53 ご褒美
騎士棟へ戻ると、赤騎士団は救出した奴隷を牢に収容して、総長のピューリッツ殿下に任務完了の報告をしました。
レリック様と私室へ戻って来たのは、午後八時過ぎです。
午後六時半から任務が始まって、まだ一時間半しか経っていません。
証拠品が発見されてから、犯人捕縛までの早さには驚くばかりです。
夕食を終えて就寝までの時間、レリック様の部屋にあるソファーに座って、紅茶を飲みながら話をするのが、すっかり日常になっていました。
侍女に重要な話を聞かれなくて済みますし、侍女達は紅茶を用意しておけば、用事が終わり次第、さっさと休めるので、互いに都合が良いのです。
「今回の任務は、セシルがいなければ解決出来なかった。何か褒美をしよう。何が良い?欲しい物は無いのか?」
レリック様が顔を覗き込んで来ます。相変わらず美しいご尊顔です。
「レリック様達騎士団が、ご褒美を与えられるなら考えますが、そうではないのでしょう?」
ご褒美が与えられるのは、国王陛下勅命の重大な任務を達成した場合に限定されている筈です。
「確かに、今回の任務は通常任務で、特別任務ではない。」
「でしたら、私も無くて大丈夫ですよ。」
「それならば、褒美として、特別に、私が存分に褒めてやろう。」
特別に、とは言いますが、レリック様は普段から結構褒めて下さっている気がします。
今までに無い、少し偉そうな態度は、どういう心境なのでしょう?
でも、王子だからでしょうか?俺様な態度も様になっています。
私の隣に座っていたレリック様が、体をこちらに向けて座り直しました。
「セシルは我々騎士団にとっても、王家にとっても、掛替えの無い存在だ。」
さっきの偉そうな態度が一変して、極上の優しい微笑みを浮かべながら、殊更甘く良い声で褒めつつ、頭を撫でてきます。
ギャップが凄いです!
腹黒レリック様はそれを分かってやっているのでしょう。
その手法で、どれだけ多くの令嬢を虜にしたのでしょうか。
悔しいですが、分かっていても、赤面してしまいます。
それに、好きな方に掛替えの無い存在なんて言われたら、素直に嬉しいです。
確かにこれは、ご褒美です。
「ありがとう、ございます。」
「セシルは美しく、思い遣りがあり、勇気もある。今まで出会った中で、最高の令嬢だ。」
まさか、まだ続くとは予想外です。
明らかにお世辞だと分かっていても、婚約破棄を考え直して下さるかもしれないと期待してしまいます。
でも、糠喜びして傷つきたくはありません。
冷静にならなくては。
「それは、褒め過ぎです。」
「存分に褒めると言っただろう。」
レリック様はずっと、私の頭を優しく撫で続けて、止める気配がありません。
妹、もしくはペットを可愛がる感覚なのでしょうか?
恥ずかしいのに、レリック様の手が心地好いので、されるがままになってしまいます。
相変わらず素敵な微笑みを浮かべて、余裕そうなレリック様に対して、私の顔は火照るし、鼓動も聞こえそうな程ドキドキして、いっぱいいっぱいです。
「それに――――」
「レリック様!あの、もう、充分ご褒美は頂きました。なので、今度は私が、褒める番です。」
恥ずかしさが天元突破しそうで、咄嗟にレリック様の言葉を遮って主張していました。
「何故そうなる。」
レリック様は仕返しされるとは思っていなかったようです。
私も今、思い付きました。
「レリック様も任務をしたのに、私だけご褒美で褒めて貰うのは、平等ではありませんよね。」
有無を言わせないとばかりに微笑みかけると、レリック様の頭に手を伸ばしました。
されるより、する方が、案外平気みたいです。
絹のような手触りの良い、髪の感触を感じながら、そっと頭を撫でました。
「レリック様は、真面目で、優しくて、頼りがいもあって、今まで出会った中で、最高の男性です。」
「……っ!」
一瞬だけ、レリック様の瞬きが少し早くなった気がしました。
褒める方も恥ずかしいですが、本心なので、思ったよりすんなり言えました。
「他には?」
「他、ですか?」
特に何も考えていませんでした。
頑張ったご褒美ですし、もっと褒めるべきでしょう。
「あと、とても頑張りやさんですし、見目は麗しいですし、面倒見も良くて、素敵だと思います。」
レリック様の口角が僅かに上がりました。
「褒美で褒められるのは案外良い。幾らでも褒めて撫でてくれ。」
レリック様が楽しそうに頭を向けて、要求してきます。
何だか犬っぽいです。
「沢山食べる所は少年のようで可愛らしいですし、騎士団にいる時は凛として格好いいですし、令嬢にモテるのも納得……って私ばっかり褒めているのですが?」
心の内をさらけ出しているようで、恥ずかしくなってきました。
レリック様の頭から手を離すと、不服そうに言われました。
「私が褒めるのを遮ったのは、セシルだろう。」
「……それはそう、ですが、だって、恥ずかしくて、ですね。」
しどろもどろになって目が泳いでしまいます。
おモテになるレリック様は、多くの令嬢から褒められ慣れていますし、息をするように令嬢を褒めています。
ただ、私は褒めるのも、褒められるのも、そんなに平気ではいられないのです。
勝手な言い分なのは分かっていますが、私ばかり意識して恥ずかしいなんて、ズルいです。
「まさか照れ……。思わぬご褒美だ。」
レリック様が何か呟きながら、紅茶のカップに手を伸ばしました。
毎日見ている筈なのに、紅茶を上品に飲む美しいレリック様の横顔に見惚れてしまいます。
レリック様と過ごせるこの時間が、私にとっては既に、ご褒美のように思えたのでした。




