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RPGの『勇者』に憧れたことはありますか? ~最強の社畜勇者は田舎でのんびり暮らしたい~  作者: きなこもち


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4. 勇者レクスは苦悩する



『えっと……夫婦になったから、子供を作らないとなんだよね』


頬を染め、はにかんだように笑う少女(ルサールカ)はとてつもなく可愛くて、綺麗で。


正直、あれで揺らがない男……というより生き物はいないんじゃないかとレクスは思う。

致死的凶器(リーサルウェポン)級の美貌で、軽率にそんなことを言わないで欲しい。

真面目に、心臓が止まるかと思ったのだから。


……まあ、彼女(ルサールカ)の「子供を作る」という認識に、相当なズレがあったことが直前で発覚したため、結婚初夜の関係は清いままで終わっている。


どうやら、男女が抱き合って眠る、という言葉をそのまま受け取っていたらしく。


『えへへ……ちょっと恥ずかしいね』


……と言いながら、自分の胸に顔を埋めて目を閉じるルサールカに、レクスは内心で悶えていた。


いや、可愛い。

可愛すぎるのだが、流石に生殺しがすぎないかこれ。


わかってる、自分がヘタレだということは。

ただ、考えても見て欲しい。


相手は前世で学生時代から10年、そして今世で生まれて19年、ずっと想い続けてきた推し(ミルフィーナ)と瓜二つの美少女である。


ただでさえ心臓が持たないし、その美少女は性的な知識が皆無ときた。


……童貞(レクス)には荷が重すぎたのである。 






「……おい、さっきから手が止まってるぞ」


結婚式から丸一日空き、書類が山積みとなった執務室にて。


レクスを咎めたのは勇者パーティの魔術師であり、現在はレクスの補佐兼、王宮筆頭魔術師となったゼノ・ハルモニアだ。


腰まで届く長い銀髪に、青く澄んだ瞳の綺麗な、どう見ても美少女にしか見えない美青年である。

ちなみに身長も男性にしてはかなり低く、華奢なため、声を聞くまではレクスも女性だと勘違いしていたくらいである。


長い銀髪を切れば多少は男性らしく見えるかもしれないが(正直大差無いのではないかとレクスは疑っている)、魔力を溜める役割があり、軽率に切ることができないのだと、非常に苦々しい口調で説明してくれた。


「ごめん、ちょっと考え事してた」

「……もしかして、押し付けられた魔王の娘が原因なのか?」


正直、ゼノからこんな言葉が出てくるとは意外だった。

勇者パーティの仲間とはいえ、王国騎士団長となったグレンなら兎も角、普段からかなりクールなゼノの、ぶっきらぼうながらも気遣いに満ちた言葉に、レクスはちょっと感動した。


なにせ初対面では「気安く話しかけるな、平民が」と、かなりドスの効いた声で威嚇されたのだ。

たった数年で凄まじい精神的成長である。


「……その視線やめろ、虫酸が走る」

「どんな視線?」

「その、妙に生暖かい、出来の悪い子供の更正を喜ぶ親馬鹿のごとき視線だ!」


ゼノに読心能力はなかったはずなのだが、何故バレてしまったのだろうか。


「ごめんって。ちょっとゼノの成長にお父さん感動しちゃって」

「誰がお父さんだ! やめろ、頭を撫でるな、そもそも俺とお前は同じ歳だろうが!」


ゼノがそろそろ本気で嫌がってきたので、レクスは仕方なく手を放した。

ゼノは好感度を下げすぎると挽回にはかなりの時間を要するため、仕方がない。


「まあ、魔王の娘……ルカのことでちょっと、迷いがあったのは事実だよ」

「……ルカ?」

「ああ。妻の、ルサールカの愛称なんだ。お互い仲良くなるために、これからはそう呼ぶことになってて」


ちなみに、ルサールカはレクスのことをそのまま、レクスと名前で呼ぶこととなった。

なお旦那様呼びは破壊力がありすぎて心臓が持たないため、普段は控えてもらうよう説得済みである。


「……魔族なのに、そんなに気を許して大丈夫なのか」

「ああー、うん。大丈夫だと思う。俺も最初は警戒してたけど」


ものすごく疑わしそうな目を向けるゼノに、普通はそう警戒するよね、とレクスも内心で同意する。


「ルカが生活に慣れ始めたら、紹介するよ。会ったら分かると思うけど、とっても良い子だから」


結婚式当日や初夜、そして昨日の事件を思いだし、レクスは思わず苦笑いした。


「……驚いた」

「なに?」

「いや、魔族を押し付けられて、かなり嫌がってたから」

「まあ、そりゃあね」


魔族が優勢だった戦線を、無理やり押し返したのは勇者(じぶん)だという自覚はある。

きっと魔王の娘であるルサールカからは恨まれているのだろうと思っていたし、正直レクス自身も、魔族全体に対しては良い印象を持たない。


「ただ、ルカ自身はすごく良い子だし、一生懸命なんだよね。突然決まった結婚だけど、より良い関係になれるよう頑張るって言ってくれて」


……結婚から僅か二日しか経たないのだが、正直レクスは推し(ミルフィーナ)の姿とか関係なく、ルサールカの魅力に白旗を上げていた。


ミルフィーナとは対局な、素直で、少し抜けていて、でも一生懸命な、天使のような笑顔の可愛い女の子。


誰だって好ましく思わないはずがない。


理想を拗らせていた自覚のあるレクスとしては、驚くばかりである。


「なら、俺も頑張らないとなぁ……って」


言っていて恥ずかしくなってきたため、最後は尻すぼみになってしまった。


「仲が良いようでなによりだ」

「まあね……」


ゼノの生暖かい視線が痛かった。


「魔王の娘は良い奴だった。結婚生活も良好そう。一体何が問題なんだ?」


首をかしげるゼノに、レクスは内心でため息をついた。


そう、ルサールカはとても良い子なのである。

おまけに推し(ミルフィーナ)と瓜二つの絶世の美少女。


普通は文句なんて、あるはずもない。

……ない、のだが。


「……眠れない」

「……は?」


そう、一つ切実な問題があった。


「眠れないんだ。ここ丸二日、眠れなくて」


だって、ルサールカが胸に抱きつきながら眠ってしまうのだ。


幸せそうにレクスを湯たんぽ代わりにするルサールカからは、風呂上がりの良い香りが漂ってくるし、妙に柔らかな二つの脂肪(あえて意識を逸らしている)が当たってくるし、レクスとしては眠るどころではない。


「眠る時なんだけど、ルカが抱きついたまま眠っちゃうんだ。それ自体はめちゃくちゃ可愛くて、嬉しいし幸せなんなけど。その、俺としては色々しんどくて」

「待て待て待て待て、夜の話をするなら他を当たってくれ。ほら、グレンとかどうだ。あの女好きなら喜んで相談に乗るだろうよ」


ぎょっとしたように席を立つゼノの肩を、レクスは掴んだ。


グレンは無理だ。


だってグレンは生粋の陽キャ、リア充だ。

……童貞だと知られれば、本気で心配されそうなのである。


レクスが童貞だと知っていて、なおかつ相談を絶対に他言しない、なんやかんやお人好しなゼノを逃す訳にはいかなかった。


「大丈夫、夜の話になりようがないから」

「なりようがないって、まさか」


はっとしたように目を見開くゼノに、レクスは重々しく頷いた。


「子供を作る方法を、それとなく伝えてくれる女性を探してて。ほら、貴族の女性ってそういう教育を受けるって聞いたことがあるし」

「レクス……お前、本当に経験がなかったのか」

「信じてなかったの!?」


魔王を倒すまでは必死だったし、戦争が終わってからも魔物の駆除で忙殺されていたのだ。

まともに接した女性は、勇者パーティの聖女であったアリスくらいである。


「いや、だって散々アプローチされてただろ」

「いつ!? 誰に!?」


全くもって身に覚えがない。


そもそも、勇者となる前は単なる……どころかものすごく貧乏な平民であり、いつ死ぬとも分からなかった男である。

好きになってくれる女性がいたとは思えない。


「いや、その……」

「……いいよ、慰めてくれようとしたんだよね」


言葉を濁すゼノに、レクスは内心で涙が止まらなかった。

……ちなみにゼノは同じ童貞だが、レクスと違ってモテない訳では決してない。


ゼノは思わず息を呑むような儚げな美貌をしているし、歴代最年少という若さで筆頭魔術師となったエリートだ。

加えて実家も名門貴族で、文句の付けようもない優良物件。


モテないはずがない。


ただ、それにもかかわらず浮わついた噂が皆無なのは、女性にトラウマがあるためだ。


……子供の頃に、今以上に女の子然とした容姿を姉たちに散々からかわれたせいで、未だに恐怖があるのだと少し怯えた様子で教えてくれたのだ。


「頼む。こういう相談ゼノにしかできないんだ」

「全然嬉しくない。けど、お前に倒れられるのは正直困るから、誰か手配できないか実家(ハルモニア)に掛け合ってみる」

「ありがとう、本当にありがとう! もう、どうしたら良いのか悩んでて……」


妻が可愛すぎて辛いが、本当に辛いことってあるんだと、レクスは真剣に実感していたのである。

……どこかで仮眠を取らなければ、早々に限界を迎えるだろう。


「わかったから。……あ。一応、一つ約束してほしい」

「え、なに? もちろん報酬なら弾むつもりだけど」


他家の使用人を借りるのだ、相応の筋は通すつもりである。

だが、ゼノは静かに首を横に振った。


「アリスには、絶対に相談するな」

「アリスに? いや、流石に女の子にこんな相談できないよ……」


しかも相手は、清廉潔白を絵に描いたような、完璧な聖女様である。

……公爵家のやんごとなきご令嬢を相手に、こんな馬鹿げた(しかし切実な)相談はできない。


「ならいい。早急に手配してやるから……しばらくそこで横になってろ」


ゼノが指し示したのは、来客用のソファーだ。

重厚な革が張られた、高級感のある代物だが……執務室が書類に埋もれてからは、ほぼ使われることなく放置されてしまっていた。


「……いいの?」

「言っただろ。今お前に倒れられるとこの国は破綻だ。とっとと休め。その間は俺が埋めてやる」


素っ気なく言うゼノがカッコよすぎた。

本当に良い奴が過ぎる。


「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、少しだけ」

「ああ。緊急時には容赦なくたたき起こすから安心しろ」


ゼノの容赦なくは恐いな、なんて思いながら、レクスはソファーに横になり、静かに目を閉じた。


さらにブランケットを頭から被り、光を完全に遮断する。


せっかくゼノが作ってくれた時間である。

一秒たりとも無駄にはできない。


起きるのは睡眠サイクルと残る仕事の量、また回復する体力を考慮すると1.5時間後が最適だと、爆速で結論を出した。


……前世の社畜時代に調べまくった賜物である。









ほどなくして、穏やかな寝息をたて始めたレクスをちらりと見たゼノは、小さくため息を吐いた。


本当に困った勇者である。


こっちの気も知らないで、暢気に笑う姿に途方に暮れた日は両手では収まらない。


「……アリス、敵はかなり曲者みたいだぞ」


久しく会っていない友人に向けて、ゼノはそっと呟いた。


ゼノ

→長い銀髪と青い瞳の、美少女然とした魔術師。

 背が低いことがコンプレックス。

 一度デレた相手にはチョロイン化する。

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