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第4話『アイスクリームショック』

■ アイスクリームショック


 今回のホストファミリーは、HF(ホストファーザー)HM(ホストマザー)と29歳の息子テグトの3人家族だ。地球一家6人が到着するとすぐに、スーパーのお菓子売り場に案内してくれた。テグトが親切に語りかける。

「皆さんにデザートをごちそうしましょう。お好きな物を選んでください」


 ミサはオレンジケーキ、ジュンはドーナツを選んだ。タクはカスタードプリンを選ぼうとしたが、『カスタードプリン』と書かれた札の下には、数字のランプがあるだけでプリンは置かれていない。

「カスタードプリン、品切れなんだ。でも大丈夫。このボタンを押してごらん」

 テグトはそう言って、『カスタードプリン』の札のすぐ下にあるボタンを指差した。タクがボタンを押すと、ランプに数字の『1』が光った。

「ほら、一分後にここに届くよ。国内のスーパーは地下のパイプで全部つながっていて、品切れの物は、近くのスーパーから探して、特急列車のようなスピードで運ぶんだ。一分後に届くということは、たぶん、隣の町のスーパーに残っていて、そこから取ってくるんだな」

 テグトが誇らしげに説明するのを聞き、みんなで立ったまま待っていると、壁の小窓が開いてプリンが飛び出てきた。テグトがタクにプリンを手渡す。

「ほら、来たよ」

「すごい!」


 タクの次は、リコの番だ。テグトがリコに尋ねる。

「リコちゃんは?」

「私はイチゴのアイスがいいな」

「イチゴのアイスも品切れだな。このボタンを押して」

 リコが『イチゴのアイス』の札の下にあるボタンを押すと、ランプに数字の『60』が光った。

「リコちゃん、60分、つまり一時間待っていれば届くよ」

「えー、そんなに」


 そこにHFが来て、ランプをのぞき込みながら話した。

「一時間? そんなはずはないぞ。ここから一番遠いスーパーから取り寄せる場合でも、30分で届くはずだからな」

「父さん、実は、今年に入ってからパイプを改良したんだ」

「どういうことだ?」

「あ、皆さんにはまだ言っていませんでしたけど、僕が、この地下のパイプを作っている会社の社長をやっています。去年までは父が社長だったんですけど、今年引退したので、僕が引き継ぎました」

 テグトは地球一家に向かってそう言うと、次にHFに顔を向けて話を続けた。

「去年までは、国全体が8つの地方に分かれていて、この辺は僕たち北部地方のスーパーとしかつながっていなかったけれど、今では、南部地方までスーパーが全部地下のパイプでつながったんだよ。だから、こんなふうに時間はかかるけど、全国のスーパーから品物を取り寄せられるようになったんだ。父さんの時代に比べて、さらに進歩しているんだよ」

「ううむ、そうだったのか」

 HFは渋い表情になった。


 リコが選んだイチゴアイスの到着まで、あと57分。全員静かにランプの数字を見ていたが、テグトが口を開いた。

「ちょっと時間がかかりすぎて大変だね。リコちゃん、ほかに欲しい物ある? もう一つ、買ってあげよう」

「じゃあ、イチゴのプリン」


 それから一時間ほど経過して、ジュンが客間に一人でいると、イチゴ好きのリコが、イチゴアイスとイチゴプリンを手に持って入ってきた。

「リコ、イチゴアイスが無事に手に入ったようだね。プリンもまだ食べてなかったの?」

「うん、今は一つしか食べられないや。もう一つは、夜にしよう。どっちにしようかな」

「アイスを先に食べちゃいなよ。溶けちゃうよ」

「そうだね。スプーン取ってこよう」

 リコはドアを開けて外に出た。ジュンはすぐさま立ち上がってドアを開け、叫んだ。

「おーい、リコ。やっぱりプリンを先に食べたほうがいいんじゃないか! アイスは、この家の冷凍庫に入れておけば溶けないと思うよ。プリンは傷みやすいから、先に食べたほうがいいよ。アイスは冷凍庫に入れておけば長持ちするから……。聞こえたかな。まあ、いいや、どっちでも」


 それからしばらくして、母が急に体調を崩し、ベッドで横になった。ミサ、HM、医者の3人が母のベッドを取り囲んで立った。母から体温計を受け取ると、熱が40度あることがわかった。ミサが医者にすがりつく。

「先生、早く薬を」

「残念ながら、熱に効く薬はありません」

「えー!?」

「熱を下げる効果があるのは、イチゴのアイスだけです」

「イチゴのアイス? バニラアイスじゃ駄目なんですか?」

「はい。この星では、熱を下げる薬はイチゴアイスなんです。地球のように医学があまり進んでいないので理由はわかっていないのですが、ほかのアイスを食べても熱は下がらないんです。とにかく、イチゴアイスなんです」


「私、すぐ買ってきます!」

 ミサはそう言って部屋を飛び出し、スーパーの菓子コーナーに行くと、HFとテグトがそこにいた。テグトが声をかける。

「ミサさん、どうしました?」

「母が熱を出したんです!」

「そりゃ、大変だ! じゃあ、すぐにイチゴアイスを!」


 アイスクリームのケースに向かうと、イチゴアイスは品切れである。

「すぐに取り寄せますよ」

 テグトは『イチゴのアイス』と書かれたボタンを押した。しかし、数字は表示されず、ピーという音が鳴った。

「あれ、なぜだ?」

 ミサが駆け寄ってテグトに尋ねた。

「もう在庫がないんじゃないですか?」

「そんなこと、今までに一度もなかったんだが……。国内に一個も残ってないなんて」

 テグトは何度もボタンを押すが、ピーという音が出るばかりだ。

「メーカーに電話して、問い合わせてみるか」

 そこへ、HMが現れてテグトに言った。

「イチゴアイス、買えなかったでしょ」

「あ、母さん。なんで知っているの?」

「今、テレビのニュースでやってるのよ」


 家に戻ってホストファミリー3人とミサがテレビを見入ると、アナウンサーがニュースを伝えていた。

「およそ30分ほど前、イチゴアイスが国内から全て売り切れるという前代未聞の事態が発生しました。メーカーが在庫の適切な管理を怠ったことが原因のようです」

 なんとかならないのだろうか。

「でも、皆さんご安心ください。メーカーは既に商品を作れる体制に入っています。千個は作れると言っていますので、今すぐ電話で予約すれば、今晩にはお手元に届くでしょう」

「あー、よかった」

 ミサは安どの表情になった。テグトは予約の電話を始めた。HMがミサに言う。

「ミサさん、ご安心ください。イチゴアイスは普段一日に百個も売れていませんから、予約すればすぐに手に入るでしょう」

「でも、熱を出している人はみんな欲しがっているんじゃ……」

「私たちは、めったに熱を出さないんです。今ちょうど熱を出して苦しんでいる人は、国全体で10人もいないでしょうから、すぐに買いたがる人は少ないと思いますよ」

「それを聞いて安心しました」


 しかし、テグトは落胆した様子で電話を切り、ミサに言った。

「駄目だ。イチゴアイスが手に入らない」

「え、どうして?」

「予約が殺到していて、一万人待ちの状態になっているらしいんです」

「なんで一万人も予約するんですか? 普段は一日に百個も売れないんでしょう? 熱を出している人が、今たまたま一万人いるということですか?」

「いや、それは違います。おそらく、イチゴアイスが一時的に全部なくなったというニュースを聞いて、国民がみんな不安に陥ったんだと思います。自分が今すぐに熱を出さないという保証はどこにもありません。アイスは長持ちしますから、早めに買って家の冷凍庫に保存しておこうと誰もが考えるのは当然でしょう」

「そんなこと、普段からちゃんと考えておかなきゃいけないはずなのに」

「まさに、ミサさんの言うとおりです。僕たちは、危機感がなさすぎたんです。ボタンを押せばどんな品物も必ず手に入るから、買い置きしようなどと考える人はいませんでした」

「それで、いざという時にこうなるんですね」

 ここでHFが口を挟んだ。

「だから私は、こういう時のために、国内を8つの地方に分けて、あえてパイプをつないでおかなかったのだ。分けておけば、どこかの地方で商品が足りなくなった時に、在庫が少なくなったというシグナルになるからね。ところが、君は8個のパイプを全部つないでしまった。だから、国内の最後の一個がなくなるまで気付かずに、今回のようなことが起きてしまうんだ」

「そうだったのか」

 テグトは、はっと目覚めたようにつぶやいた。その時、医者が寝室から出てくる。

「イチゴアイスはまだ手に入りませんか? 患者さんの病状が悪化しています!」


 みんなは相談し、近所の家を訪問して回り、イチゴアイスを持っている人がいたら譲ってもらおうということになった。


 それから30分後、無事に母の熱は下がった。近所の家を探そうとしているうちに、リコが帰宅し、まだ残っていたデザートを母に食べさせたのだ。といっても、イチゴアイスはリコが既に食べてしまっていた。母に食べさせたのは、リコが間違えて冷凍庫に保管して凍り始めていたイチゴプリンのほうだ。解熱作用をもつのは、アイスではなくイチゴだったのか。

 医者は、驚きを隠せない様子で次のように語った。

「凍ったイチゴプリンで熱が下がるのは、全くの予想外です。これは医学的な大発見かもしれません」

 それを聞いたリコが、これがニュースになって売り切れてしまう前に明日のイチゴのデザートを買っておかなければと、スーパーに向かって駆け出したのは言うまでもない。

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