92 魔王討伐後(レリック視点)
レリック視点です。
魔王討伐したその日の正午。
大部屋の人払いをして、昼食を食べながら、セシルから話を聞いた。
クリス副団に拐われた時、何があったのか?と。
セシルは、私が誘拐されたとクリス副団から聞いたらしいが、その内容は昔、騎士団が対処した『伯爵令息誘拐事件』そのままの内容だった。
もし、本当にそんな状況になったら、私は存在を消して襲撃者の武器を奪い、再びセシルを取り返せる。
それに、先読み出来るクリス副団ならば、丸腰でも相手の動きを躱して武器を奪い、多勢でも、的確にダメージを与えて、簡単に形勢逆転出来る。
だが、セシルは混乱状態で考える暇を与えられず、魔王は、クリス副団の記憶にある実際の事件を偽装し、真実味を持たせて話をしていたようだ。
セシルが話を信じてしまうのも仕方がない。
そもそも私が周囲を警戒していれば、セシルを手放す事態にはならなかった。
二度とこのような失態は犯さないと、大いに反省した。
午後。
少し遅れて騎士棟へ出勤し、執務室にクリス副団を呼んで、聞き取りをした。
「夜会開始直前、父と口論になりました。
母や祖父は事故死だと、兄や妹に伝えていたのです。
家族には真実を告げるべきだと主張しましたが、まだ二人は受け止め切れないと父に言われ、夜会が始まって直ぐ、私は頭を冷やす為、一旦、バルコニーへ行ったのですが、そこから記憶がありません。」
溜め息が出た。
クリス副団は夜会が始まった時、既に魔に囚われ、魔王に操られたまま夜会会場に戻り、普通にクリスとして過ごしていたらしい。
もしかしたら、参加者が魔に囚われた切っ掛けは、魔王に操られていたクリス副団が何かしたのかもしれない。
記憶が無いだけに調べようがないが。
「それで、睡眠の陣は、いつ手にした。」
「念のため、元々二枚だけ持っていました。気づいたら無くなっていましたが。」
「なるほど。」
初めに持っていた二枚は、私とセシルに使って、地下の部屋を見張っている青騎士団には、セシルのポーチから抜き取って使ったのだろう。
「あ!そういえば……」
「クリス副団、何か思い出したのか?」
「一瞬ですが、セシル嬢に頬を包まれて、何度も名前を呼ばれた気が……」
「は?」
何故、そんな幸せそうな事だけ思い出す。
思わず、聞き取りでメモしていた紙を、グシャッと握り潰しそうになった。
そう言えば、一瞬だけクリス副団の後頭部にある錠前を解錠したが、再び現れてしまったと、セシルが言っていた。
恐らく、セシルが錠前を解錠した時、一瞬我に返ったのだろう。
操られていたので、仕方ないと言えば仕方ないのだが、分かっていてもやるせない。
私はクリス副団が操られている間、何をしたのか、自分が知る全てを話して聞かせた。
「記憶がないとは言え、とんでもない事を。ただ、セルリアンが魔に囚われたのは、セルリアンのせいだと思いますが。」
男爵家次男のセルリアンは、自分より家格が上の令嬢に恋をして、その令嬢と結婚したいが為に、武勲を立てようと努力している。
そして、その令嬢に言い寄る男が現れると、影ながら排除しているらしい。
騎士団内では、有名な話だ。
ただ、その令嬢が、セルリアンに好意があるのか、誰も知らない。と言うか、そこまで興味がないので知ろうともしていない。
「クリス副団も知っていたのだろう?セルリアンが、ある令嬢に片想いしていると。」
「はい、ストーカー並みに重いと団員達の間では有名でしたから。」
「魔王はクリス副団を使って、セルリアンの弱い部分をついたのだろう。まあ、言われても記憶がないのだから困るだろうが。」
「そうですね。ただ、仕出かした事の責任は取ります。やはり極刑、でしょうか?」
クリス副団は真面目な男だ。
追い詰めてしまったらしい。
「済まない、八つ当たりをしてしまった。魔は誰にでも囚われる可能性がある。そうならないよう対策する為に、話を聞くのが目的だ。追い詰めたい訳ではなかった。」
「しかし、許されない事をしたのは事実です。エド団長のように首輪を着けて、一生王家に仕えます。」
恐らく我々が魔王と戦っている間、そんなことを考えていたのだろう。
「首輪は着けなくても良いが、一生王家に仕えて貰えるのは有難い。総長にも話しておこう。」
その日の午後四時。
団長会議が行われた。
メンバーは、四人。
白騎士団の代表として総長のピューリッツ兄上、青騎士団団長のエド、黒騎士団団長のアレク、そして、赤騎士団団長の私だ。
私は、セシルとクリス副団の聞き取りについて報告し、クリス副団の希望について伝えた。
「魔に囚われた事について罰するつもりはないが、王家の犬になりたいなら、大歓迎だ。首輪をしないまでも、気が変わらない内に、一生王家に仕えると、誓約書に一筆書いて貰おうか。」
総長のピューリッツ兄上が、キラリと目を光らせている。
有能な人材を決して逃さないとでも言いたげだ。
「それ、いいね。僕達のように、一生王家に縛られる仲間が、また一人増えるわけだ。ね、エド。」
アレクが嬉しそうに、エドの肩を叩いている。
「喜ばしい限りだな。それに比べて、我が部下のセルリアンは、クリス副団のせいだと言いはっている。が、何も無かった事にするつもりはない。」
いつかまた生まれるかもしれない魔王に備えて、エドはセルリアンと教会の地下へ同行していた部下達に、連帯責任として、魔王封印の箱を一年で修復するよう、命じたらしい。
「俺はもうやらない。手を出せば、俺が一人でやる羽目になるしな。俺が一人で出来たんだ。一から部下にやらせれば、人数いるし、一年もあれば出来るだろう。多分。」
エドは簡単に言うが、セルリアンや部下達は、エドのような天才ではない。
任務をしながらの作業に、これから一年、いや、もっとかもしれない。
連日徹夜必至だと悟って、肩を落としたに違いない。
「それにしても、今回は全てが後手になったよね。
仲間が魔に囚われて、魔王に操られていると気付けずに、魔王の復活を許してしまった。
拐われたセシル嬢が無事で、箱が魔王を吸引したから事なきを得たけれど、こんな幸運、なかなか無いよ。」
「確かに、アレクの言う通り、今回は本当に運が良かった。」
総長の言葉に、私やエドも頷いた。
今回の反省点を踏まえて、今後の対策が話し合われた。
その結果、騎士棟では、団員が魔に囚われていないかチェックするため、扉がある全ての床に、魔を感知する陣を設置するとなった。
また、セシルが二度と利用されないよう、護衛を一人増やし、護衛当番に錠前が着いていないかを毎回、セシルに確認して貰うと決定した。
これで会議も終わりかと思ったら、兄上が口を開いた。
まだ何かあるのか。
「次は外交の話だ。
先日の魔溜まり任務について、ホワーズ魔法王国には既に報告しているが、魔王吸引についても報告する。
数日の間に返事が来て、使者の訪問日程が決定するだろう。
対応は王家と白騎士以外の騎士団長で行うから、そのつもりでいて欲しい。」
魔王の脅威が無くなり、安心して結婚式を迎えられると思ったら、次は外交か。
「レリック、詳しい事が決まったら、セシルにも伝えてくれ。」
「はい。」
ホワーズ魔法王国は、魔王討伐協会の本拠地がある国だ。
大昔、魔王討伐のアイテムを発明した国であり、魔王の情報を世界の国々と共有するため、世界を代表して情報を集めている。
従って、魔王討伐した国は、世界平和の為にも、聞き取り調査の協力が義務となっている。
貴重なアイテムを使えるセシルも、聞き取り調査の対象だ。
二日後の午後四時。
団長会議で、兄上から報告があった。
「早速、ホワーズ魔法王国から返事が来た。使者の訪問は六月二十四日。丁度、レリックの挙式一週間前に決定した。滞在予定は三日だ。」
面倒事が挙式前に終わるなら何よりだが、事前に届いた調査協力書に目を通して、思わず顔をしかめた。
「アイテムを使える者と、二人きりでの聞き取り調査だと?」
二人きりで調査を行う理由は全うで、先方はアイテムを使える者を『勇者』と表現して、男女の区別をしていない。
ただ、使者が私より年下の男……。
「この要求を全て受け入れなければならないのか……。三日も。」
嫌だ、嫌すぎる。本来なら、絶対に断る内容だ。
だが、調査協力書の内容は、協力する義務があり、基本的に拒否権はない。
拒否したら、逆に面倒な事態になると分かっているだけに、我慢するしかない。
結婚はもうすぐなのに、本当に面倒事ばかり起こる。
セシル成分を補給しなければやっていられない。
私室に戻って、私の帰りを待っていたセシルを見た瞬間、抱き締めた。
「あの……レリック様、夕食が……。」
「もう少しだけ。」
この後、セシルに外交の話をする。
私にも心の準備が必要だ。
ハグする時間が、回数を重ねる度に長くなってしまうのは、私の精神衛生上、仕方がない。
シーナが、これ見よがしに咳払いをしている……。
が、聞こえない振りをしておいた。




