72 陛下への謁見
午後四時半。
赤騎士団の騎士服に着替えて、大部屋の椅子に座って待っていると、レリック様が騎士棟からお戻りになりました。
「セシル、準備が出来ているなら行こうか。褒美は随分貰えるようだ。楽しみにしておくと良い。」
レリック様に伸ばされた手を取って驚きつつ、立ち上がりました。
「レリック様はもうご褒美の内容を御存知なのですか?」
「ああ。今日の午後、褒美の授与者と褒美の内容が、騎士棟の掲示板で発表された。多分、セシル以外、全員知っている。」
「私だけ知らないなんて、何だかズルいです。」
「もうすぐ分かる。さあ、謁見の間へ行こう。」
宥めるように手を引かれて、レリック様の部屋へと誘導されました。
「レリック様、謁見の間へは、大部屋の扉から出て、加護で存在を消して向かうのではないですか?」
謁見の間は一般区域にあります。
ですから、途中で王宮で働く貴族に必ず出会います。
王宮内で、女性はドレスを着るのが常識で、騎士服、しかも王国騎士団の騎士服を女性が着るなんて、本来は許されません。
だから、絶対に見られないように対策しなくてはならないのです。
「いや、謁見の間へは騎士棟から転移陣を使って直接転移する。だからその格好でも、騎士以外には会わないから、安心して良い。ほら、おいで。」
陣に入ったレリック様に抱き寄せられて、騎士棟の北棟二階にあるレリック様の個室へ転移しました。
そこから南棟一階へ移動して、陣専用の部屋から謁見の間に転移します。
「転移陣って本当に便利ですね。」
広間には既に、魔王領で任務に参加した赤騎士団と青騎士団の騎士達が集まっていました。
そろそろ陛下に謁見する予定の午後五時です。
陛下が座る数段高い玉座から出入口の扉まで、真っ直ぐ続く幅広の赤い絨毯を避けて、右手に赤騎士団、左手に青騎士団が整列し始めました。
玉座の階段下には、総長のピューリッツ殿下が立ち、ピューリッツ殿下より二メートル位離れた位置に、騎士団が整列しています。
「セシルは以前と同じ、私とクリス副団の間に。」
レリック様に手を引かれて、レリック様とクリス副団に左右を挟まれる形で赤騎士団の最前列に整列しました。
定刻の午後五時。
陛下が玉座に座りました。
「皆、ご苦労。約束通り、褒美を与える。名前を呼ばれた者は前に出よ。」
陛下の言葉を受けて、ピューリッツ殿下が名前を呼びます。
名前を呼ばれた者は、中央の赤い絨毯を歩いて、玉座がある階段下まで進み、敬礼すると、陛下から褒美の内容を発表されます。
褒賞金と勲章は全員貰えて、更に本人の希望に沿った褒美が用意されています。
陛下のお言葉を聞いてお礼を言った後、宰相経由でピューリッツ殿下から目録を受け取り、胸に勲章をつけて貰います。
この時、ピューリッツ殿下から、労いの言葉をかけられるようです。
最後は、陛下に一礼して、元の位置に戻ります。
「任務を完遂したら、直ぐに褒美が用意出来るように、国王陛下勅命の任務が決定した際には、事前に希望を聞く仕組みになっている。」
ピューリッツ殿下に呼び出されて、説明はされていましたが、昨日任務が終わって、今日ご褒美が貰えるとは、本当に直ぐで驚きます。
「自分の望む褒美が、他者にとって都合が悪い場合もあるから、任務に支障が出ないよう、褒美について他言しない決まりになっている。だから、レリックにも教えないように。」
そのようにも言われていましたので、希望については、誰にも言っていませんし、聞いてもいません。
今日の午後、騎士棟の掲示板に張り出されて、既に褒美の内容を騎士の皆さんは知っているようですが、私はまだ知りません。
ちなみに希望は三つ聞かれました。
その中から、一つか二つ与えられるのが慣例だそうです。
レリック様が随分と貰えると言っていましたので、二つ貰えるのかもしれません。
どれが褒美として頂けるのでしょうか。
騎士の皆さんが、何を望まれたのかも気になります。
陛下の発表する褒美の内容に耳を傾けました。
爵位、領地、邸が最も多くて、希望する令嬢との結婚もありました。
報償金の金額は様々で、金貨五千枚が最大のようです。
ガリア王国では、爵位を持っているかどうかで、世間の扱いが随分と違います。
家督を継げない貴族男性が、地位の高い王国騎士団に入団するのは、騎士爵と言う特別な爵位を得られ、更に、国王陛下勅命の任務で武勲を立てれば、騎士爵以外の爵位や領地等を褒美として得られるからです。
クリス副団も爵位でした。
何度か活躍すると爵位を上げられるようで、クリス副団は今まで男爵位だったようですが、子爵位を与えられていました。
エド団長は、拘束の首輪を外せませんが、レミーナ嬢との結婚と、邸での同居を認められていました。
良かったです。
「セシル。」
「はい。」
ピューリッツ殿下に呼ばれて、中央の階段下まで行きました。
皆さんがするように、その場で敬礼して陛下のお言葉を待ちます。
「セシルの褒美を発表する。一、今後も任務の手伝いとして騎士棟の出入りを許可する。二、騎士食堂の昼食に限り、パンと肉の増量を約束する。三、王国騎士団剣術大会の観覧席を、美丈夫ファンクラブの為に五十席確保する。四、六月末日にレリックと挙式。その前三日間、アセンブル伯爵邸の帰省を許可する。五、勲章と褒賞金の金貨八千枚を授与する。以上。」
驚きました。
皆さん、受け取る褒美は一つか二つだったので、まさか希望した全てを頂けるとは思っていませんでした。
しかも、六月末日に挙式なんて初耳ですし、帰省の許可まで含まれていました。
それに、褒賞金の金貨は聞いていた五千枚ではなく、八千枚……。
気の遠くなるような額です。
「有り難うございます。」
動揺を表に出さないよう、平静を装いつつ、感謝を伝えました。
その後、ピューリッツ殿下から目録を受け取って、胸に勲章を付けて貰いました。
「陛下から勲章を授与された令嬢は、セシルだけだ。おめでとう。」
「有り難うございます。」
ピューリッツ殿下にも感謝を伝えて、再び陛下に一礼しました。
元の位置に戻る為、広間の方に体を向けると、突然、大きな拍手が謁見の間に響き渡りました。
今まで拍手なんて無かったのに、私の時だけ騎士達に拍手されてしまいました。
レリック様も皆さんと同様に、微笑みを浮かべて拍手をしています。
きっと何もかも知っていたのでしょう。
私だけ驚かされてばかりなのはズルいですが、嬉しいのも本音です。
「レリック団長。」
「はい。」
最後にレリック様が呼ばれました。
何を希望されたのでしょうか?
「一、結婚式の後、五日間の休暇を許可する。二、勲章と報償金の金貨五千枚を授与する。以上。」
「有り難うございます。」
私と婚約してから、レリック様がお休みだった日は、一日もありません。
疲れが溜まっている筈なのに、結婚式までお休みが貰えないなんて、大丈夫でしょうか。
挙式後は、せめて、ゆっくり休んで頂きたいです。
それにしても、任務のご褒美にお休みを望むなんて、王子って本当に激務なのですね。
しっかり支えて、労って差し上げなければ。
新たな使命感が湧いて来たのでした。




