第58話『勝ち抜きバドミントン』
■ 勝ち抜きバドミントン
地球一家6人が新しい星のホストハウスに到着すると、ホスト夫妻に歓迎された。彼らには17歳の長女ラクサ、15歳の次女レキサ、それに10歳の長男ロンドがいるそうだ。
HMからさっそく、翌日の予定を聞かされた。
「明日はバドミントンの勝ち抜き戦をします」
バドミントン?
「老いも若きも、男性も女性も、公平に楽しめるスポーツといえばバドミントンしかありません。皆さん6人と私たち家族5人、そして私たちの親戚も5人招待しましたから、全部で16人、誰が優勝するか楽しみです」
「バドミントンなんて僕は久しぶりだな」とジュン。
「僕、やったことないよ。やりたくもないし、気が重いな」とタク。
HMは、タクの弱気な発言を完全に無視し、みんなに提案をした。
「この近所に体育館がありますから、観光のついでに練習してきてください。対戦相手のロボットもいますから、一人でも練習できますよ」
ロボットが相手? それはすごい。
地球一家は、観光の後、紹介された体育館に寄ってみた。バドミントンの練習がしたいと申し出ると、受付の係員が答えた。
「ロボットは2台ありますけど、あいにく夕方まで貸出中なんですよ。ただし、お二人ずつで練習するのならば、ちょうどコートが3面あいています」
では、二人ずつペアになって対戦の練習をしよう。年齢順に父と母の対戦、ジュンとミサの対戦、タクとリコの対戦に決まった。
「バドミントンのシングルスって、どういうルールだっけ?」とジュン。
「この星のルールは知らないけど、地球では21点先取したほうが勝ちよ」とミサ。
「じゃあ、そのルールでやろう」とジュン。
こうしてジュンとミサのペアは対戦を開始した。そして驚いたことに、21対0でミサの完勝だった。ジュンが感心して言う。
「ミサ、強いな。僕の完敗だ」
「バドミントンは好きだけど、こんなに勝てるとは思わなかったわ」
二人が近くの椅子に座って汗を拭いていると、父母とタク、リコも対戦を終えて戻ってきた。
「お父さんとお母さんはどうだった? どっちが勝った?」とミサ。
「なんと、21対0でお母さんの完封勝ちだよ」と父。
「お母さん、すごいね」とジュン。
「自分でもびっくりしたわ。タクとリコはどう?」と母。
「21対0でリコの圧勝だよ」とタク。
「リコもすごいな。というか、タクはリコを相手に1点も取れなかったのか」とジュン。
「もうそれ以上は聞かないでよ」とタク。
「つまり、3組とも一方的な勝利だったのか。こんなケースも珍しいな」とジュン。
「ねえ見て、あれ」
ミサが指をさした先には、ロボットを相手にバドミントンの練習をしている二人の女性がいた。二人とも、かなりの腕前だ。
地球一家が家に戻ると、HMが声をかけた。
「バドミントンの練習、してきましたか?」
「はい。二人ずつに分かれて試合をしたら、なんと3組とも21対0の完勝で……」
ミサがそう答えると、HMは、さも当然のように答えた。
「それはそうですよ。何回やっても同じ人が勝ちます。少なくともこの星では、バドミントンはそういうスポーツです」
地球一家が説明を聞いて目を丸くしていると、HMはさらに話し続けた。
「百回やろうが千回やろうが、同じ人が勝ちます。それから、もう一つ。じゃんけんのような3すくみの状態は絶対に起きません。例えば、私が夫に勝ち、夫が息子に勝つならば、私は必ず息子に勝つのです」
なるほど。それにしても、不思議な話だ。
「ただし、明日になると、それが変わる可能性があります。みんな今晩中に練習した分だけ、寝ている間に強くなるので、明日には今日負けた相手よりも強くなっているかもしれません」
なおさら不思議だ。
「ただいま」
その時、ホスト夫妻の二人の娘が帰ってきた。地球一家は目を見張った。バドミントンのロボットと練習をしていた二人だったのだ。
「明日は勝ち抜きバドミントンだから、気合入れて練習してきちゃった」
長女ラクサが対抗心を見せると、次女レキサも負けん気を出した。
「私だって、負けてはいられないわ」
「お二人とも上手ですね。私たちは一つも勝てないかも」
ミサがそう言った時、家の奥から長男ロンドが話に割り込んできた。
「僕がいるから大丈夫。僕はバドミントンで勝ったことないから、どうせビリだよ」
そして夕食後、父が提案した。
「みんなでもう一度、バドミントンの練習に行ってこようか」
「行く、行く」
ミサが喜んで答えた。リコも積極的だ。ところが、タク一人だけが乗り気ではない。
「僕は疲れたよ。ここで休んでいるよ」
「だらしないわね」
ミサがそう言い残した後、タクを除く5人が体育館に再び出かけ、今回はロボットを相手に練習した。
タクが一人で客間にいると、HMが声をかけた。
「じゃあ、タク君にお願いしようかしら。ここにある色紙で金メダルを作ってほしいのよ。優勝者の首からかけるの。はさみとのりもここにあるから、お願いね」
タクが金メダルを作り終えた頃、地球一家5人が戻ってきた。ミサがメダルを手に取って尋ねた。
「タクが作ったの?」
「うん。明日のバドミントンの優勝者に授与するんだって」
「金メダルだけ? どうせなら、銀メダルと銅メダルも作りましょうよ。決勝戦で負けた人が銀メダル、そして準決勝で負けた人同士が3位決定戦をやれば、銅メダルの人も決まるでしょ」
「それもそうだね」
ミサも手伝い、金・銀・銅のメダルがそろった。
就寝時間となり、寝る前にミサがジュンに話しかけた。
「対戦相手によって、何回やっても勝ちが決まっているというのは不思議よね」
「これは、まるでカードゲームだ」
「カードゲーム?」
「ほら、よくあるじゃないか。いっせいのせでカードを一枚ずつ出して、それぞれのカードにパワーの数字が書いてあって、数字が大きいほうが勝ちってやつ。だから、何回やってもパワーの強いカードは強いし、弱いカードは弱い。でも、この星のバドミントンの場合は、各自のパワーの数字はわからなくて、どっちが勝ってどっちが負けるかだけが目に見えるというわけだな」
「なるほど、そういうカードゲームね。でも、練習した後、一晩たつとパワーが変わるというのは、また話が違うわ」
そして翌日、体育館には地球一家6人とホストファミリー5人、そしてホストファミリーの親戚5人、合計16人が大集合した。
「さあ、今からこの16人で勝ち抜きバドミントンを始めます。組み合わせを決めるから、みんな、くじを引いて」
HMが人数分のくじが入った箱を取り出した。くじをみんなで引いた後、組み合わせが発表になり、トーナメント表が書かれた紙が張り出された。まず一回戦として8組の対戦があり、勝った8名が二回戦を行って4名の勝者を決め、準決勝で2名勝ち残り、最後の決勝戦で優勝者が決まる仕組みになっている。タクはホストの次女レキサ、ジュンはHF、ミサはHM、ホストの長女ラクサは長男ロンドとの対決だ。父、母、リコの3人はいずれも、ホストの親戚との対戦が組まれた。
試合がさっそく始まった。タクは一瞬にしてレキサに敗れた。そして、なんと地球一家6人は全員一回戦で敗退したのだ。さすがにこれには父も母もがっかりした様子だった。
レキサは二回戦でHFに、三回戦でHMに勝ち、順当に決勝に進んだ。
決勝戦は、大方の予想どおりラクサとレキサの姉妹対決となった。そして、レキサが勝利して優勝者となった。HMがタクに声をかけた。
「金メダルを渡しましょう。作ってくれたわよね」
「はい、ここにあります。ついでに銀メダルと銅メダルも作ったんですけど」
「あら。じゃあ、せっかくだから2位と3位を決めましょうか」
「2位はラクサさんで決まりですよね」
ところが、ラクサは首を横に振った。
「いや、それは違う。銀メダルをもらう可能性がある人が、私を含めて全部で4人いるわ」
それを聞いて、ジュンが膝をたたいた。
「わかったぞ。カードゲームだとすると、2番目に大きい数字のカードを持っている可能性のある人物は、優勝したレキサさんと戦って敗れた4人ということだな。その4人とは、ラクサさんのほかに、ホストのご夫婦と、それにタクだ」
タクはそれを聞いて驚き、おびえるような声をあげた。
そして、4名で2位決定戦が行われた。今回も手作りのくじにより、タク対ラクサ、HF対HMという対戦に決まった。そして、ラクサとHMが勝ち、最後にラクサが勝って銀メダルが授与された。
「さあ、次は3位決定戦よ。候補者は、今日ここまでで私と対戦して負けた5人ね」
2位のラクサがそう言うと、タクが驚いた。
「えっ、また僕?」
くじ引きにより、5名のうち2名がまず対戦して1名が敗退し、4名に絞られた。
タクの対戦相手は、長男ロンドだった。
「僕、人生で一度もバドミントンに勝ったことないんだよ」とロンド。
「それは僕も同じだよ」とタク。
弱気な男子同士の対戦が始まり、あっけなくタクが勝って涙を見せた。
「勝った。生まれて初めて勝ったよ」
そして、3位決定戦の決勝戦は、勝ち上がったHMとタクとの対決になり、HMが一瞬で勝って銅メダルを手にした。
ミサがジュンに話しかけた。
「タクはバドミントンなんてやりたくなかったのに4試合もやらされて、私たち一家6人で唯一勝ち星をあげた。そして、あと一歩で3位というところまで行った。不思議な巡り合わせね」
「でも、そもそもタクが3位であるはずがないだろう。昨日は体育館でリコに負けたんだし、その後も一人だけ練習してないんだから」
ミサとジュンの会話を横で聞いていた父母が笑い、タクはいじけた顔になった。




