74 ジェーン嬢からの手紙
立食パーティー翌日の夕食後。
侍女のレミが、小さな薄い箱を持って来ました。
「今しがた、サース公爵家のジェーン様より、お二人宛に贈り物が届きました。」
「贈り物?私にも?」
レリック様が怪訝な顔をしています。
「以前、レリック様の情報を提供しましたので、そのお礼かもしれません。」
箱を開けて中の物を取り出すと、赤い布と一緒に、お手紙が入っていました。
「先に手紙を読んでみますね。」
途中まで手紙に目を通して、慌てて顔を上げました。
「レリック様、その贈り物……」
どうやら声をかけるのが遅かったようです。
レリック様が、絶句して固まっていました。
レースで透け透けの、驚くほど布面積の少ない女性用の下着を手にした状態で……。
男女ペアで贈ってくださったのに、よりにもよって、女性用の下着を先に手にしてしまうなんて。
それも仕方がない気がします。
だって、下着のレースが、とても凝った美しいデザインだったのです。
惹かれて手に取ってしまうのも当然でしょう。
「今、王都で流行している最先端のお洒落な下着だそうです。
美丈夫ファンクラブの会報誌が切っ掛けで、下着の色にまで気を遣われるなんて、お洒落だと、アレク団長、いえ、アレクセイ様の価値観が女性を中心に受け入れられて、アレクセイ様のように美しくなれるとか、出世出来るとか、病気をしない、なんて噂が広がって、男女共に赤い下着が流行したそうです。
因みに、男女ペアで着けると愛が深まるそうです。」
レリック様が我に返ったのか、ハッとして女性用の下着を素早く箱に仕舞うと、顔をしかめながら、男性用の下着を手にして呟きました。
「アレクのせいか。まさか任務に集中している間に、王都で赤い下着が流行していたとは……。コレ、無駄に生地の手触りが良い。」
色に抵抗があるようですが、肌触りは気に入ったようです。
「情報提供のお礼だそうですから、最先端で、最高品質の下着を贈ってくださったのでしょう。
それにしても、男女ペアで身に着けると愛が深まるそうですが、今日、赤い下着を身に着けましょうなんて、どちらかが提案するのでしょうか?恥ずかしいですね。」
とても私から切り出せそうにありません。
突然、レリック様が、コホンと咳払いをしました。
お疲れでしょうか。
「恐らく、ペアでそれを身に着けるのは、いざという時だろう。互いに相談しなくても、暗黙の了解で分かる筈だ。」
「いざとは、建国祭とか、国の重要な行事の時ですか?」
首を傾げる私を見て、レリック様が顎に手を当てています。
これは、何か考えている時にする仕草です。
私、何か失言してしまったのでしょうか?
「いや、その、何だ。初夜とか、そういう二人にとって大事な時だ。」
「え!?あ、なるほど……。」
ただのお洒落アイテムだと思っていましたが、男女ペアだとそういう意味合いになるようです。
お互い何だか気まずくて、無言になってしまいました。
「贈り物をしてくれた事に対して礼状は書くべきだが、流行だからと従う必要も無いだろう。」
「そう、ですよね。」
取り敢えず贈られた下着は侍女のレミに渡して、他の下着と一緒に仕舞って貰いました。
まさか、初夜の話になるなんて。
結婚式は約二週間後の予定ですが、今はまだ実感が持てません。
その日が来れば、心の準備が出来るものなのでしょうか。
その後、レリック様とは何事も無かったように普通に過ごして、いつものように手を繋いで眠りました。
翌日、頂いた赤い下着をレミに出して貰って試着してみました。
ジェーン様にお礼状を書くにも、感想をお伝えするべきかと思ったからです。
やはり思った通り、兎に角、布が小さくて、レースで透け透けです。
一応隠すべき所はギリギリ隠れているでしょうか。
「これは……下着としてどうなのかしら?お尻が全く隠れていないわ。」
「セシル様の透き通るような白い肌に、赤のレースが映えて、とても素敵です。これは是非、初夜に着けて殿下を悩殺するべきです!」
流行に敏感な侍女のレミとラナに大絶賛されてしまいました。
お洒落として、こっそり身に着けるのはまだ良いですが、レリック様に見せるのは無しでしょう。
それに初夜は何というか……何でしょう?
そもそも初夜の下着について、正解が分かりません。
侍女のレミとラナは正解を知っている筈です。
彼女達が自信を持って言うのならば、恥ずかしくても従うべきなのかもしれません。
「私が着けるって事は、レリック様もあの下着を着けるのかしら。」
「そんなことはどうでも良いのです。セシル様が身に着ければ、絶対殿下は喜びます。初夜は、それが大事なのです。」
「そうなの?」
「そうです!」
初夜はレリック様に喜んで頂くのが重要なようです。
そして、二人の言い分によると、この下着はレリック様好みらしいのです。
「女性が着用する下着の好みについて話すなんて、レリック様は、侍女の貴女達に心を開いているのね。」
感心していると、レミが首を横に振りました。
「殿下は何も教えてはくださいません。でも、セシル様がその下着を着けて喜ばれるのは分かります。」
いつも思いますが、レミの自信はどこから来るのでしょう。
珍しくラナまで激しく同意の頷きをしています。
私もいつか二人のように、お尋ねしなくても、レリック様を理解出来るようになるのでしょうか。
そうなれるよう、今は何でも話し合って理解したいです。
とはいえ、初夜の下着については内緒です。
ジェーン様には、感想と共に、有り難く身に着けさせて頂きますと、お礼状を書いたのでした。




