73 慰労会にて
最後にレリック様が陛下よりご褒美を賜って、列に戻りました。
「これで褒美の授与式は終了する。この後、南棟、地下一階の大広間にて立食パーティーを開催する。全員参加するように。では、最後に陛下より挨拶がある。」
ピューリッツ殿下の言葉を受けて、陛下が玉座から立ち上がりました。
「我が王国騎士団を誇りに思う。皆、今後とも期待している。今夜は好きなだけ食べて飲んで、鋭気を養ってくれ。以上。」
「「「「ハッ!」」」」
陛下の挨拶に敬礼して、謁見が終了しました。
国王陛下とピューリッツ殿下が謁見の間を退室すると、騎士達も騎士棟へ向かい始めました。
私とレリック様は、来る時に使った転移陣で騎士棟へ移動して、南棟地下一階にある広間へ向かいました。
立食パーティー会場になっている広間では、白、赤、黒、青と様々な部署の騎士達が既に食事をしています。
「もう、始まっているのですね。」
「褒美を貰えない騎士達は、我々が謁見する五時より前に、会場入りが伝えられて、国王陛下より、事前に立食パーティー開始が宣言されている。騎士団全員が一斉に集まって始めると、人数が多すぎて、食事を取るにも混雑するし、料理を作るのも追いつかない為だ。」
「確かに、王国騎士団全員が一斉に集まったら、大変ですよね。」
国王陛下勅命の任務は、実際に現地へ行った騎士だけではなく、全騎士団の協力があってこそ達成出来るとの考えから、立食パーティーは、王国騎士団全員参加が決まりだそうです。
褒美を受け取った者は、パーティーの終了時間まで参加出来ますが、それ以外の騎士は仕事もありますので、一~ニ時間位で交代しながら、全員が参加するそうです。
勢揃いではなくても、やはりそれなりに大人数なので、かなり賑やかです。
圧倒されて立ち止まっていると、レリック様が私の腰に手を添えて、エスコートしながら、顔を覗き込んできました。
「セシル、今後も騎士棟で任務を手伝うなんて、女性が望む褒美では無いだろう。穏やかに暮らしたいのでは無かったのか?」
レリック様は、私の褒美について不服みたいです。
「もう、充分穏やかな生活はしていますし、加護でお役に立てる喜びを知りました。何よりパートナーとして、お忙しいレリック様のお役に立ちたいのです。迷惑ですか?」
首を傾げてレリック様の顔を見つめました。
片手で目を覆いながら上を向いたレリック様に、ふーっと長い溜め息を吐かれてしまいました。
「気持ちは嬉しいが、危険な目に合わせたくないだけだ。」
「分かるぞレリック。俺だって、レミーナが騎士団の任務に参加するなんて言い出したら………そんな事、先ずあり得ないが、絶対反対する。とはいえ、セシル嬢の加護は使えるし、助かるのも本音だな。」
ポンとレリック様の肩に手を置いたのは、エド団長でした。
「エド団長、レミーナ嬢との結婚を認められて良かったですね。」
エド団長を待ち続けると言っていた、レミーナ嬢の喜ぶ顔が想像出来ます。
「思ったより早く認められて良かった。君達は六月末日が挙式のようだな。」
「ええ。さっき陛下に言われて驚いている所です。レリック様はいつから御存知だったのですか?」
昨夜の時点では、封印行事が終わらなければ結婚出来ないと、レリック様は言っていました。
「今日の午後、急遽父上が決めた。我々の挙式は、魔王封印行事が終わってからになる。つまり、さっさと行事を終わらせろと、青騎士団に圧力をかける意味があるらしい。」
レリック様の話によると、王宮の地下には魔王を封印している箱があるそうで、百年毎に新しい封印の箱を作って、封印し直さなければならないらしいのです。
そして、今年が丁度、箱を封印し直す百年目で、封印の箱は青騎士団が代々作っているとのこと。
本来ならば、既に箱が出来ている筈なのですが、主に箱を作っていたエド団長が、ひと月ほど失踪していたせいで、現在、箱の製作が遅れているのが現状です。
「全く、部下が無能で困る。俺がいなくても、人手はある。ならば、箱は出来ているべきだと思わないか?」
エド団長が不服そうにしています。
「聞き捨てならないですね。こっちは上司が自己中で困るんですよ。指示もせず、好き勝手にやった挙げ句、急に消息不明になって、放置ですからね。手の出しようが無いんですよ。」
エド団長の背後から現れたのは、シアーノです。
口をモグモグ動かしながら、器用に喋っています。
お皿には大量の料理が乗っていて、食事を食べる手は、止まる気配がありません。
「本当に言うよな、シアーノは。まあ、良い。ところで、セシル嬢が使える箱は、魔王の為に作られた物だよな。それで魔王を吸引すれば、もう封印の箱を作る必要は無いよな。」
エド団長の言葉に、確かにと思ってしまいました。
「エド、馬鹿を言うな。我々が吸引したのは、魔王を倒した後の残滓だったのを忘れたのか。箱だけで魔王をどうこう出来るなら、他のアイテムなんて必要無いだろう。それに、吸引するには、魔王を箱の外に出す必要がある。何もかもが危険過ぎて、全く現実的では無い。」
レリック様がエド団長に、鋭い視線を向けています。
「それもそうだな。そもそも、令嬢を危険に晒す趣味は無い。ましてやセシル嬢は恩人だ。セシル嬢が結婚する為にも、箱の製作を急ぐとしよう。」
「何が急ぐとしよう、ですか。やる気出すのが遅すぎでしょう。出すなら、もっと早めに出せよ。全員迷惑してるんですよ。」
シアーノ、きっとストレスが溜まっていたのでしょう。
いつもに増して、言いたい放題です。
「シアーノ。食べるか、しゃべるか、どちらかにしろ。いや、うるさいから、やっぱり食ってろ。俺は飲む。」
ちょっと面倒臭そうにしながら、エド団長が足早に、お酒が置いてあるテーブルへ向かって行きました。
「我々も行こうか。」
「そうですね。」
レリック様と食事を取りに、テーブルへ向かいました。
「セシル嬢、こちらの料理をどうぞ。」
「セシル嬢、こちらもお勧めです。」
赤騎士団と、白騎士団の騎士達から、やたらに料理を勧められました。
「有り難うございます。どれも美味しそうですね。」
言われるがまま、料理をお皿に盛られていると、お皿がてんこ盛りになってしまいました。
さっきのシアーノみたいな状態です。
これは、食べきれそうにありません。
どうしましょう。
レリック様に助けを求める視線を向けていると、背後から、クスクスと笑う声が……クリス副団です。
「凄い量ですね。セシル嬢は、昼食の量が足りないらしいと部下達が噂していましたが、本当だったようですね。」
「あ、これは……。」
どうしましょう、何を言っても説得力が無い気がします。
「クリス副団、誤解だ。セシルはいつも食べきれなくて、私や他の者達が分けて貰っている。」
「おや、それは失礼しました。褒美に昼食の増量を希望されていたので、余程足りないと思われていたようですよ。」
「それは、お恥ずかしい限りです。」
皆さん、親切に料理をお勧めして下さると思っていましたが、足りないと思われていたなんて。
食堂が違う赤騎士団と白騎士団の騎士達が、やたらと食事を勧めて来た理由が理解出来ました。
「セシルが少食だと分かっている者も多くいる。騎士達を想うセシルの優しさだと、いずれ皆、気付くだろう。」
レリック様は、私のお皿に盛られた大量の食事を残さなくても良いように、食べるのを手伝って下さいました。
お陰で料理を残さなくて済みました。
ホッとしたのも束の間。
「セシル嬢、足りないなら、こちらもどうぞ。」
「まだまだ料理はありますから、ご安心下さい。」
レリック様に食べて頂いているところを、全員が見ている訳ではありません。
誤解したままの白騎士団と赤騎士団の騎士達が、次々に料理を勧めてくれようとやって来ました。
「おい、セシルはそんなに食べられない。他の奴等に、これ以上、勧めないよう伝えておけ。」
レリック様のお陰で、やっと誤解が解けたのでした。




