56 マンセン王妃殿下とお茶会後編
人払いをした後、マンセン王妃殿下の胸に見える黒い錠前について、話をしました。
「私の胸に錠前が?レリックには見えるの?」
「私にも見えません。ですが、解錠の加護を持つセシルに、錠前が見えるのは確かです。」
「お義母様に初めてお会いした時、錠前はありませんでした。私ならば、その錠前を解錠出来ます。ですが、解錠しても良いものか、レリック様に相談したかったのです。」
この錠前が何か見当がつかないので、解錠後、どんな影響があるのか分かりません。
「不定期な胸の痛みと苦しみか……確認が必要だ。母上、少しお待ち下さい。」
レリック様が席を外して、少し離れた場所から、腕輪で誰かと通信しています。
内容は聞こえませんでした。
「レリックに任せて、お菓子を食べながら待ちましょう。」
「そうですね。」
不安な筈のマンセン王妃殿下が気遣って下さいますので、私も今を楽しもうと、お菓子に手を伸ばしました。
「お義母様、このお菓子、とても美味しいです!」
「あら、良かったわ。」
優しく微笑むマンセン王妃殿下の錠前が、再び動きださないようにと祈るばかりです。
「母上、お待たせしました。」
「マンセン王妃殿下、お久しぶりでございます。青騎士団団長のエドワードです。本日は呪いの確認に伺いました。」
レリック様はエド団長を呼び出したようです。
最近、青騎士団に復帰したのは周知の事実です。
マンセン王妃殿下の前だからでしょう。
私の知るエド団長と口調が違うので、違和感を覚えました。
エド団長が陣の描かれた一枚の布を地面に広げています。
「母上、陣の中心に立って下さい。」
レリック様に手を差し出されて、マンセン王妃殿下が陣の中へとエスコートされました。
エド団長が跪いて、陣を指で二回ノックすると、陣が赤く光って消えました。
「母上、結構です。席にお戻り下さい。」
再びレリック様にエスコートされて、お義母様は席に座りました。
「結論から言うと、呪いで間違いありません。」
エド団長の言葉にマンセン王妃殿下が頷きました。
「そんな気はしていたわ。」
心当たりがあるようです。
呪いって、そんなに身近なのでしょうか?
「呪いを解く方法は、術者を探して呪いを止めさせる、それが解決方法です。しかし、今から犯人を探すとしても、数日は掛かります。その間にマンセン王妃殿下の命が尽きる可能性があります。」
命が!?
「エド団長、他に方法はないのですか?私が錠前を解錠してはいけませんか?」
話の途中かも知れないのに、思わず口を挟んでしまいました。
しかも、思わずエド団長って……今はエドワード様と言うべきでした。
内心大反省ですが、表情には出さず、質問の答えを待ちました。
「残念ながら呪いを解くには、先ほど申し上げた方法のみです。錠前の解錠ですが、セシル嬢は呪いを錠前として認識しているようなので、解錠すれば呪いが解ける可能性は高いと思います。ただ、呪いを掛けた相手は無事では済まないかもしれません。呪いは本人以外が解くと、本人に戻る性質がありますので。」
マンセン王妃殿下が助かるなら、錠前を解錠したいですが、呪いを掛けた相手がどうなってしまうのかを考えると怖いです。
「セシルちゃん、私は王妃として、まだ死ぬ訳にはいかないの。辛い選択をさせて申し訳ないけれど、お願い出来ないかしら。」
マンセン王妃殿下に手を握られて、懇願されてしまいました。
どうなるのか怖いけれど、優しいマンセン王妃殿下を失いたくはありません。
「分かりました。解錠させて頂きます。」
マンセン王妃殿下の胸にある、黒い錠前に触れました。
解錠した瞬間、見えていた錠前は黒い霧となって、跡形もなく消えました。
「あ……どう言えば良いのか分からないけれど、今、胸の違和感が消えたわ。」
マンセン王妃殿下が胸に手を当てて、目を丸くしています。
「母上、確認の為、もう一度陣へ。」
レリック様にエスコートされて、マンセン王妃殿下は再び陣の中心へ入りました。
再びエド団長が陣を指でノックします。
今度は青く光りました。
「呪いは解けています。」
エド団長の言葉を聞いたマンセン王妃殿下が、再び席までエスコートしようと手を差し出すレリック様を無視して、私に駆け寄って来ました。
「セシルちゃん、有り難う。何てお礼を言ったら良いのか。」
ギュッとハグされました。
「お役に立てたようで、嬉しいです。」
「セシル、母上を助けてくれて有り難う。」
ポンと大きな手が頭に乗せられて、見上げると、レリック様が安堵した表情をしていました。
冷静に対応していましたが、きっと、とても心配していた筈です。
「さあ、不安要素は無くなったし、ドレス選びを再開しなくてはね。」
体を離したマンセン王妃殿下が、満面の笑みを浮かべました。
「母上、これは私が預かって選んでおこう。」
レリック様は素早くドレスのデザイン画を全て回収すると、私の肩にそっと触れました。
「では、仕事に戻る。セシル、ゆっくり楽しんで。」
「はい。有り難うございます。」
レリック様はふわりと微笑むと、エド団長と足早に去って行きました。
さりげなくドレス選びから解放して下さるなんて、流石です。
「あら、逃げられちゃったわね。まあ良いわ。息子と存分にドレス選びが出来るなんて、面白そうだものね。」
マンセン王妃殿下がとても楽しそうに笑みを深めていました。
私のドレスだけど、レリック様、宜しくお願いします。
心の中で呟いたのでした。




