96 聞き取り調査二日目
聞き取り調査は、使者が指定した条件の下で行われます。
昨日は茶会でしたが、今日は昼食会です。
正午。
レリック様と護衛二人に付き添われて、昼食会が行われる客室へ向かいました。
扉前に控えていたホワーズ魔法王国の護衛、二人のうち一人が、レリック様へと進み出ました。
「入室は、勇者様のみでお願い致します。」
「聞き取り調査についての決まりは知っている。が、その事でメリークに話がある。私だけ入室はしない。護衛のお前達も一緒に入室しろ。」
「……かしこまりました。」
私だけでなく、レリック様や自分の護衛まで入室してきたので、席に着いて待っていたメリーク殿下は、少し驚いたようです。
「一体何事ですか?聞き取り調査は、二人きりの筈です。」
「聞き取り調査の中止について、交渉しに来た。」
レリック様は、そう言いながら私の手を引いて、テーブルを挟んだメリーク殿下の向かい側に歩を進めました。
そして、隣り合っている二つの椅子を引いて、左側の椅子にレリック様、右側の椅子に私が着席しました。
「聞き取り調査は、最低三日と決まっています。中止の申し出は、勇者の強制拘束となり、保護の必要ありと判断します。よろしいですね。」
メリーク殿下が、念を押してきます。
正直言って、良くないです。
どうしましょう、レリック様。
チラリとレリック様を見ました。
「そう言われても、勇者に寄り添う筈の使者が、勇者である、私の婚約者を不安にさせていると知っては、協力しているこちらも黙ってはいられない。」
レリック様は、私の手をテーブルの下で握ったまま、メリーク殿下を見据えています。
「私としては、そんなつもりはありませんでした。あくまでも、勇者本人の意思を尊重するつもりでいましたから、誤解をさせたのなら、反省して言動は改めます。調査の続行を勧めますが、私としては中止して、保護の判断でも構いませんよ。」
メリーク殿下は、余裕の笑みを浮かべています。
「セシルの保護も、調査の続行も受け入れられない。だが、ただで要求を受け入れて貰えるとも思っていない。これが何か、メリーク殿下なら、お分かりになるだろう。」
レリック様は、ポーチから首枷と髑髏の黒い石を出して、テーブルに置きました。
それを見た瞬間、メリーク殿下の目が見開かれました。
「これを渡す。その代わり、聞き取り調査を中止にして貰いたい。」
「……何故、これらがガリア王国に?これらは我が国で作られた、持ち出し禁止のアイテムですよ。」
明らかに、メリーク殿下の視線が鋭くなりましたが、レリック様は、全く気にならないようです。
「二つとも、他国の商人から取り寄せたらしい。とは言っても、この首枷は奴隷に着けられていたもので、これを着けた奴隷商は何者かに殺害されたようだ。」
「流出だけでなく、横流しまで起きていたとは。」
メリーク殿下は、顔をしかめて呟きました。
「この首枷は、本人以外が外そうとすると爆発するなんて言うから、外すのに手間取った。それに、この呪いのアイテム。呪いを消せたから良かったが、危うく大事な人が呪い殺されるところだった。全く、迷惑な物を持ち込まれたものだ。持ち出し禁止にしては、貴国の取り締まりは緩いのではないか?」
レリック様の指摘に、メリーク殿下の片眉が、ピクリと動きました。
「返す言葉もありません。それで、我が国で作ったこれらを無効化出来るのは、限られた者だけだと言うのに、どうやって無効化したのですか?」
「それは、秘匿事項だ。」
「……でしょうね。」
メリーク殿下は溜め息を吐きながら、こめかみを手で押さえています。
「我が国としては、持ち出し禁止のアイテムが他国へ流出する等、ゆゆしき問題です。が、たった二つでは、調査を中止する理由としては弱いですね。」
「呪いのアイテムは一つだが、首枷は五十ほどある。それでも弱いか?」
「五十!?」
レリック様の言葉に、メリーク殿下は目を閉じて、眉間に皺を寄せました。
「……良いでしょう。調査の中止を飲みます。」
やりました!交渉成立です。
レリック様と静かに頷き合いました。
「首枷は、後でメリーク殿の部屋に届けさせよう。吸引の箱はどうする。元々は貴国のアイテムだ。持ち帰るなら返すが。」
「箱はそちらで管理して下さい。我々が持っていても、使えなければ意味がありませんし、いざという時、勇者の側にある方が良いでしょう。その箱を研究出来なくても、我が国の優秀な者達で、誰でも使える魔王討伐アイテムを作ってみせますよ。」
メリーク殿下は、冷静に話しているようですが、悔しさが滲み出ているようにも感じられました。
「聞き取り調査をしないなら、もう魔王討伐についての情報も十分頂けましたし、夕方にでも帰国します。」
「それは随分と急ですね。」
引き留めたい訳ではありませんが、驚いて思わず声を発してしまいました。
「これだけ持ち出し禁止のアイテムが、他国に流れていると知れば、ゆっくりもしていられません。帰国したら忙しくなりそうです。」
「では、昼食くらいは、ゆっくりしようではないか。勿論、私も同席する。」
レリック様は、テーブルにあるベルを鳴らして侍女を呼ぶと、昼食の準備を指示しました。
首枷は、目次14と52。呪いのアイテムは、目次59に出てきます。




