79 時計塔
今朝、私に用意された騎士服は青騎士団の騎士服でした。
青騎士団のお手伝いだからでしょう。
濃いブルーの騎士服も素敵です。
九時、祓いの鐘を聞いてから、いつものようにレリック様に抱き寄せられて転移陣で騎士棟へ転移しました。
「エドにはこれから報告する。その前に朝礼がある。」
「ちょうれい?」
聞きなれない言葉に首を傾げました。
「朝に連絡事項を報告し合う事だ。」
「初耳です。」
「確かに令嬢には無縁の言葉だ。」
レリック様に手を引かれて、北棟三階にある赤騎士団が集まる大広間へ入室すると、レリック様が全員の前に立ちました。
これから朝礼が始まるようです。
「本日からセシルが青騎士団の手伝いをする。その間、私はセシルに同行する。魔を吸引するだけだから時間はかからない。緊急の場合は連絡してくれ。」
「「ハッ!」」
朝から皆さん声が揃っています。
「報告は?」
「第一部隊、夜会の見張り任務、問題無し。以上。」
確か夜会に参加した貴族が魔に囚われていたのでした。
夜会も見張っていたのですね。
「第二部隊、今夜、夜会の見張り任務を担当します。以上。」
夜会の見張り任務は、各部隊が順番に行うようです。
第三部隊から第五部隊、そして、クリス副団から連絡事項を聞いて、朝礼は終了しました。
大広間を退室すると、レリック様は腕輪にある緑色のボタンを押しました。
「エド、レリックだ。セシルは了解した。今から行っても大丈夫か。どうぞ。」
「レリック、エドだ。執務室で待っている。以上。」
エド団長の了解を得て、レリック様と青騎士団の執務室へ向かいました。
執務室へ入室すると、執務机で執務をしていたエド団長が、私達を見るなり立ち上がりました。
「セシル嬢、手伝いの了解、感謝する。早速だが、箱で魔を吸引して貰いたい。場所は王都中心にある祓いの鐘がある時計塔だ。ついてきてくれ。」
「はい。」
執務室に入室して直ぐに、退室です。
エド団長とレリック様と共に、南棟一階にある転移陣の部屋へ向かいました。
「祓いの鐘がある時計塔は、青騎士団が祓い屋として活動する為の本拠地となっている。一階は転移陣、地下一階が待機場、地下二階と三階が祓い場だ。」
エド団長が歩きながら説明して下さいました。
「状況は実際に見た方が早いだろう。」
エド団長が手招きする陣に、レリック様と一緒に入ると、エド団長が足で陣を二回ノックしました。
陣が光ったかと思えば、石造りの壁に囲まれた薄暗い建物の中にいました。
どうやらここが、祓いの鐘がある時計塔内部のようです。
視線を上に向けると、螺旋階段が上まで続いています。
上部は展望台になっているようで、太陽光がうっすらと射し込んでいます。
更に上には、陣が描かれている鐘も見えました。
思ったより巨大です。
私くらいのサイズならば、鐘の空洞にすっぽりと収まってしまいそうです。
「セシル嬢、こちらへ。」
エド団長が時計塔内にある扉を開けると、地下へと続く階段が見えました。
地下一階には寄らず地下三階まで下りると、また扉があります。
「ここが地下三階の祓い場、魔に囚われた人間を祓う場所だ。上の階も同じだ。」
エド団長が扉を開けると、シャンシャン、シャンシャンと鈴の音が聞こえてきました。
部屋に入室すると、室内は意外にも時計塔内より広いです。
部屋の広さにしては沢山の人が仰向けに寝かされています。
二十名位でしょうか。
お腹には陣が描かれている紙が二枚貼ってあります。
一枚は睡眠の陣でしょう。見たことがあります。
もう一枚は何でしょう。初めて見る陣です。
「祓いの陣を描いた鈴を鳴らし続けて、その音を陣に記憶させ、永遠に繰り返すようにしてある。そうやって少しずつ魔を祓う。うるさいだろうが、我慢して欲しい。」
エド団長が指差した壁には、陣が描かれていました。
鈴の音はその陣から聞こえてきます。
次に、エド団長は、眠らされている人のお腹に乗っている謎の陣を指差しました。
「魔が完全に祓われると、お腹に乗せている一枚の陣が点灯して、知らせてくれる仕組みだ。因みにもう一枚は睡眠の陣だ。動き回られると面倒だからな。」
「確かに、眠って貰った方がやりやすいですね。」
「セシル嬢の箱と違って、我々の方法では、魔を祓うのに時間を要する。ここ数日は、魔に囚われている人間を毎日捕獲しているせいで、祓い終えるより、魔に囚われている者の人数が上回っている。見ての通り、足の踏み場もない。」
「これは大変ですね。早速始め……」
ふと、仰向けで横を向いて寝ている人の後頭部に視線が行きました。
錠前です。
頭に錠前が見えるなんて、初めてです。
吸い寄せられるように近付いて確認しました。
大きくはありませんが、やはり錠前です。
錠前には、黒いモヤがかかっています。
この人だけでしょうか?
他にも顔を横に向けている人はいないでしょうか。
辺りを見回しました。
「セシル、どうした。」
私の奇行に、レリック様やエド団長が怪訝な表情をしています。
驚いて言葉にするのを忘れていました。
「あ、ご免なさい。この方の後頭部に錠前が見えたものですから、他の方にも見えるのかと。」
「後頭部に錠前?どれ。」
エド団長が仰向けになっている別の人の頭を横に向けて下さいました。
「あ!あります。」
「もしかして、全員あるのか?」
レリック様が更に隣の方の頭を横に向けました。
「この方にもあります。」
エド団長が、地下一階に待機している騎士達を腕輪で呼んで、横になっている全員の後頭部を見えるようにして下さいました。
「全員、同じ錠前が見えます。呪いでしょうか?」
エド団長が、首をゆるゆると横に振りました。
「それは無いな。セシル嬢が錠前を確認している間、呪い判別の陣で確認したが、呪いの反応はなかった。」
魔溜まりの任務では、錠前を解錠しなければ、箱は魔を吸引しませんでした。
これも同じなのでしょうか。
「錠前は解錠出来ます。ですが、その前に魔を吸引出来るか試してみようと思いますが、いかがでしょう。」
「賛成だ。何か分からないモノを無闇に解錠するのは避けた方が良いだろう。」
エド団長の了解を得て、錠前は解錠せずに、先に箱で魔を吸引してみると決まりました。
「セシル、箱を。」
レリック様から箱を受け取りました。
黒いモヤは錠前に少し見える程度だったのに、魔を吸引する箱を解錠して開けた瞬間、大量の黒いモヤが物凄い勢いで箱に入って来ました。
何度やってもこの勢いと、謎のどす黒いモヤは怖くて慣れません。
でも、この箱は魔溜まりの暗闇で、私とレリック様が合流出来る切っ掛けになってくれました。
全員無事に帰還出来たのも、この箱のお陰ですから、愛着も湧いてきます。
落とさないように、しっかりと持ちました。
「魔溜まりに比べたら楽勝だ。」
後ろから私の手を包むように、レリック様が一緒に箱を支えて下さいました。
私だけでも箱は持てます。
でも、レリック様がいてくれた方が、心強くて安心出来ます。
魔を全て吸引して箱が自然に閉まるまで、数分かかりました。
箱が閉まった瞬間、全員の後頭部にあった錠前が勝手に解錠されて、ボロボロと崩れて無くなりました。
触れてないのに解錠するなんて、初めてです。
「エド団長、錠前が自然に解錠して、無くなりました。もう、錠前は見えません。」
「錠前が消えた、か。まだ上の階に魔に囚われた者がいる。次は錠前から解錠してみよう。どうやらこの階の人間は皆、無事魔を祓えたようだしな。」
全員のお腹に乗っている、魔が祓われると点灯する陣は、全て点灯していました。




