表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解錠令嬢と魔法の箱  作者: アシコシツヨシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/114

78 ハンカチ

 レリック様と東屋で昼食を取った後、私は私室に戻って、自室で刺繍の続きに取り掛かりました。


「やっと完成したわ。」


 エド団長に転送陣を描いてもらって、その上から刺繍糸で刺繍しました。

 二枚で一組なので、刺繍の手間は二倍ですが、お揃いのハンカチを持つのは何だか素敵です。


 早速お帰りになったら……何と言って渡しましょう。


 元々このハンカチは、魔溜まり任務へ行くレリック様のお守りとして渡すつもりでした。


 そして、もしもの場合、手紙のやり取りも出来るので、連絡手段として使えるとも思ったのです。

 でも、突然任務の日が決まって、刺繍が間に合わず、今日までかかってしまいました。


 女性が男性に刺繍のハンカチを渡す。

 それは、誕生日とか、離ればなれになるとか、告白のような特別な場合です。


 レリック様の誕生日は三月と既に終わっていますし、今、レリック様は私室と騎士棟の往復だけで、遠征も無いので、連絡も直ぐに取れます。


 それに、もう告白してしまいました。


「完成したけれど、渡す理由が思いつかないのよね……。」


 折角渡すなら、必要な時に渡したい。

 でも、いつ?


「セシル様。渡したい時に渡すのが、最高のタイミングですよ。」


 ハンカチを眺めていると、傍に控えていたレミがアドバイスをくれました。


「特別な日にハンカチを贈られるのは勿論、嬉しいでしょう。ですが、セシル様がレリック様を想って刺繍されたのなら、普通の日でもレリック様は嬉しい筈ですし、きっと、その日が特別になりますから、ためらう必要はありませんよ。」


「そこまで思って頂けるかしら。」

「間違いありません。」


 レミに自信満々に断言されると、今日お渡ししても良い気がしてきました。

 それに、特別な日ではなくても、いつだってレリック様を想っているのは確かです。


 ふと時計を見れば、もう午後五時を回っています。

 レリック様は早いと、六時に帰って来ます。


 そうです!私からお迎えのハグをするのでした!


「レミ、お風呂の準備をお願い。準備万端でレリック様をお迎えしたいの。」

「そう言われると思って、お風呂の準備は出来ております。」


 侍女の優秀さには頭が下がります。

 何もかも手早くお世話されたお陰で、レリック様よりも早く大部屋へ入室出来ました。


 完成した刺繍のハンカチは、着替えた夜着のポケットに入れました。

 これで、いつでもお渡し出来ます。


 先ずは、私から、お帰りなさいのハグをするつもりです。

 レリック様が部屋から出てくるのを、扉前で待ちます。


 何だかソワソワして落ち着きません。

 主人の帰りを待つ犬とは、こんな気持ちなのでしょうか?


 夕食の準備をしているレミとラナに、温かい目で見られているのは、きっと気のせいではありません。

 恥ずかしいので、気付かないふりをしましょう。


 カチャッとノブが動く音がして、レリック様が扉を開けました。

 こういうのは思い切りが大切です。


「お帰りなさいませ、レリック様。」


 レリック様の姿を見つけた瞬間に抱き付きました。


「お!?ただいま。どうした?」


 突然抱き付いたので、レリック様の手も私の腕の中に拘束されています。


 これはハグというより、捕獲ではないでしょうか?

 積極的な方が良いと教わりましたが、失敗してしまったかもしれません。


 腕を解いて、レリック様を見上げました。


「あの……ハグは積極的な方が癒されると、ルルーシェお義姉様に教えて頂いたのですが、どうですか?」

「確かに疲れが飛んだ。」


 フッと微笑まれて、抱きしめ返されました。

 ルルーシェお義姉様のいう通りでした。

 頑張って良かったです。


 それにしても、レリック様のハグは長い気がします。

 私の時間感覚がおかしいのでしょうか?


「殿下、嬉しいのは分かりますが、そろそろお夕食を。」

「分かっている。」


 レリック様が私を抱きしめている腕を緩めました。

 侍女長のシーナが堪らずに声を掛けるということは、私の時間感覚は正しかったようです。


「セシル、昼に話した件で話がある。食後、私の部屋へ。」

「はい。」


 お昼は、外でギリギリ話せる内容に止めていましたから、秘匿事項も含めての話でしょう。


 以前の私なら、そんな秘匿事項の話までしなくても良いのに、と思っていました。

 でも今は、何でも話して、レリック様の背負っている重荷を分けて欲しいと思います。


 食後、レリック様の部屋に入室して、いつも座っているソファーに腰かけました。

 先ずは侍女長のシーナが淹れてくれた紅茶を味わいます。


 話が始まると飲むのを忘れて、折角美味しく淹れてくれた紅茶が、毎回冷めてしまうと学んだからです。


 紅茶の香りに癒されつつ、ほっこりした所で、レリック様が(おもむろ)に話し始めました。


「エドからセシルに正式な手伝いの依頼があった。そして、総長と私も了承した。」


 先日、謁見の間で行われた褒美の授与式で、陛下から正式に、騎士棟での手伝いを認められました。


 しかし、後に行われた団長の定例会議で、騎士団が王子妃になる女性に頼りすぎるのは良くない。とレリック様が主張して、了承されたそうです。


 その結果、私に手伝いが必要な場合は、部署の団長が総長とレリック様に手伝いの依頼をして、了承され、更に私も了解した場合のみ、手伝えると決まりました。


「本当は了承したくなかったが、数日前、封印の箱に亀裂が入ったと報告されては、致し方無い状況だと判断した。」


 箱に亀裂!?さらっと言われましたが、緊急事態です。


「だから魔が漏れて、魔に囚われている人が増えているのですね。それよりも、魔王領のように魔を引き寄せて、魔溜まりが出来てしまうのではないですか?」


 私の心配をよそに、レリック様は随分と落ち着いています。


「エドによると、完全体の魔王は残滓と違って十分な魔を得ていて、体内で安定している為、吸収したり、放出したりしないらしい。箱の亀裂が、魔に囚われやすくなる原因になっていると考えられているが、封印の箱は機能しているから、取りあえず大丈夫だと報告を受けている。」


「それは良かったです。それで、エド団長の依頼とは何でしょう。」


「魔に囚われた人間の魔を、箱で吸引して欲しいそうだ。眠らせているから襲われる心配も無い。私や青騎士団も付き添う。依頼を引き受けるなら、明日からになる。どうだ?」


「勿論、お引き受けします。詳しい状況をお聞きしても?」


「それは明日、現場を把握しているエドから直接聞いた方が良い。今、私が話しても、結局エドが説明するから、無駄に睡眠時間を削るだけになる。」


 確かにお話が長引けば、レリック様の睡眠時間が減ってしまいます。

 それは、いけません。


「お疲れなのに、気付かなくてすみませんでした、もう休みましょう。」


 ソファーから立ち上がって、レリック様の手を引くと、レリック様も立ち上がりました。


「私は大丈夫だ。セシルの体が心配なだけだ。」


「私はお休みの無いレリック様の方が心配です。結婚まで、何か耐えながら任務をしなければならないのでしょう?」


 じっと顔を見つめると、視線を逸らされてしまいました。


「それは当然というか、義務というか……。」


 レリック様が言い淀んでいます。

 やはり話せない事なのでしょう。


「私に出来る事はありますか?何でも言って下さい。その……夫婦になるのですから。」

「っ!」


 大きく目を見開いたレリック様と目が合って、思わず夫婦と言った事が恥ずかしくて俯いてしまいました。

 頭の上から溜め息が聞こえたかと思うと、力強く抱きしめられました。


「レリック様?」

「……ベッドに入ったら、なるべく早く寝てくれ。頼む。」

「え?はい、頑張ります。」


 私の睡眠時間をかなり気にされているようです。

 そんなに体力が無さそうに見えるのでしょうか。

 本当にレリック様は面倒見が良いです。


「では、お休みなさい。」

「ああ、お休み。」


 ベッドに入って、手を繋いでから、言われた通り目を閉じて、早く寝るように心掛けました。


 寝付きには自信があります。

 秒で眠れたのではないでしょうか?

 あっという間に朝を向かえました。


「あ!ハンカチ。」


 夜着のポケットに入れたままでした。

 今日こそ、タイミングを見てお渡ししましょう。


 着替えた騎士服のポケットに、ハンカチを入れ直したのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2023年12月8日にOFUSEサイトにて、レリックとセシルのイメージイラストを投稿しました。 宜しければご覧くださいませ。 OFUSEサイト・アシコシツヨシ
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ