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RPGの『勇者』に憧れたことはありますか? ~最強の社畜勇者は田舎でのんびり暮らしたい~  作者: きなこもち


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3/6

2. 勇者レクスは動揺する




堕天使ミルフィーナとは。




月城 琥珀を始めとして、多くのRAGNAROK(ラグナロク)ユーザーを狂わせた最強にして最高の絶対的ヒロインである。


実装と同時に完凸させるユーザーが続出し、彼女が少し登場するだけで某呟く系SNSのトレンドはRAGNAROK(ラグナロク)一色となった。


当然琥珀も完凸までガチャを回していたし、最適装備も一式フル強化済みである。

さらに公式グッズや小説、ゲームなどは抽選が必要なものを除けばほぼコンプリート。

捧げてきた時間や金は膨大だが、まったくもって後悔はない。


彼女以上に魅力的なヒロインなど、存在しないと断言できるのだから。




……だから、見間違えるなんてあり得ない。




「堕天使ミルフィーナ……?」


生身の推しを目にしてもなお、レクスは信じられない気持ちでいっぱいだった。


なにせ、今まで誰一人としてRAGNAROK(ラグナロク)登場人物キャラクターと遭遇してこなかったのだ。

まさか遭遇一人目が推し(ミルフィーナ)になるなんて、思ってもみなかった。


いや、というかそもそも。


魔王の娘は「ルサールカ」という名前だったはずだ。

断じて「ミルフィーナ」ではなかった。


ただ、目の前の少女を食い入るように見つめるも、髪や瞳の色、背格好、そして異常に整った顔立ちといい……ミルフィーナとの違いを何一つ見いだせない。


『あなたの未来に、私は不要だから』と。


ゲームの終盤。

そう笑って告げた彼女の喪失を、RAGNAROKユーザーの全員(レクス調べ)が嘆き、そしてその魅力を讃えたのだ。


あ、まずい。


そう、気付いた時には遅かった。

レクスの頬を、涙がしとどに伝っていた。


「だ、大丈夫!?」


突如泣き出した勇者を目にして、魔王の娘は少し慌てたように、そして心配そうにこちらに駆け寄ってきた。 


何気ない姿ですら絵になるって、一体どういうことだろう。


彼女のいる場所こそが世界の中心だとでもいうような、全てを跪かせる、神の造りし至高の姫君。


……紛れもなく途中までは、そうだったのだが。


「わ、わ、あっ……きゃぁぁあ!」


突如、なんとも気の抜ける、すっとんきょうな声が響いた。

声の主は目の前の少女に他ならない。


どうやらウェディングドレスの裾を踏んだらしく、足元が浮き、その身体がふわりと宙を舞った。


まるで、スローモーションのようだった。


特徴的な深紅の瞳が驚きで丸くなり、艶やかな黒髪と純白のドレスが、視界を彩るかのようにぶわりと広がる。


そして。


少女はべしゃりと、顔面から盛大に着地した。


「……え、え、大丈夫!?」


一瞬の静寂の後、今度はレクスが慌てる番だった。


「……う、ううぅぅ」


幸い大きな怪我はなさそうで、小さく呻きながら起き上がった少女はぷるぷると肩を震わせ、顔を真っ赤に染めていた。

……羞恥でどうにかなりそうらしく、見てはいけないものを見てしまった罪悪感がすごい。

ただ、そんな姿さえとんでもなく可愛い。


可愛いのだが……なんだろうか、このとてつもない違和感は。


「……笑えば、いいよ」


「……え?」


キッとこちらを睨み付けてくる少女だったが、状況が状況だけに全くもって恐さがない。


「笑えばいいって言ってるの! ボクなんて魔王の娘なのにそそっかしくて、ポンコツで、いつだってバカにされてきたんだから!」


えぐえぐと泣き始めた、まるで濡れた子犬のような魔王の娘の姿に、レクスはとてつもない動揺に襲われた。


泣いている女の子を慰めた経験なんて皆無、かつ相手はとんでもない美少女。

前世から続く生粋の童貞には、ハードルが高すぎである。


しかも、動揺の理由はそれだけではない。

目の前の少女は……「推し(ミルフィーナ)」というには解釈違いが過ぎるのだ。


だってミルフィーナは「至高の個」として神に生み出された、完璧な存在なのだから。


いつだって優雅で美しく、躓いて転ぶ、ましてやこんな風に感情のまま泣き出すなんて、あり得ない。


「言っとくけど、ボクは姉様がたと違って何もできないからね! ろくに魔力も筋力もないお陰で、その辺のスライムにだって勝てないし!」


なにやらとんでもないことを捲し立てる少女に、廊下が騒がしくなったのをレクスは聞き取った。

おそらく、魔王の娘の泣き声を聞き付けた使用人たちの足音だろう。


ミルフィーナじゃ、ない?

というか、なんか俺が泣かせたみたいに見えないかなこれ?


混乱しすぎた結果、冷静になることを今ほど実感したことはない。


「きっとここでもバカにされて、いじめられるんだ……。せっかく逃げられたのに……!」


レクスは遠い目になりつつ、なんとか目の前の少女を落ち着かせようと、視線を合わせるように膝を曲げた。



……こうして、勇者レクスと魔王の娘ルサールカの、愉快かつ波乱に満ちた結婚生活は幕を開けた。


片や、魔王を倒した史上最強の勇者。

片や、スライムにすら勝てないポンコツ姫。


次々と巻き起こるトラブル、事件、そして命の危機。

散々振り回されることとなるレクスだが……彼は後に、こう語った。


『可愛いので全部OKです』、と。









レクス

→勇者。あまりにも強すぎて、魔族から冷酷無情などと恐れられている。

ミルフィーナのことになると常識を忘れる社畜。


ルサールカ

→魔王の娘。RAGNAROKのヒロイン、ミルフィーナと同じ容姿をした絶世の美姫。ボクっ娘。

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