57 茶会呼び出しの後(レリック視点)
突如、執務室に母上の使者がやって来た。
お茶会に来い、だと!?
母上から仕事中の呼び出しはよくある。
忙しくて断っても問題は無いし、結構な頻度で断っている。
断るか。いや待て、今日はセシルと一緒だったか。
ならば少しくらい、覗いても良いか。
騎士服姿も良いが、令嬢らしいドレス姿のセシルを見るのも良い。
そんな軽い気持ちで行ったら、母上が呪われているという、とんでもない事態になった。
今日は行って良かった。
そして、セシルがいてくれて、本当に助かった。
エドと別れて、やっと執務室に戻って来た。
さて、重要な仕事に取り掛かるとしようか。
それにしても資料の量が多い。
この中から選ぶのは、先ず、絶対無しの資料だ。
これはハッキリしているから除外するのは簡単だ。
しかし、まだ残った資料は多い。
「レリック団長、仕事してくださいませんか。」
クリス副団が追加の書類を執務机にドサドサと置いている。
「何を言っているクリス副団、仕事ならしているだろう。」
この資料の束が目に入らないのだろうか?
「仕事とは、そのドレス選びの事ですか?マンセン王妃殿下が呪われていたと分かったのですから、団長会議に向けて、報告書を書くべきでは?」
クリス副団は急かすが、まだ午前中だ。
「会議は午後四時からだろう。第一部隊には、犯人を捜索しているエドに同行するよう指示しているし、犯人を捕縛したら、アレクが聞き取りをする。報告書を書くにも、第一部隊が戻ってからだ。その間に、母上から指示された重要な仕事をせねばならない。」
「重要な仕事、ねぇ……。」
クリス副団が疑いの眼差しを向けているが、気にしないでおく。
今はそれどころではない。
私好みのドレスを着たいなんて……。
全く、セシルは可愛いことを言ってくれる。
「仕方ない。」
と言いつつ、顔は緩んでいるし、かなり意欲的なのは間違いない。
手元に残したデザイン画の描かれている資料を順番に眺める。
この中から、結婚式用と、晩餐会用、結婚披露パーティー用の三着を選ぶ。
「この清楚系は絶対似合うだろう。この胸元と背中が開いているのはヤバい、見てみたい。肩が出ているのも色っぽくて良いが、裾がふわふわしているのも可愛らしさが出て似合いそうだ。クッ……選べない。セシルなら、何でも似合うのではないか?」
「レリック団長、鬱陶しい心の声が丸聞こえです。」
セシルに引かれたら耐えられないが、クリス副団にいくら引かれても、痛くも痒くも無い。
「あ――どうしたものか。なかなか選べない。」
資料を見て思わず唸る。そもそもドレスを選んだ経験が無い。
「レリック団長、多くの男性は、女性にドレスを贈る時、脱がす事も考えて贈るらしいですよ。」
「脱がす!?」
私が選んで、セシルに着せたドレスを!?
クリス副団に限らず部下達は紳士を装いつつも、案外その手の話が好きで、夜会等から情報を仕入れて来ては、こうして披露してくれる。
「脱がしやすい大胆なドレスも素晴らしいですが、脱がすのが困難だと、達成感があるとか、肌を露出しない清楚なドレスや、可愛らしいドレスの方が、脱がした時の色気が際立つ等、贈る時に考えると、様々なタイプのドレスを選べるのだとか。」
セシルの滑らかな白い肌、華奢な首、細い腰、形の良い……いかん、クリス副団のせいで、想像力が働いてしまう。
だが、そういう目で資料を見ると、確かに絞りやすい。
私のテンションが上がらない資料はどんどん外して、残った資料は、意外にも多種多様で、セシルに似合いそうな素晴らしいデザインばかりのように思えた。
私好みのドレスを着たいとセシルは言ったらしいが、まさか、私が脱がしたいドレスを選んでいるとは思いもしないだろう。
王子だの何だの言っても、所詮私も他の男と同じ、本性は紳士の皮を被った狼らしい。
疚しい気持ちで選んだドレスをセシルは気に入ってくれるだろうか?
そもそも、母上が認めなければ話にならない。
午後、母上の護衛に腕輪で連絡して了解を得ると、早速資料を持って、母上の私室へ向かった。
「結婚から逃げ続けていた貴方が、積極的に婚約者のドレスを選ぶようになるなんて、人生分からないわね。」
母上に心配をかけていた自覚があるだけに、若干気まずい。
「私の話は良いので、選んだドレスの感想を聞かせて下さい。」
そもそも女性のドレスなんて選んだのは初めてだ。
夜会の令嬢が着ているドレスを思い出して、好みでは無いと感じたデザインは排除したが、彼女達は流行のドレスを着ている筈だ。
母上だって流行の最先端には敏感だ。
私の選んだドレスがどう見えるか、不安しかない。
「ふふっ、良いわね。どれもセシルちゃんによく似合いそうだわ。後は私とアリッサに任せて頂戴。」
「はい、よろしくお願いします。」
やれやれ、合格を貰えて良かった。選び直せと言われたら、流石に無理だった。
「レリック、貴方が選んだ最高のドレスを着るセシルちゃんを見たいなら、必ず、無事、任務を完遂なさい。」
「はい。」
私がセシルに弱いと、母上に見透かされているのは癪だが、母上なりに心配して私のやる気を上げようと、そのような言い方をしたのだろう。
そんな事、言われなくても、絶対に無事、魔溜まりの任務を終わらせて、セシルと結婚するつもりだ。
とはいえ、私の選んだドレスに身を包んだセシルを見たいか、だと?
そんなの、見たいし、愛でたいし、堪能したいに決まっているだろう。
認めよう。やる気は上がった、と。




