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第14話『スポーツランドで子供対決』

■ スポーツランドで子供対決


 地球一家6人が空港を出た時、一台のマイクロバスが近づいて止まった。中にホストファミリー6人が乗っている。運転席からHF(ホストファーザー)が声をかけた。

「地球の皆さんですね。ようこそ。さあ、お乗りください」


 マイクロバスの中は、総勢12人になった。HM(ホストマザー)が説明する。

「うちもご覧のとおり、子供4人なんです。そして、お子さんの年齢を事前に伺って驚いたんですけど、うちと全く同じなんですよ。上から16歳、13歳、10歳、7歳。しかも、男、女、男、女の順で。そこで、今からみんなでスポーツランドに行くことを思い付いたんです。子供たちがいろいろなスポーツをして楽しめる施設なんですよ。個人競技の対戦もできて、勝った子供はその場で表彰されます。私たち、皆さんとちょうど年齢が同じだから、一対一のスポーツ対決をしたら面白いんじゃないかと」

 タクが困った表情で言った。

「えー、どうしよう。僕、スポーツはさっぱり苦手で」

「大丈夫。いろいろなスポーツから選べますから、一つでもお得意なものがあれば」

「いや、本当に得意なスポーツなんて何もないんですから。その点、兄のジュンは何でも得意だからいいですけど」

 確かに、ジュンはアスリートと呼べるほどではないが、ひととおり何でもこなす。

「私はリコさんとの対決ね。よろしく」

 ホストの次女は、隣に座っていたリコに握手を求めた。リコが慌てて握手する。次女は、リコと同い年とは思えないほど、リコと違ってよくしゃべる。おしゃべり対決じゃなくてよかった。


 スポーツランドに到着した12人は、広場に腰を下ろした。HMが立ち上がり、地球一家に向かって言った。

「今日は皆さんがゲストですから、お好きなスポーツを何でもおっしゃってください」


 第一試合は、長女同士の対決だ。水泳が得意だとミサが話すと、百メートル泳ぎで勝負することに即決した。

 ピストルの音を合図に、二人は同時に飛び込みクロールで泳いだ。ほかの10人は、プールサイドから声をかける。ジュンとタクが声援を送りながら横を見ると、父と母がさらに大声をあげてミサの名を連呼している。いい勝負をしていたが、やがてミサが遅れをとり、ホストの長女が先にゴール。係員の男性が駆け寄り、カメラを取り出して長女の顔写真を撮った。

「おめでとう。はい、勝利者に贈られるメダル」

 係員は長女の首にメダルを掛け、カメラのボタンを押した。すると、写真付きの小さな表彰状が出てきた。『あなたが勝利したことをここに証明します』と書かれており、その上に顔写真があった。係員は表彰状を長女に手渡した。

「はい。同じ物が広場にも張り出されるから、あとで見に行ってね」


 広場の掲示板の前に行ってみると、たくさんの写真付き表彰状が張り出されていた。ジュンは、写真を眺める父と母を横目で見ていた。


 次の試合は、次女同士の対決だ。リコが、縄跳びが得意だと言ったため、縄跳び対決に決まった。スポーツランドには、縄でも何でもそろっているようだ。


 体育館でホストの次女とリコが縄を跳び始めた。ジュンとタクが横を見ると、父と母が大声をあげて応援している。しかし、リコは失敗し縄にからまってしまった。係員の男性がホスト次女に駆け寄り、首にメダルを掛けた。ジュンがタクにささやく。

「僕たちの連敗だ。お父さんとお母さんの悔しそうな顔を見たか? 子供が同い年同士だから、ライバル心を燃やしているんだろうな」

「うん。そう言われても、僕は泳ぎもできないし、縄跳びさえできないし」

「次は僕の番だ。悪いけど、タクには期待できないから、僕がなんとか勝って一矢を報いるよ」


 次は長男の対決だ。ホストの息子二人のうち背が低いほうが立ち上がる。ジュンは驚いた。てっきり背の大きくてがっちりした彼のほうが長男だと思っていたのだ。HMが尋ねる。

「ジュン君、競技は何がいい?」

 ジュンは心の中で、彼は背が低いから、バスケットボールにでもすれば楽勝かな、いや、それはあまりに卑きょうかな、などと考えた。すると、意外にもHMが言った。

「ジュン君、バスケットボールのシュート対決なんて、どうかしら?」


 長男対決は、バスケット対決に決まった。二人はボールを持ち、順番にシュートする。ジュンのシュートが全く入らない。ホスト側の長男のシュートは次々に入る。こんなはずではないのに、とジュンはあせり始めた。ホスト夫妻が心配そうに話している。

「ジュン君がだいぶ劣勢だ。あと一本で負けが決まってしまうな」

 HFはそう言うと、バッグから錠剤の入った小瓶を取り出し、タイムをかけてジュンの所に向かった。

「ジュン君、ちょっと一呼吸して落ち着こう。これを一錠飲んでごらん。10センチくらい足が長くなるんだ。さあ」

 HFは、ジュンに薬を小瓶ごと渡した。ジュンが小瓶から薬を一個取り出して飲むと、信じられないことに、ジュンの足がみるみる長く伸びた。HFは説明した。

「この星には、手を長くしたり、いろいろと無害で強力な筋力増強剤があるんだよ。10分たつと元に戻るから、大丈夫。さあ、続けて」


 ジュンがシュートしようとすると、ゴールネットは目の前にある。足が長くなると、こんなにシュートが入りやすくなるなんて。ジュンはシュートを続けざまに決めた。

 ジュンが最後のシュートを決めると、父母はうれしそうな顔になった。ホスト夫妻も喜んでいる。ジュンの足は元どおりの長さになり、係員の男性がジュンに駆け寄って首にメダルを掛けた。係員は、ジュンの写真を撮ってカメラから表彰状を取り出す。

「はい、おめでとう。表彰状だよ。ん? あれ?」

 ジュンは表彰状の写真をのぞきこんだ。なぜだ? 写真にはジュンの顔が写っていない。

「もしかして、君、筋力増強剤を飲んだのかな? 飲んだら失格になるんだよ」

 係員の声を聞いて、HFがジュンに駆け寄った。

「ジュン君、すまない。失格になるとは知らなかったんだ」

「いいんですよ。どのみち僕の負けは決まってたんですから」

 ジュンは、ホスト長男にメダルを手渡すと、近づいてきたタクの肩をたたいた。

「最後のわずかな望みはタクにかかっている。せめて精一杯がんばれ」

 ジュンは、タクに薬の小瓶を手渡した。タクは、小瓶を少し見つめた後、ポケットに入れた。

「がんばるけど、この薬は飲めないよ……」


「さあ、皆さん。少し休憩しましょう」

 HMの声かけに応じて、12人は広場でドリンクを飲んだ。タクが体の大きいホスト次男を見ている。彼の名前はバルド。スポーツ万能そうだ。自分に絶対勝ち目はない、とタクは考えた。


「それにしても、このスポーツランドは広いですね」と父。

「向こう側には、川まで流れていますね」と母。

「そう、ボートレースもできるようになっていますから。あとは、魚釣りも」とHM。

「釣りですか? ここでは、釣りもスポーツなんですか?」とジュン。

「ええ、釣りはスポーツの一種ですよ。地球では違うんですか?」とHF。

「まあ、それは時と場合によりますが」と父。

「タク、願ってもないチャンスだな。タクは釣りなら得意だろ?」

 ジュンはタクにそうささやくと、全員に向かって高らかに宣言した。

「タクは釣りで対決しますよ」


 休憩後に、全員でボート乗り場に移動すると、タクとバルドはボートに乗り込んだ。ほかの10人が見送る。HFが全員に言った。

「我々はここから先は行けません。応援できなくて残念ですが」

 ジュンがタクの背中をたたいた。

「タク。お父さんとお母さんのプライドがかかっているんだ。絶対に負けるな! バルド君より一匹でも多く釣るんだぞ」

 タクは、弱った表情でジュンを見た。


 川に浮かぶ一台のボートの上で、二人きりになったタクとバルドは釣りを始めた。バルドがタクに話しかける。

「僕は、釣りはあまりやったことないけど、タク君は得意なのかい?」

「まあまあかな。バルド君はいい体格をしてるよね。スポーツ万能?」

「いや、全然」

「僕はスポーツ苦手だから、たぶん何をやっても勝ち目はないな。でも釣りだったら負けないかもしれない」

「タク君は、勝ち負けにずいぶんこだわっているけど、競争が好きなのかい?」

「いや、別にそういうわけじゃ」

「そう。僕は、競争なんかより、みんなで協力して何かを成し遂げることのほうが大事だと思うな。そう思わない?」

 タクは返す言葉がなかった。その時、バルドの釣りざおが動いた。

「あ! 引いてる、引いてる。どうしよう」

 バルドは、釣りざおを一生懸命引っ張った。

「どうしよう。こんなに大きな魚、初めてだよ。タク君、引っ張るの手伝ってよ」

 タクは信じられない様子で、立ったまま動かない。バルドが再度せき立てた。

「何見てるんだよ。早く手伝ってよ。一人じゃ無理だよ」

 タクは手を貸し、一緒に釣りざおを引っ張り始めた。タクは小声で言う。

「僕も勝負なんか好きじゃない。協力しよう」

「え、何か言った?」


 その時、バルドが魚の力に耐えきれず、さおを放してしまった。さおが川に落ちる。しまった、という表情で、バルドはさおをつかもうとボートから身を乗り出した。危ない、とタクが思った次の瞬間、バルドは川に転落した。ボッチャーンという音の後、バルドは溺れて足をばたつかせた。

「助けて! 助けて!」

「どうしよう。バルド君はスポーツ万能に見えたけど、泳げなかったなんて。でも、僕も泳げない。誰か助けに来ないかな」

 タクは、思い出したようにポケットから薬の小瓶を取り出した。

「これを飲んでも泳げるようにはならないし……。いや、待てよ、この川はそれほど深くないんじゃ……」

 タクは、薬を何個か取り出して飲んだ。タクの足が急に伸びる。タクは川に入った。よし、これなら、顔を水の上に出したまま、川の中を歩けるぞ。今助けるぞ! 川に入ったタクは、バルドを必死に抱え、岸まで運んだ。バルドは意識がなくなっている。係員が駆け寄ってきた。

「大丈夫か!」


 数分後、川岸に係員とタクが立ち、すぐそばでバルドが息荒げに横たわっていた。

「よかった。助かった」

 係員がタクの写真を撮ろうとすると、タクは慌ててのけぞった。

「あ、僕、釣り対決には負けましたから」

「いや、そうじゃないよ。これは人命救助の特別表彰状だよ」

 係員は、カメラから表彰状を取り出した。しかし、写真を見て顔をしかめた。タクが写真を見ると、タクの顔が写っていない。係員は言った。

「そうか、君も薬を飲んでいたのか。弱ったな」

「いや、僕いいです。表彰状いりませんから」

 タクは走ってその場から逃げ出した。


 しばらくして、合流した12人はスポーツランドの出口まで歩いて向かった。ミサとリコがホスト6人と歩いている。

「バルド君が無事でよかったですよ」とミサ。

「でも誰が助けてくれたのか、わからなくて」とバルド。

「不思議だわね」とHM。


 一方、ジュンとタクが父母と歩いている。タクが母に謝った。

「ごめんなさい。期待に応えられなくて」

「そんなこと、どうでもいいのよ」

「お父さんもお母さんも、大声で応援しているから、ライバル意識があるんだと思って」

「あら、私は全然違うわ。ホストファミリーの歓迎に応えるには、一つでも勝てたほうがいいと思って。お父さんは?」

「僕も同じことを考えていたんだよ。これは親善試合みたいなものだから、一方的な展開になるのはあまりよろしくない。しかし、タクには期待できないから、うちが全勝することはあり得ないと思ってね。ならば全敗しないようにと、ミサやリコやジュンを一生懸命応援したんだ」

 父がそう言うと、母はうなずいて付け加えた。

「ホストのお父さんがジュンを勝たせようとしてくれたのも、うちが全敗しないようにとの配慮だったのね。タクに勝ち目がないと予想していたのよ、きっと」

「えー、みんな、ひどいよ」

 タクががっくりした表情で父母を見ると、ジュンと父母は笑った。

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