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第56話『ポニーの行き先』

■ ポニーの行き先


 次の星に向かう飛行機の中、ミサとタクが、次はどんな星だろうかと胸をわくわくさせながら話していた。タクがリコにも話をふると、リコは小さい声でボソッと答えた。

「もう帰りたい」

 タクが驚いて聞き返すと、やはりリコはこうつぶやく。

「地球に帰りたい」

 リコは、ホームシックにかかったようだ。ミサも心配そうにリコを眺めた。

「地球から離れてもう何日たったかしら。地球が恋しくなってくる頃ね」


 それから数時間が立ち、地球一家6人は星に到着して空港の外に出た。事前の約束どおり、空港の前の道でHM(ホストマザー)に歓迎された。

「ようこそ、我が星へ」

 HMは海の方向を指さし、一つの小さな島を示した。

「私たちは、あの島に住んでいます。今からさっそく向かいましょう」

 よく見ると、島と本土を結ぶ橋が架かっている。そこまで行くには、かなり遠いように見える。とても歩いては行けないだろう。車を用意してくれるのだろうか?

「歩いては行けませんので、皆さんのために一人一頭、ポニーを用意しました」


 HMは、少し離れた空き地まで6人を案内した。そこには7頭のポニーがつながれていた。

「さあ皆さん、お好きなポニーを選んで乗ってください」

 そう言いながら、HM自身がポニーの一頭にまたがった。

「この星のポニーはとても賢いんです。人間の言葉がわかるんですよ」

 まさか。信じられないという表情を浮かべながら、地球一家はポニーをそれぞれ選んでまたがった。

「それでは皆さん、ポニーに向かって『あの橋を渡って島の中央広場まで連れていって』と言ってください。我が家は、中央広場のすぐ近くにありますから」


 まず、ジュンがHMの指示に従った。

「あの橋を渡って島の中央広場まで連れていって」

 すると、ポニーは動き出し、橋が見える方向へと走り出した。ジュンは驚きながらも、ポニーが軽快に走っていく様子に満足で心地よさそうだった。

「あの橋を渡って島の中央広場まで連れていって」

 同じセリフを父、母、ミサ、タクも口にして、それぞれのポニーが橋に向かって走り出した。


 残るは、リコだけだ。リコが少しもじもじしていると、HMがリコの背中を押すように言った。

「リコちゃん、大丈夫? ポニーに頼むのよ。じゃあ、おばちゃんと一緒に言ってみようか」

 リコはうなずき、HMとリコは声をそろえて言った。

「あの橋を渡って島の中央広場まで連れていって」

 すると、どういう訳か、リコの乗ったポニーだけが全く逆の方向へと走り出してしまった。HMは、正しい方向に走っていくポニーにまたがりながら、不思議そうに振り返ってリコのポニーが進む方向を目で追った。


 リコを除く地球一家5人は、無事に橋を渡って島の中央広場に到着した。ポニーたちは広場の真ん中でストップし、5人はポニーから降りた。

「あー、気持ちよかった」とタク。

「かなり速くて怖かったけど、風を切って走るのが最高だったわ」とミサ。


 それから少し遅れて、HMが乗ったポニーも到着した。

 リコがいないことに気付いた地球一家が騒ぎ出すと、HMが説明した。

「皆さん、落ち着いて聞いてください。不測の事態が発生しました。リコちゃんの乗ったポニーが、全く違う方向に走って行きました」

 5人は驚きと不安の声をあげた。父がHMに尋ねる。

「そんな。どうにかならなかったんですか?」

「どうにもならなくて。確かに、私と一緒に声を合わせて、島の中央広場と言ったんですよ。そのとおりにポニーが動かないなんて、あり得ないんですけど。リコちゃんの様子に何か変わったことはありませんでしたか?」

「あ、もしかして」

 ミサがつぶやいた。母がすぐさま聞き返した。

「もしかして、何? ミサ、何かわかったの?」

「うん。ちょっと実験してみていいですか」

 ミサは、そう言いながらもう一度ポニーに乗った。そして、遠くに見える池を指さしながら、みんなにも聞こえるくらい大きな声で、ポニーに指示した。

「あそこに見える池まで行ってちょうだい」

 すると、ポニーは池とは反対方向に向かって走り出し、近くにある丘の上まで駆け上がった。

「どうして? 池と言っていたのに」

 ジュンが驚いて言うと、HMもうなずいた。

「確かに私も聞きました。どうして丘に向かったのかしら」


 すると、丘の上まで行ったミサのポニーは、Uターンしてみんなのいる所まで戻ってきた。HMは、誰よりも目を丸くしてミサに尋ねた。

「どういうことかしら? ポニーが違う方向に行くなんて、私は人生で経験したことがありませんし、うわさに聞いたこともありません」

 ミサは答えた。

「簡単なことです。池に行ってほしいと、確かに言葉では言いました。でも、心の中では丘を登りたいと念じたんです。ただそれだけです」

「なるほど。地球の皆さんの場合には、思っていることと言っていることが違う場合があるのですね。この星では、それは絶対にありません。思っていることをそのまま話すだけなんです」

「それで、この星の皆さんは気が付かなかったんだわ。ポニーたちは人間の言葉がわかるんじゃなくて、人間の気持ちがわかるのよ。乗った人が行きたいと思っている場所に連れていってくれる、そういう動物なんだわ」


 ミサの説明を聞き、HMは突然、ポニーに乗った。何も話しかけずにいると、ポニーは突然走り出し、池まで向かうと、Uターンして戻ってきた。HMは驚きながらポニーから降りた。

「本当だ。今まで気付かなかった。試しに何も言わなくても、池に行きたいと思っただけで連れていってくれたわ。大発見よ」

 感激して話すHMを、母が遮った。

「それはそうと、リコはどこへ行ったんでしょうか? つまり、リコは島の中央広場に行きたいと口では言っていたけど、実は違う所に行きたかったということですね」

 HMは答えた。

「そうなりますね。何か手がかりはありますか?」

「行きたい場所と言っても、この星には到着したばかりだから、わからないわ」

 母が首をかしげた横で、ミサが言った。

「リコは地球に帰りたがっていました。ホームシックにかかっていたんです」

 これを聞いて、父も驚いた。

「なんということだ。リコが行きたいと思った場所が地球だったなんて。その場合、リコを乗せたポニーは、どこへ向かったんだろう?」

 この疑問に、ジュンが答えた。

「地球の方向といっても、どこまで走っても地球に行けるわけがないからな。普通に考えると、この星の中で地球に一番近い地点ということかな」

 その時、一人の男性が現れた。HMが彼を地球一家に紹介した。

「ちょうど良かった。私の夫です。天文学者なんです。地球の位置について調べてもらいましょう」


 全員は、近くにあるホストハウスまで移動し、HF(ホストファーザー)の部屋に入った。HFは、地球儀のような球体をくるくる回している。どうやら、これはこの星の模型のようだ。

「リコちゃんは、今から一時間前にこの方向に向かって走り出したということだね? まさにドンピシャだ。この星の中で、地球に一番近い地点を目指したのです」

「どこまで行けば、ポニーは止まるんですか?」

 ジュンがそう尋ねると、HFは困った顔で答えた。

「計算上は止まれません。この星は自転しており、さらにこの星も地球も公転しているので、地球に一番近い地点が動いているんです」

「永久に走り続けるということですか?」

「誰かが止めなければね。ただ、明日のお昼に、この星を一周してちょうどこの島の橋の所に来ます。そこでポニーを止めればいいのです」

「ポニーを止めることができるんですか?」

「僕の知り合いに、馬の調教師がいます。彼に頼んで止めてもらいますよ」


 HFの説明を聞いて地球一家は少し安心したが、HFは心配そうに話を続けた。

「ただし、計算どおりにそのコースを通ればの話です。ポニーが通る予定のコースの途中に、浅い川があります。この川には橋が架かっていないんです。ポニーはおそらく、川に入って走って横切ることになると思います。うまく川の中を走れればいいんですが、溺れてしまう可能性もあります」

 これを聞いて、みんなはいっそう不安になった。HFは星の模型を回転させながら、低い声で言った。

「リコちゃんは、今は人が誰もいない高原を走っているはずです。無事を祈るしかありません」


 そして翌朝、ホスト夫妻と地球一家5人は再び島の中央広場に集合した。

「リコが心配で、一睡もできなかったよ」と父。

「私も」とミサ。

「さあ、みんなで橋を渡って、リコが来るのを待とうか」

 父がそう言うと、HMが提案した。

「皆さんは、先に空港へ向かってください。そうしないと飛行機に間に合わなくなります。調教師がポニーを止めた後、私がリコちゃんをバイクに乗せて、時間に間に合うように空港まで送りますから」

 この提案に従い、地球一家5人はそれぞれポニーに乗って空港に向かった。


 空港の入口でポニーを降りた5人は、そわそわしながらリコが運ばれるのを待った。大丈夫だろうか? 天文学者の計算どおり、ちゃんと橋の所を通るだろうか? そして調教師はポニーを止めてくれるだろうか? HMはここまでリコをバイクで運んでくれるだろうか?


 そろそろポニーが橋に到着している時間だ。その時、空港の係員が声をかけた。

「地球の皆さんに、お電話が入っています」

 嫌な予感がする。父が空港カウンターに立って電話に出ると、声の主はHMだった。

「残念なお知らせです。リコちゃんを乗せたポニーが、橋を通らなかったのです」

「え、どうして?」

「やはり、ポニーが川を渡れなかったのかも」

「そんな……。今頃、リコはどこに?」

「救助隊に連絡をとりましょう」

 そばで聞き耳を立てていた家族は、悲しそうな顔になった。


 その時、遠くのほうから馬の足音が聞こえた。

 空港の外に出ると、リコを乗せたポニーが走ってくるのが見える。

「リコだ。おー!」

 ジュンが叫んだ。父は走って電話口に戻り、HMに言った。

「リコが来ましたよ。空港に直接来たんですよ」

「どうして空港へ?」

「そうか、きっとリコの思いが通じたんだ。空港に行けば地球に帰れる。リコがそれに気付いた瞬間、その思いがポニーに通じて、ポニーは方向転換して空港まで運んでくれたんだろう」


 空港の入口に着くと、ポニーはゆっくり止まった。父がリコを抱きかかえた。

「怖かったかい? さあ、みんなで地球に帰ろう」

「え、どうして?」

 リコが不思議そうに尋ねたので、今度はミサが語りかけた。

「リコは地球に帰りたいんでしょ?」

「昨日はそう思ってた。でも今は平気。ポニーに乗った冒険がとても楽しかった。だから、もっと冒険を続けたい」

「そうか、リコは次の星に行きたいのか。次の星に行きたいという願望が通じて、ポニーが空港に向かって走ってくれたのね」

 よし、そうとわかったら、旅行を続けよう。もうすぐ飛行機の時間だ。6人は、搭乗口へと急いだ。

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