69 告白
転移陣で騎士棟へ帰還すると、陣の部屋には任務初日のように、青騎士団や赤騎士団の騎士達、ピューリッツ王太子殿下、そして、国王陛下が待っていました。
任務の終了を腕輪で伝えていたのは知っていましたが、こんなに早く勢ぞろいしているとは思いませんでした。
初日と同じ、赤騎士団の最前列に並んで立つ、レリック様とクリス副団に挟まれる形で、整列しました。
「国王陛下、無事、一人の犠牲も無く、魔溜まりの吸引任務を終えました。」
総長のピューリッツ殿下が国王陛下に報告すると、陛下はゆっくりと頷きました。
「皆、ご苦労。世界に危機が迫っていた事を国民は知らないだろう。だが、間違いなくここにいる皆が世界を救ったのだ。称賛される事もなく、人知れず国や国民の為、任務に尽力する我が国の王国騎士団を誇りに思う。褒美は後日、必ず与える。今日はゆっくり休んでくれ。以上。」
「「「ハッ!」」」
今度はタイミングを間違えずに敬礼出来ました。
その後、食堂に用意されたサンドイッチを帰還した皆さんと一緒に頂いたり、レリック様が報告書を書き終えるのを赤騎士団の執務室で待ったりして、私室に戻って来たのは、夕方五時半頃でした。
「レリック様、お話があるのですが、夕食後、お時間宜しいですか?」
「丁度私も話をしようと思っていた。食後、私の部屋で良いか?」
「はい。」
何を言われるのか不安ですが、今は気持ちを伝える事を考えましょう。
お風呂と夕食を済ませて、レリック様の部屋にあるソファーに座りました。
紅茶だけ用意して貰って、侍女を下がらせると、早速、レリック様が口を開きました。
「話はどちらからにしようか。私が先に言おうか?」
「私が先でお願いします。」
言う前に振られたらキツイです。
「では聞こう。」
レリック様に体を向けて、目を見ました。
「あの……任務が終っても、婚約破棄、したくないです。」
レリック様の片眉が、ピクリと動きました。
「婚約破棄なんて誰が言った。」
今まで聞いた事がない低い声に、ちょっと、たじろぎました。
「誰かに言われたのではなくて、任務の為に婚約しましたので、任務が終われば婚約破棄されるものだと思っていました。」
レリック様が不機嫌そうに、両肘をそれぞれの膝に乗せて、手を足の間に垂らすと、前傾姿勢のまま、盛大な溜め息を吐きました。
「任務の為に結婚を申し込んだのは事実だから、そう思われても仕方がない。だだ、任務があるから婚約になるが、終われば結婚するとも言った筈だ。婚約破棄するとは一言も言っていない。」
あまりにもあっさり否定されて、狐につままれたような気分です。
「え?では……」
「婚約破棄は絶対に無い。例えセシルの気が変わって、婚約破棄を望んでもだ。理由として、我が王宮の地下に魔王を封印した箱がある事も関係している。」
「え?」
話の雲行きがおかしいです。
婚約破棄されないと分かって嬉しい筈なのに、喜ぶ暇もありません。
私はただ、婚約破棄したくないと、レリック様が好きだと、お伝えしたかっただけですのに。
「魔王を封印している箱は、魔を吸引する箱と違って、入れておくだけで消し去れない。だが、その存在を知られる事は普通ならあり得ない。」
普通なら、とは含みのある言い方です。
聞きたくないのに、気になってしまいます。
私の興味に答えるように、レリック様が親切にも説明を続けて下さいます。
「ただ、魔に囚われた人間は重症化すると、魔を撒き散らしながら、より強い魔と繋がろうとする。そうなると、いくら王家の地下に封印して隠していても、魔王の存在に気付かれてしまう。その為、我が国は初期の段階で魔を払う対策がされている。」
対策とは、祓いの鐘や、祓い屋に扮した青騎士団の見回りを言っているのでしょう。
「もしかしなくても、極秘中の極秘な話ですよね。」
「今更だ。それに、セシルに関係がある話だからしている。」
そう言われると黙って聞くしかありません。
「魔と繋がりたい存在にセシルの加護を知られれば、魔王の封印を解く為に利用されかねない。国を守る王家にとって、セシルは生涯、守るべき監視対象であり、様々な点から、私との結婚が最良だと判断した。」
「生涯、監視対象、ですか。」
確かに私が悪い人に利用されて、王家の秘匿しておきたい、あれやこれを解錠して、情報が世に出てしまっては、国内が大混乱になるのは必至です。
国の為とはいえ、あれだけ令嬢にモテて選び放題のレリック様が、一生私という任務に縛られるなんて、気の毒に思えて来ました。
「嫌な言い方をして済まない。任務とは言っても、私は嫌々ではなく、自らの意思でセシルとの結婚を決めた。本来なら互いに成人しているし、直ぐに結婚も可能ではあった。だが、任務後に結婚と言ったのは、最悪の事態を想定していたからだ。」
「それは、任務が失敗する可能性ですか?」
レリック様は否定するように、首をゆっくりと横に振りました。
「命を落とす可能性だ。今回の魔王領任務で重要なのは、魔を吸引する事で、それが出来るセシルに危険が及んだ場合、例え我々が犠牲になろうとも、守る覚悟をしていた。だから任務後、私が生きていれば結婚する。という意味合いがあった。」
建国祭の夜、余興の箱を解錠したのが切っ掛けで、レリック様に目を付けられて、任務の為に婚約を提案されました。
その時から、私より身分が高くて、守られるべき王族のレリック様が、既に最悪の事態を想定して、私を守る覚悟を決めていたなんて、衝撃です。
魔王領へ行く前日、何でもない、いつも通りだ。と余裕そうに笑っていた姿を思い出しました。
あの時、どんな気持ちでいたのでしょう。
切なくて、無意識にナイトドレスの布を握り込んでいた私の手に、レリック様の手が柔らかく重ねられました。
「命をかけて守ると言ったら、セシルの父上や兄上、私の父上にも、命を犠牲にして守られても、セシルは喜ばないから、死ぬ気で生きろと叱られてしまった。当然、そのつもりではあったが、絶対は無い。だから任務前に、敢えて具体的な結婚の話をしなかった。誤解をさせて済まない。」
「そんな、レリック様は何も悪くありません。私が勝手に誤解していたのです。」
私より国の為に頑張っているレリック様や、騎士達の命が軽いかのような発言が悲しくて、だけど、そこまで守ろうとしてくれた気持ちが嬉しくて、有り難くて、浮かび上がる色んな思いを、凄く伝えたい気持ちになりました。
思いのまま勢い良くソファーから立ち上がって、レリック様の方に体を向けると、両手を広げて、レリック様の頭を包むように抱き締めました。
「セシ―――」
「本当にレリック様が無事で良かったです。レリック様がいつも守って下さったから、私はこうして、ここにいられます。有り難うございます。レリック様にとって、一生私と過ごす事が任務だとしても、その任務が良かったと思えるように、生涯をかけてレリック様を幸せにしますね。」
そっと腕を緩めると、レリック様が私を見上げました。
いつもは私が見上げているので、レリック様の上目遣いは貴重で、年上の成人男性なのに、何だか幼い子供のような愛らしさに胸が打たれて、愛しさが込み上げて来ました。
「レリック様、お慕いしています。」
本能的にレリック様のおでこに、口付けを落としていました。




