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解錠令嬢と魔法の箱  作者: アシコシツヨシ


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85/114

85 要求


「セシル嬢、コレと、あと、アレも解錠を頼みます。」


 クリス副団は、何も変わらない様子で、陣と亀裂の入った箱を指差しました。

 私の体を軽々と担いだまま。


 そう、私は呆気なく捕まってしまったのです。

 すっかり忘れていました。

 私のそこそこの走りが、クリス副団にとっては散歩程度なのだと……。


 私が全力で走ったところで、最初から結果は見えていたのです。

 その場から逃れたい一心で、無駄に体力を消耗してしまいました。


「鬼ごっこしたいなら、何度でも付き合って差し上げますよ。人が絶望に歪む表情を見るのは、大好物ですから。」


 クリス副団は、私を陣の手前で下ろすと、前傾姿勢になって私の耳元で楽しそうに囁きました。


 なんて悪趣味なのでしょう。

 ただ、頭が近付いて来たのは、チャンスです。


 クリス副団の後頭部に手を回して、錠前を解錠しました。

 一瞬、クリス副団の動きが止まりました。


 透かさず、サイドポケットから祓いの鈴を出して、クリス副団の耳元で鳴らし続けます。


 鈴は小さくて、そんなに五月蝿くない筈ですが、祓いの効果があるのか、クリス副団は顔を歪めて、そっぽを向こうとしました。


 それは許さないとばかりに、鈴を持っていない方の手で、クリス副団の頬を強めに押さえました。


「クリス副団、鈴の音に集中して!魔に負けないで!戻って来て!」

「……セシル嬢?どうして……」


 クリス副団が、キョトンとした顔をして、正気に戻りかけています。

 良い兆候です。

 必死に鈴を鳴らし続けました。


「クリス副団、しっかり!」


「……ほう、我の支配を切れるのか。だが、その程度では無駄だ。魔がある間、私は何度でも支配出来る。」


 クリス副団の口調が突然変わって、鈴ごと手を掴まれると、呆気なく鈴を奪われてしまいました。


「今度はこれを取りに走るか?その前に捕まえてやろう。」


 ポイッと鈴を遠くへ放られてしまいました。

 そう言われては、取りに行く気力も無くなってしまいます。


 クリス副団の後頭部には、再び錠前が現れていました。

 小さな祓いの鈴では、完全に魔を祓えないのでしょう。


 クリス副団の口振りから、後頭部の錠前は、支配を意味するようです。

 魔がある間、と言っていました。


 だから、後頭部に出現した錠前は、箱で魔を吸引すると消えて、魔があるうちは、解錠して消えても、直ぐに再生していたのですね。


 納得していると、クックッとクリス副団……を支配している魔王?が突然、嗤い始めました。


「やっとだ。やっと使える器に繋がれた。運良く箱に亀裂が入って、支配出来るようにはなったが、今までの者は我の存在すら知らなかった。支配しても、器に知識がなければ、我を感じても、ここに辿り着く事さえ出来ない。だが、コレは違う。」


 クリス副団は自分自身を指差しました。

 恐らく魔王?は、かなり喜んでいるようです。


 ずっとクリス副団を演じていたようですが、私をまんまと騙せて、隠す必要がなくなったのか、もう、本性が出ている感じです。


 何百年も箱に閉じ込められていたから、話し相手が出来て嬉しいのでしょうか?

 思ったより人間的な気がしてきました。


 そもそも魔は、人間から生まれますし、魔を引き寄せて魔王になるのも、闇に魅入られた人間です。

 魔王という訳の分からない存在になっても、元々の気質は人と同じなのかもしれません。


「この者は、我が復活するために、求める知識を全て有していた。我がどこにいるか、我を封じる者、これからの予定、そしてセシル嬢、箱を解錠出来る者よ。さあ、我を解放しろ。」


「そう言われましても、そう出来ない理由があるから封印されているのでしょう?」


 見た目がクリス副団のせいか、魔王と普通に話してしまいました。

 そして、後悔しました。


 今の私は人質のようなものです。

 魔王の機嫌を損ねたら、殺されてしまうかもしれません。

 発言には気を付けなければいけませんでした。


 今更遅いですが、ヒヤヒヤしながら、顔色を窺います。

 クリス副団の顔は、変わらず笑顔を浮かべたままです。

 良かった……。魔王は気分を害していないようです。


「人々の汚く浅ましい、心の奥底にある残酷な本性を解放してやるだけだ。己を滅ぼす者が己だとも知らずに、欲望のままに従った先に待つ、血塗られた世界は絶望に溢れ、さぞ見物だろう。幸せであればあるほど、突き落とされた時の絶望は大きい。実に愉快だ。」


 要は人々の欲望を解放して、破滅する姿を見て楽しみたい、と。

 クリス副団の顔で、そんな悪趣味な事を言わないで欲しいです。


 確かに、こんな危険な思想を実行する存在は封印しておくべきでしょう。


「さあ、陣と箱を解錠しろ。そうすれば、この剣をどうやって手に入れたか教えてやろう。」


 正装姿のクリス副団が、ベルトに提げている剣の持ち手を指差しました。


「え!?」


 クリス副団が本来持っている剣の持ち手には、王国騎士団の紋章が描かれている筈です。

 でも、今、目の前にあるのは、レリック様しか持っていない筈の、赤で描かれた王家の紋章です。


 存在を消せるレリック様が剣を奪われるなんて、普通ならば、あり得ません。

 クリス副団に扮した魔王は、レリック様に何をしたのでしょうか?


 もしかして、魔を吸引する箱も壊されてしまったのでしょうか?

 その剣でレリック様を…………。

 嫌な想像をして、顔から血の気が引くのを感じました。


「知りたいのは山々ですが、やっぱり出来ません。」


 どんな理由でも、何があっても、例え私が殺される羽目になっても、国の為に生きる覚悟をしているレリック様の婚約者として、魔王の解放を絶対に許す訳には参りません。


 そこは間違えません。


「そうか、ならば、別の者に頼むまでだ。いるのは分かっているぞ。そろそろ入って来たらどうだ。行事の準備があるのだろう?」


 クリス副団は私の腕を掴むと、扉の方へ顔を向けました。

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2023年12月8日にOFUSEサイトにて、レリックとセシルのイメージイラストを投稿しました。 宜しければご覧くださいませ。 OFUSEサイト・アシコシツヨシ
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