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第52話『リフォームロボット』

■ リフォームロボット


「おじゃまします」

 ホストハウスに到着すると、リコが元気よくドアを開けた。中からホスト夫妻と12歳の娘が出てきて、地球一家を歓迎した。

「どうぞ、中にお入りください」


 家の中を見回して、地球一家は感心した。まるで新築のようにきれいで、家具は整っており、掃除も行き届いていてちり一つ残っていなかった。母がHM(ホストマザー)に尋ねる。

「とてもきれいな家ですね。新築ですか?」

「いいえ、とんでもない。私たちはここに十年以上住んでいますよ」

「信じられません。壁も床も家具も、とてもきれいです。しかもお子さんがいるのに」

「それもこれも、リフォームロボットのおかげですよ。この家だけではありません。どの家もリフォームロボットのおかげで、新築同様にピカピカなんです」

 リフォームロボット? 地球一家が不思議そうな顔をすると、HMはもったいぶるような口ぶりで言った。

「別の部屋にありますから、あとでお見せしますね。毎日12時になると動き出して部屋の掃除や壁の塗り替え、それに電気製品の修理まで、12時半までのたった30分間でやってくれるんです」


 今度は、機械好きのジュンがHMに尋ねた。

「たった30分で? なるほど、そのリフォームロボットは、この家が新築だった時の状態を記憶しているということですか?」

「いいえ。正確に言うと、前の日の12時半のこの家の状態を記憶して、そのとおりの状態に戻すことを目的としたロボットなんです。それを毎日繰り返すことによって、この家はいつでも新築同様の状態を保持することができ、そればかりか、新しい家具を搬入しても新品同様の状態なんです」

「すばらしい! あ、あと15分ほどで12時になりますね。ロボットのお手並み拝見といきましょうか」


 すると、ホストの娘が突然言い出した。

「その前に、ねえ、パパ、ママ。いつものあれをやらない?」

「地球の皆さんの前でやるのは恥ずかしいわ」

 HMが賛成しかねて言うと、娘はさらに言った。

「あら、地球の皆さんもストレスがたまってるかもしれないわよ。みんなでストレス発散しましょうよ」

「そうね。じゃあ、やりましょうか」

 HMがうなずくと、ミサが不思議そうにHMに尋ねた。

「何を始めるんですか?」

「この家をめちゃくちゃにするんです。床を汚したり、壁紙をはがしたり、機械をたたいて壊したり」

「そんなことをして大丈夫ですか?」

「我が家ではしょっちゅうやりますよ。絶対に大丈夫です。リフォームロボットが、完全に前の日の状態に戻してくれますから。皆さんもご一緒にどうぞ。ただし、必ず12時までに終わらせてくださいね」

 HMがそう言うのと同時に、ホスト夫妻と娘は、床にゴミをまき散らしたり、壁紙をはがしたり、落書きしたり、やりたい放題やった。それを見習って、父、母、ミサ、タクも一緒になって壁紙をはがした。


 ジュンはリコに声をかけた。

「こっちの部屋は、もうやり尽くしたな。向こうの部屋に行こうか。でも、ストレス発散と言っても、僕はストレスなんてたまってないからな」

「リコも大丈夫」

 しかし、せっかくリフォームロボットの性能を確かめるチャンスなので、何か一つ壊そうかと思いつつ、ジュンが別の部屋を見渡すと、隅のほうに銀色の大きな筒のような物があった。ジュンがそばにあったバットで筒の脇を殴ると、少しへこみができた。


「私はあれにする」

 リコは、ジュンからバットを借りると、部屋の別の隅にあった人間の形をしたロボットに殴りかかろうとした。ジュンが慌てて止めた。

「おい、リコ。ちょっと待って。それはリフォームロボットじゃないかな。リフォームロボットを傷つけたら修理してくれないかもしれないぞ」

 ところが、リコがロボットを殴る直前にロボットのほうがリコを確保し、押し倒した。

「きゃ、助けて!」

 リコの叫び声を聞いて、HF(ホストファーザー)が部屋に入ってきた。

「注意しておくのを忘れていました。それは警備ロボットです。攻撃しようとすると逆に捕まえられてしまいますよ」

 HFがロボットの背中のボタンを押すと、ロボットはようやく動きを止め、リコを解放した。ジュンはHFに尋ねた。

「警備ロボット? この星に強盗なんているんですか?」

「強盗はいません。でも、野生の動物が襲いかかる可能性があるので、こうやって一台、警備用に置いているんです」

「そうだったのか」


 その時、HMの声がした。

「まもなく12時になります。皆さん、こっちへ来てください」

 リビングもキッチンも既にめちゃくちゃで無秩序の状態になっていた。時計がカチッという音を出して12時を示すのをHMが確認した。

「さあ、12時になりました。皆さん、見ていてください。リフォームロボットが30分間で全て元どおりに戻して見せますから」


 その時、隣の部屋から銀色の物体が入ってきた。ジュンが軽い叫び声をあげた。ジュンがバットで殴った銀色の筒だったのだ。HMが言う。

「皆さんに紹介するのが遅くなりました。これがリフォームロボットです」

 ロボットは、筒の底の部分から車輪を出して動き回り、頭の部分からカメラを出して辺りを見回していた。ところが、リビングの中央に到着したロボットは停止し、何もしなくなってしまった。HMが首をひねりながら言った。

「おかしいわね。今から腕を出して、いろいろな作業を始めるはずなんだけど」

 ジュンが慌てて声を上げた。

「ごめんなさい。さっき僕がバットで殴ったんです」

「きっと、それだわ。このロボットは衝撃に弱いのよ。殴ったりすると、中の機械がおかしくなる。本来なら穴から腕が出てくるはずなんですけど、出てこないわ」


 そして、ロボットは何もしないまま12時半になった。頭に付いているカメラが、ピカピカと光り、消えた。車輪を走らせて隣の部屋の元の位置に戻り、車輪も内部に収まった。

「こんなことになってしまって本当にすみません」

 ジュンが謝ると、HMは首を横に振った。

「いいえ。これがリフォームロボットだと教えなかった私たちが悪いんですから。さっきみたいにストレスを発散する時も、リフォームロボットだけは触れてはいけなかったんです」


 HFは、修理会社に電話をかけた。電話を切ると、みんなに言った。

「ロボットは、明日引き取りに来てくれるそうだ。でも修理に一か月はかかるらしい」

 一か月間、このめちゃくちゃの中で過ごすのか。ホスト一家はため息をついた。


 母が立ち上がり、HMに提案した。

「今からみんなでリフォームをしましょう。この家の中で一か月暮らすのはつらいでしょ」

「でも、毎日リフォームロボットが活躍してくれるから、私たち、掃除も修理も、自分たちで何もやったことがないんですよ」

「でしたら、せめて僕たちだけでやらせてください」

 父はそう言うとすぐに、家族を仕切り始めた。

「僕が壁の修理のリーダーになるから、お母さんは掃除のリーダーになってほしい。ジュンは機械に詳しいから、機械の修理のリーダーになってくれ。そしてみんなに指示を出すんだ。明日の出発の時間までに、できるだけのことをやろう」


 地球一家はうなずいたものの、どのようにすれば元どおりになるのか、その元の状態をよく覚えていない。困っていると、それを察したHMがバッグから小さなビデオカメラを出した。

「これがあるのを忘れていました。皆さん、この動画を見てください」

 6人が画面を見ると、それはリフォームロボットがこの家で働く姿を映した物だった。

「地球の皆さんが今日我が家に到着するのが12時を過ぎる可能性もあると思っていました。その場合、リフォームロボットの活躍を見ていただくことができないので、動画を見ていただこうと思い、昨日あらかじめ撮影しておいたんです。こんな目的で見ることになるなんて想定外ですが」


 動画は30分間再生され、画面の中の家の様子は完璧な状態になっていた。

 家を元どおりにする方法を理解した6人は、リフォームを始めた。ホストの3人は、感心しながらその作業を見守った。


 日が暮れ、そして日付が変わった。6人は寝る時間も削って作業を進め、午前11時頃には家の中の全てが元どおりになっていた。HMは頭を下げた。

「すごい! 完璧です。何もかも、元どおりです。地球の皆さんの技術はすごいですね。私たちは自分たちでリフォームしたことがないから、できるはずがないと、すっかり諦めていましたよ」

「これで我々も、心おきなく次の星へと出発できます」

 父がそう言いながら、部屋を見回した。ジュンの姿が見えない。


 その時、奥の部屋からジュンの声がした。

「皆さん、こっちへ来てください」

 全員が奥の部屋に移動すると、ジュンはリフォームロボットの前に立って言った。

「時間が余ったので、リフォームロボットを修理してみました。これで、今日修理に出す必要はなくなりましたよ」

「本当ですか? 修理に一か月かかると言われたのに」

 HFがそう言うと、ジュンは得意そうに言った。

「中の機械を見てみたところ、複雑な構造にはなっていませんでした。だから僕にもすぐ直せましたよ」

 HMは笑顔で言った。

「助かります。もうすぐ12時になります。ロボットがちゃんと直っているかどうか、ご出発前に確認できますよ」

「でも、家の中は新築同様にピカピカになったばかりだから、確認するのが難しいかも」

 ミサがそう言った時、リコが叫んだ。

「あ、鼻血が出た」

 リコの指に鼻血が付いていた。

「ちょうどいい。リコ、その鼻血を、そこの柱に擦り付けるんだ」とジュン。

「ちょっと、なんてことを言うんだ」と父。

「リフォームロボットの性能を確かめるチャンスだよ」とジュン。

 リコは、柱に鼻血を付けて汚した。


 時計の針は12時を示した。ロボットは、頭の部分からカメラを出してライトを光らせた。そして、柱の所に行って腕を出し、鼻血をきれいに拭き取った。ジュンは自慢げに言った。

「よし、合格だ。リフォームロボット、直っているぞ」

 みんなは安心した表情で笑い合った。


 ところが、ロボットは車輪を走らせてリビングに移動し、とんでもない行動を起こした。ゴミをまき散らし、床に落書きをし、壁紙をはがし、電気製品をたたき壊すなど、家の中を荒らし始めたのだ。全員が驚き、HFが叫んだ。

「これはいったい、どういうことだ!」

「ジュン、ちっとも直ってないじゃないか! それどころか、とんだ乱暴ロボットだ」

 父はジュンをにらんで怒鳴ったが、HMがジュンを擁護した。

「そうか、わかったわ。ジュンさんの修理は完璧ですよ」

 完璧? どうして?

「昨日お話ししたように、このリフォームロボットの使命は、前の日の12時半の家の状態を記憶して、そのとおりに再現することなのです」

 昨日の12時半の状態ということは……。気付いた時にはもう手遅れで、リフォームロボットは家の中を完全にめちゃくちゃにしてしまった。その力は非常に強く、制止しようとしても誰にも止めることはできなかった。

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