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(序章と人物紹介)

■ びっくり旅行のはじまり

 

 ここは小さな宇宙船の中。地球に住む一家が乗っている。長男ジュン16歳、長女ミサ13歳、次男タク10歳、次女リコ7歳、そして父母。この6人のことを「地球一家」と呼ぶことにしよう。


 4人の子供たちは、長い夏休みの初日から旅行なのだ。まだ夢を見ている気分の中、昨日受け取ったばかりの通知表について楽しそうに話し合っている。


 ジュンは理科、工作、体育が得意で、機械いじりにかけては誰にも負けない。スポーツはひととおり何でもこなせる。


 ミサは国語、絵画、家庭科が得意で、デザイナーになることを夢見ている。学級委員を務め、クラスのみんなと助け合っているので、生活面ではいろいろと先生に褒められることも多いが、少しおしゃべりが多いと通知表に書かれてしまった。


 タクは体育が苦手だが、算数が得意。生き物係をやっていて、人にも動物にもとても優しいと書かれていた。


「リコは? 通知表に何て書いてあった?」

 ジュンが尋ねると、リコがポツリと答えた。

「おとなしいって」

「そりゃ、そのとおりだね。ほかには?」とタク。

「物覚えがとてもいいって」

「リコの記憶力には脱帽するよ。ほかには?」とジュン。

「イチゴが大好きだって」

「そのまんまね。そんなこと通知表に書かなくてもわかるわ。ほかには?」とミサ。

「そそっかしいって」

 確かに、リコは何度もドブに落ちたり、服を汚したりする。でも、自分がそそっかしいというよりは、リコはよく災難にあう。きっと、悪い星の下に生まれたのだろう。


 星といえば、いまだに信じられないが、今まさに自分たちは地球の外にいる。

 子供たち4人の後ろで、父と母がほほえんでいる。

「旅行が決まってからの半年間があっという間だったわね」

 母が言うと、父はうなずいた。


 あれは半年前のこと。自宅で一家5人がくつろいでいると、父が慌てて帰ってきた。

「ビッグニュースだぞ。第二地球群のツアーが当たったんだよ。ほら、去年の年末に申し込んだじゃないか。当たるわけがないと思っていたんだが」

 父が書類を見せる。

「子供たちの夏休みの初日から、お父さんも休暇をとるよ。そうすれば、夏休みをフルに使って6人全員で旅行できるぞ」

 父がそう言うと、みんな歓声をあげた。


 それから半年たち、地球一家6人は今、宇宙船の中にいる。乗務員の男性が現れた。

「皆様、こんにちは。これは6人専用の宇宙船です。今回、地球から旅行するのは皆さんだけですので」

 確かに、乗客は一家6人のほかには誰もいない。乗務員は話し続けた。

「それでは、ただ今より注意事項を説明します。このツアーは、第二地球群の旅というもので、地球に似た文明を持つ惑星群を訪問して回るものです。それぞれの星の中にいくつかの国があり、皆さんは一か国に一泊ずつします。6人が、家族そろってホームステイします。どの星のどの国に行っても、自動翻訳システムによって皆さんには地球の言葉に聞こえます。言葉に苦労することはあり得ませんので、ご安心ください」

 家族みんなでホームステイか……。母が乗務員に尋ねた。

「文化はどんな感じですか? 地球に比べて、発展しているんですか?」

「地球の先進国よりも進んだ所や遅れた所もたまにありますが、大抵は同じくらいです」

 なるほど。地球と似ているのならば、安心だ。


「次に、ホームステイ先、つまりホストハウスの住所と地図は、お配りした資料の中に入っています。家に着いたら、チャイムはありませんので、いきなりドアを開けて、おじゃまします、とおっしゃってください。皆さんで、ちょっと練習してみましょう」

 地球一家全員、おじゃまします、と叫んだ。

「もっと元気良く」

「おじゃまします!」

 リコが突然、とても大きな声で返事をした。父が褒める。

「お、リコ、元気がいいね。よし、旅行中の、おじゃまします係は、リコに任せよう」

 おじゃまします係とは、変な係だ。


 ミサは乗務員に尋ねた。

「でも、家のドアに鍵はかかっていないんですか?」

「鍵はありません。なぜなら、今回訪れるそれぞれの星には犯罪がないからです。罪を犯したいという欲求が生じることが全くないのです。ですので、地球の皆さんが悪影響を与えることのないよう、くれぐれもお願いしますね。実は、ご家族皆さんのことは、あらかじめ調べさせていただきました。皆さんが当選されたのは、単なる抽選ではありません。旅行中に問題を起こされると困りますので、そのようなことのない方々を選んだのです」

 なるほど、そうやって選ばれたのか。それにしても、犯罪がないとは驚きだ。乗務員はさらに話を続けた。

「さて、犯罪はありませんが、病気にかかったり、命に関わることが起きたりする可能性はありますので、現地の方々のアドバイスに従って、注意して行動してください。特に、習慣や文化が異なり、時には自然環境も異なります。良くも悪くも、その土地の独自の文化や習慣が異常ともいえるほど発達していることがあります。また、地球の科学では考えられないような自然現象が発生する国もあります。気を付けましょう」


 さらに乗務員は、リコのリュックサックに貼られていたワッペンのカメの絵を指した。メガネガメという地球で流行しているアニメのキャラクターで、リコは大ファンなのだ。乗務員の説明によると、極端に言えば、そのキャラクターが大歓迎される星もあれば、そのワッペンを付けたままでは気まずくて入国できない場合もあるという。とにかく、いろいろな星があるということは理解できた。あとは着いてからのお楽しみだ。


「あとどれくらいで着陸しますか?」

 ジュンが尋ねると、乗務員は答えた。

「あと30分ほどで着きますよ。地球からとても近いので、宇宙を旅行しているような実感はないと思います。また、星から星への移動はさらに短いので、今後は宇宙船ではなく飛行機を使い、それぞれの星にある空港に到着します」


 やがて、宇宙船は着陸体制に入った。最初の星の最初の国に到着したようだ。

 空港の出口で、乗務員は6人を見送った。

「地図がありますので、ここからホームステイ先にはご自身で歩いて行ってください。それでは良いご旅行を!」


 地球一家6人は、地図を頼りに一軒の家にたどり着いた。ここが今日のホストハウスだろうか。さっそくリコが、いきなりドアを開けた。

「おじゃまします」

「キャー! ヒエー!」

 なんと、玄関の中におばあさんが立っており、悲鳴をあげるとともに腰を抜かしてしまった。この家の家族が、慌てて玄関に出てきた。地球一家6人が途方に暮れていると、乗務員が走ってきた。

「嫌な予感がしたので、後を追いかけたんです。地図の見方が反対ですよ。これでは逆方向です。家が全く違います」

 母が頭を下げた。

「失礼しました。でもどうして、あの人はあんなに腰を抜かしてしまったんでしょうか? もちろん、いきなりドアを開けて驚かせてしまった私たちが悪いんですけど」

「あれでよかったんですよ、刺激になって。ここの人たちは、普段から驚くことがなさすぎて、ちょっと何か起きると、めちゃくちゃ驚いてしまうんです」


 しばらくして、地球一家は別の家の前に到着した。今度こそホストハウスに間違いない。父が地図とよく見比べ、リコがドアを開けた。

「おじゃま……」

 その時、大きなヘビのような物が、勢い良くドアから飛び出してきた。

「うわっ」

 今度はリコが悲鳴をあげ、地球一家は慌てて逃げ出した。ドアの向こうから、HF(ホストファーザー)HM(ホストマザー)が出てきた。

「すみません、驚かせてしまって。我が家へようこそ」とHM。

 どうやら、玄関のドアがびっくり箱になっていることがわかった。


 地球一家6人は、リビングに案内された。夫妻のほかに、9歳の男子と7歳の女子がいる。

「私たちはあまりに平和で驚きがないので、もっと刺激が必要だということで、何年か前に政府が命令を出したんです。他人を驚かせるのに補助金が出ることになって、この玄関をびっくり箱のようにする仕掛けも、補助金を使って作ったんですよ」

 HFがそう話し、地球一家6人があ然としながら聞いた。二人の子供が、びっくり箱を取り出して見せた。

「私たちも、びっくり箱を作ったから、見てください」と女子。

「明日学校で、びっくり箱コンテストがあるんです。これ、勝てそうですか?」

 男子がジュンの目の前で、箱を開けて見せた。おもちゃのカエルが飛び出す。

「へえ、うまく作ってあるね」

「ジュンさん、驚かないですね。もっと工夫しなきゃ駄目かな」

 ジュンは苦笑いした。


 その後、全員でびっくり箱博物館という所を訪れた。今月この町にできたばかりで、ホストファミリーのみんなも初めて来たという。展示してあるいろいろなびっくり箱を手に取り、蓋を開けて回った。残念なことに、驚くようなびっくり箱はない。みんな、退屈そうな表情である。


「まもなく閉館時間です。そして、この博物館は、今日で閉鎖になります。短い間でしたが、ありがとうございました」

 場内アナウンスを聞いて、HFは驚いて係員に尋ねた。

「今日で終わっちゃうの? できたばかりなのに」

「評判があまり良くないんですよ。全く驚かないって」


 ミサ、タク、リコが館内を並んで歩いている。タクがリコに尋ねた。

「リコ、どうだった? びっくりするようなびっくり箱はあった?」

「なかった。びっくり箱だってわかっているから」

「そりゃそうだな。普通は、何も知らなくて開けるからこそ驚くんだよ」

 それを聞いて、ミサは考えた。

「そう考えると、博物館を建てたこと自体、意味がなかったことになるわね。それに、びっくり箱コンテストというのも……」


 翌朝、ダイニングに全員集合している時に、ジュンが男子に話しかけた。

「昨日のびっくり箱、こんなふうに作り変えたらどうかなと思って」

 ジュンは、びっくり箱を持って男子の目の前で開けた。おもちゃのカエルが出てくる。

「あれ、僕が作ったのと同じに見えますけど」

 男子がそう答えた次の瞬間、おもちゃのヘビが飛び出してカエルに覆いかぶさった。男子はのけぞりながら叫んだ。

「うわ! ジュンさん、すごい! びっくり箱でこんなに驚いたの、初めてです」

「二段構えに改造してみたんだよ。もう何も出てこないと思い込んで気を緩めたところに、もう一つ飛び出してくると、びっくりするだろうと思って」

「確かに。うちの玄関のように、予想していない物がびっくり箱になっていると驚くけれど、びっくり箱だとわかっていて開けたら、何が飛び出しても驚きませんよね。でも、ジュンさんのアイデアならば、コンテストに勝てそうです!」


 ダイニングの別の一角で、父が母に話しかけた。

「人を驚かせる目的で作ったびっくり箱よりも、あまりにも平和な星そのもののほうが驚きだ。だから、政府の命令で博物館ができたりして」

「これから、びっくりするような星を次々に訪問できると思うと、とても楽しみね」

 父と母は、顔を見合わせてほほえんだ。

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