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第31話『愛のミニチュアハウス』

■ 愛のミニチュアハウス


 今日のホストファミリーは、20代の兄妹とその両親だ。ホストハウスの前に地球一家6人が到着すると、リコが元気よく玄関のドアを開けた。

「おじゃまします」


「いらっしゃい、どうぞお上がりになって」

 HM(ホストマザー)は地球一家を家に招き入れ、リビングに向かいながら部屋を一つずつ案内した。

 娘のモノサの部屋、HMの部屋、HF(ホストファーザー)の部屋、そして息子のバレトの部屋。なんと、部屋ごとに机や棚の上にミニチュアハウスが置かれていることにすぐに気が付いた。最後のバレトの部屋には置かれていなかった。母が尋ねる。

「皆さん、ミニチュアハウスがお好きなんですか?」

「この家だけではないんです。私たちの星では、大人になるとみんな作るんですよ」

 モノサの答えに、地球一家は驚いた。

「自分が住みたいと思う理想の家を、ミニチュアで作るんです。簡単ですよ。材料はまだたくさん残っていますから、皆さんもぜひ作ってみませんか?」

 HMはそう言いながら部屋を出て、すぐに大きな箱を抱えて戻ってきた。

「壁を作るための板と、樹木用の針金はここにあります。小物も、ここにある粘土で作るんですよ。色は、ここにある絵の具で塗っていきます」

 HMは、箱の中身を一つずつ取り出して見せた。父が家族に提案した。

「じゃあせっかくだから、みんなで、自分の住んでみたい家を一軒ずつ、作ろうじゃないか」

 地球一家6人は、ミニチュアハウスをめいめい作り始めた。


「できた。よし、みんなのを並べてみよう」

 ジュンが並べ始めると、母はHMに言った。

「よろしければ、ご家族皆さんのも、ここに持ってきて並べませんか」

「それがいいわね。モノサ、あなたのも持っていらっしゃい」


 地球一家6人分とホストファミリー3人分のミニチュアハウスが、テーブルにずらりと並んだ。リコの作った家だけ、かなり不格好だ。

「ねえ、見て! お父さんとお母さんの、そっくり!」

 ミサが叫んだ。確かに、二つはかなりよく似ている。HMも感心した。

「すばらしいわ。今までに地球からいらっしゃった方のミニチュアハウス、いくつも見てきたけど、ご夫婦でこんなに同じ家ができたのを初めてみたわ。これ以上ないお似合いの夫婦ということよ」

 ミニチュアハウスが似ているというだけで、似合いの夫婦といえるのか?

「私たちには、とても大事なことよ。ほら、私たち夫婦の作った家もそっくりでしょ」

 HMの言葉に、母が同意した。

「そうですよね、私も気付いていました。でも、このミニチュア、まさに今住んでいるこの家ですよね。お二人とも、今住んでいる家をモデルにして作ったんじゃ」

「いえ、とんでもない。私たち、知り合う前にこのミニチュアを作ったのよ。そして、お互いのミニチュアがそっくりだとわかって、すぐに結婚したの。そして、二人が考える理想の家を建てたのよ」

「うわー、なんてロマンチックな恋愛なんでしょう!」

 ミサが感動すると、HMはさらに付け加えた。

「みんなそうなのよ。同じ家を理想と思う男女が結婚するの。この星の価値観では、住みたい家を見ればその人の全てがわかるのよ。そもそも結婚するということは、同じ家に住むということなのだから、どんな家に住みたいと考えているかがとても大事、いや、それが相手に望む全てなのよ」

「ちょっと見てよ、ジュンもミサも、とても個性的な家。二人とも、永久にパートナーには巡り合えないかもね」

 母がからかうのを聞いて、ジュンとミサは少しむっとなった。父がHMに尋ねた。

「ところで、お二人はどこで知り合ったんですか?」

「パーティーよ。結婚を望む男女が大勢集まるパーティー」

「なるほど。そのようなパーティーは、地球にもありますよ。そういえば、バレトさんは、まだ帰ってきませんけど、ミニチュアハウスを持ってパーティーに行かれているんですか?」

「いや、バレトは、今日は就職活動。就職の面接でもミニチュアハウスを使うんです。これを見れば人格がわかるから。結婚の場合と違って、就職の面接の場合は、いろいろなタイプの人を採用するためにミニチュアハウスを使うんですよ」


 その時、玄関のドアが開きバレトが入ってきた。

「就職試験、受かりました!」

 一同はバレトに拍手を贈った。


 そして翌朝、母が起きてリビングに行くと、モノサが挨拶した。

「おはようございます。せっかく来ていただいたのに、両親は仕事を休めなくて、ごめんなさい。今日は私が町を案内しますね」

「ありがとう。バレトさんは?」

「兄は、今日は朝から、パーティーなんですよ」

「パーティー? 結婚相手を探すパーティー? 朝から?」

「そうなの。大事なイベントだからはずせないんですよ。兄さん、結婚願望強いから」

 その時、バレトがかけこんできた。寝坊したようだった。

「兄さん、まだいたの! 遅刻よ」

「行ってくる!」

「財布持った? ハンカチ持った? 家持った?」

「家、おっと、忘れるところだった」

 モノサは、バレトにミニチュアハウスを手渡した。

「はい、一番大事な物を忘れちゃ駄目よ」


 しばらくして、ジュンとミサが入ってきた。ジュンがキョロキョロしている。

「あれ、僕の作った家がないよ」

「しまった、間違えて兄に渡しちゃったんだ。もう30分もたつのに、取りに戻ってこないわ。まだ気付かないのかしら」

 モノサはそう言いながら、時計を見た。

「私、届けに行ってきます。でも、留守番頼むのも悪いし」

「よければ、私たちも一緒に行っていいですか?」とミサ。

「それもそうですね。会場はすぐ近くですから」

 ミサは、さらに聞いた。

「あの、私も自分のミニチュアを持っていっていいですか? パーティーってちょっと興味があって」

「悪いけど、それだけはやめてください」

「は、はい」


 モノサ、ジュン、ミサの3人は、小走りに市民ホールまで歩いた。モノサが案内する。

「着きました。ここがパーティー会場です。ちょっとのぞいてみましょう」

 3人は、会場のドアを少し開けて中をのぞいた。若い男女が大勢おり、みんなミニチュアハウスを持っている。その時、一箇所で拍手が起こった。

「カップルが誕生したようね」

 モノサが小声で教えた。カップル? なんだか気が早いような。

「成立したカップルが出てくると思うから、出口をあけたほうがいいわ。結ばれたカップルは、もうパーティーには用がないから、速やかに会場から出ていくのが礼儀なのよ」

 モノサがジュンとミサに注意した時、若い女性が非常にうれしそうな表情で勢いよく飛び出してきた。その後ろから、バレトが困った表情で出てきた。何が起きたのか? バレトが女性に向かって叫んだ。

「誤解なんだよ。これ、僕のミニチュアじゃない。家から間違えて持ってきちゃった、ジュン君のなんだ。地球からの旅行者で……」

「え? そんな」

 女性は、笑顔から急に世にも悲しい表情に変わり、その場で泣き崩れてしまった。


「訳がわかりません。どういうこと?」

 ミサが尋ねると、バレトは女性の持っていたミニチュアハウスを指した。それは、ジュンが作った物にそっくりだった。驚くジュンに、バレトが言った。

「彼女は僕の持っていたこの家を見て、自分のとそっくりな家だから、勘違いして大喜びしちゃって。それで、これが地球からの旅行者であるジュン君のだと説明したら、この結果です」

「それは見ていてわかりました。わからないのは、この女性がなんであんなに大喜びして、そして今はこんなに悲しんでいるのか」

「大喜びする人たちは、何人も見たことがあります。でも、人がこんなに悲しんでいるのを見るのは、生まれて初めてです」

 バレトがそう言うと、モノサも同意してうなずいた。ミサにはわからず、理由を尋ねた。

「えっ、どうして?」

「僕たちにはない言葉、辞書にも載っていない言葉があります。何だかわかりますか?」

 バレトに尋ねられたが、ジュンもミサも、わからずに首を横に振った。

「『片思い』です。ここでは、相手に望む条件はミニチュアハウスが自分のと同じであること、それが全てなんです。だから必ず両思いになるんです」

「でも全く同じ家なんてあり得ないでしょう」とジュン。

「99パーセント似ていれば、それは同じ家とみなします。みんなこのように割り切っているんです。そうでないと、結婚した後にもっと家が似ている人を見つけてしまうと、後悔して不幸になってしまいますから」


 次に、モノサが言った。

「それからここには、『失恋』という言葉もありません。同じミニチュアハウスをもつ二人は、出会った瞬間、相手が理想のパートナーであることを確信します。あとはもう迷うことなんてしません。その日が結婚記念日なんです」

「彼女が泣いているのは、普通は絶対に経験しないような、失恋と同じ気分を味わってしまったからなのですね」

 ジュンはそう言い、バレトはうなずいた。

「そう。理想のパートナーを見つけたと思ったら、その人は地球に帰らなければならない旅行者だと知ったショックは計り知れません」

 やがて、泣き崩れていた女性は起き上がり、涙目でジュンに握手を求めた。


 お昼になり、地球一家はホストファミリーと一緒にマイクロバスで空港に向かった。

「なんだか、あの女性に悪いことをしてしまった」とジュン。

「ミニチュアを間違えたのは僕たちだから」とバレト。

「でも、私たちが、みんなのを並べてみようなんて言ったからこんなことに」とミサ。

 バレトは言った。

「でも、最後に彼女が言ってたんですよ。ジュンさんに会えて本当によかったと。パーティーに何度行ってもパートナーに巡り合えなくて、半ば諦めていたけれど、自信が出ましたって」


 バスは空港に到着した。

「そうだ、皆さんの作ったミニチュアハウス、これから旅行を続けるにはお荷物になってしまうでしょう。あそこに寄っていきましょう」

 バレトはそう言って、窓の外の小屋のような建物を指した。


 全員で小屋の入口まで歩くと、バレトは言った。

「ここには、地球の旅行者が滞在中に作ったミニチュアハウスが飾られているんです。縁結びの神様という迷信までできているんですよ。皆さんも、空いている所に飾ってください。手前が男性、奥が女性です」

 縁結びの神様か。ミサは、入口近くに置いてあったミニチュアハウスを見て叫んだ。

「私と同じ家!」

 確かに、ミサが作った家とウリ二つだった。


 しばらくして、地球一家は次の目的地に向かう飛行機に乗り込んだ。タクがリコに言う。

「お父さんとお母さんは、自分たちが理想の夫婦であることを再認識。ジュンとミサは、異性運が上がってきたと思い始め、みんな物思いにふけってる。誰も話しかけてくれないから、二人でゲームでもして遊ぼうか」

「うん」

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