度写真を見せます)。


「ここで、大胆にも外部犯による犯行と仮定して、決めつけてしまおう。冨田や福岡もあとで来るんだったか? それはそのとき訊きただせばいいや。今回のケース、たぶんあいつら無辜の市民の仕業じゃない」


 外部犯……。誰かが生物室に来て、これを行ったと?


「あり得ん話じゃない。生物室の扉はオープンだった。違うか?」

「扉はしまっていました」


 ノエルくんが開けてくれたのです。中で暖かい空気とコーヒーの匂いが滞留していたので、窓も閉まっていたかと。


「カギは、開いていたよね?」

「ええ。恐らく」


 誰でも入ろうと思えば、入れたのでしょう。でも特別棟のこの教室に、用事がない生徒が来るでしょうか? シュータさんはまた歩いて、黒板の前、教壇に上がってコーヒーメーカーの近くに立ちます。先生姿が似合いそうなお方です。


「ここで、外部犯が取った行動を大まかに、三つに絞る」


 シュータさんは白墨チョークを持ちます。※チョークに「白墨」という当て字をするのを、作者さんはやってみたかったけど、その機会が無かったそうなので、ここで不自然でもやらせてあげて下さいね。


「一、コーヒーをこぼした。誤魔化そうとして拭き取るだけ拭き取り、逃げた」


「二、コーヒーを飲み干した。逃げた」


「三、コーヒーを捨てた。逃げた」


「四、コーヒーを別の目的の何かに使用した。逃げた」


 シュータさんは書き終えると、わたしとノエルくんを見下ろします。




――「さあ、美月。また推理の時間だよ」

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