52 サイギー子爵再び
私とレリック様は、北棟三階にある赤騎士団の執務室へ入室すると、第二部隊を召集して、奴隷を運ぶ為の荷馬車や、眠りの陣等、準備万端整えて、再びサイギー子爵邸へとやって来ました。
今度はちゃんとエントランスから訪ねます。が、その役割はレリック様ではありません。
第二部隊長のゼイダンです。
オレンジの短髪と目力のあるオレンジ色をした瞳の持ち主で、ガッチリした体格に高い身長、迫力満点です。
「王国騎士団だ。サイギー子爵が奴隷商人と繋がり、違法取引をしているとして、先程、正式に捕縛命令と、家宅捜索命令が出た。貴殿らに拒否権は無い。」
ゼイダンが、国王陛下の印が押してある書類を手に、ドスの効いた低い声で出迎えた執事に告げれば、すんなりと邸内に通されました。
私は騎士団に所属していると知られないよう、レリック様と手を繋いで、存在を消して邸に入りました。
いざというときの為に手を繋いでいましたが、それが役に立つなんて、初めてではないでしょうか。
「執務室はどこだ。」
ゼイダンが執事に執務室の場所を聞いて、十名ほどの騎士と共に部屋に入室しました。
残りの騎士は外で見張りをしています。
執務室に入室すると、加護を解いたレリック様が指示を出しました。
「直ちに奴隷救出と証拠品の押収作業を始める。黒騎士団が回収しているが、まだ残っていないか調べてくれ。解錠が必要な場合は、セシルに声を掛けるように。」
「「「ハッ!」」」
私達は隠す加護について仮説を立てていました。
隠したい物が無くなれば、加護は発動しないのではないか?と。
一回目の家宅捜索で証拠品の押収はほぼ終えた筈です。
だから、騎士達は鍵の掛かっている所にも目を向けられるのではないか?
もし、向けられない場合は、何か重要な物が残っているのではないか?と。
「セシル嬢、金庫の解錠をお願いします。あと、壁掛けの裏も。それと……」
一回目の捜索で、黒騎士団が目を向けられなかった場所に、赤騎士団は目を向けています。
隠す加護の効果が消えている、と言えるでしょう。
きっと、その場所に証拠品は残っていない可能性が高いと思われます。
「レリック様、奴隷がどこにいたか、探せますか?」
「それが、何故か探せない。奴隷がいたのは確かで、メモも見ているが、どこだか分からない。」
事前に『ラグの下』と書いたメモを、レリック様には渡しておきました。
レリック様はラグをめくっているのに、ラグの裏は見ても、床にある扉には目を向けません。
他の騎士も同じで、誰一人床下収納の扉に気付けませんでした。
他の場所は目を向けられるのに、奴隷がいる場所にだけ目を向けられないのは、そこだけまだ、隠す加護が効いているからでしょう。
ついてきて正解でした。
私達の仮説は正しかったようです。
私には解錠出来る物の場所が分かります。
ラグの下にある床下収納には鍵がかかっているので、レリック様には分からなくても、私は解錠の対象として目を向けられます。
早速、床下収納の鍵を解錠して、レリック様に伝えました。
「レリック様、解錠出来ました。お願いします。」
「そうだ、確かに、ここだった。」
レリック様に取っ手を引いて開けて貰うと、騎士達が中を覗き込んで、顔をしかめました。
「こんな所に……酷い。思ったより中は広そうだ。」
ゼイダンが呟いて、サッと下に降りると、眠らされている奴隷を抱き上げて、軽々と高く持ち上げました。
「俺が上げるから、受け取ってくれ。」
「ハイ。」
私達の側にいる騎士が手を伸ばし、ゼイダンから奴隷を受け取ると、邸の外にある荷馬車へ運ぼうと出口へ向かいました。
「お待ち下さい。枷を外します。」
奴隷の首には、以前解錠した物と同じ魔道具の枷が着けられています。
きっと私にしか外せないでしょう。
騎士に抱えられている奴隷の首枷に触れると、枷が外れて、ゴトリと床に落ちました。
「これが解錠の加護ですか。助かります。」
騎士は驚いた表情をしながらも礼をして、奴隷を荷馬車へと運んで行きました。
奴隷の痩せ細った体を見て、胸が痛みます。
「レリック様、以前、奴隷達は牢に入れられていました。彼らは、罪人でもないのに、牢に入れられるのですか?」
「彼らは不法入国者になる。我が国では牢に入れる決まりだが、罪人と違って丁重に扱われるし、首枷も外せたから、話を聞いて手続きが終わり次第、祖国へ送られる。」
酷い扱いをされないと聞いて、安心しました。
床下からゼイダンが、眠らされている奴隷を持ち上げ、上で待機している騎士が順番に受け取り、私が首枷を外してから、荷馬車へと運ぶ作業が、暫く続きました。
邸の外で待機するよう言われた執事や侍従達は、多くの奴隷が邸にいる事実を知らなかったようで、次々に奴隷が運ばれる状況に驚愕していたそうです。
重要な証拠品は一回目の家宅捜索で全て回収されていたのでしょう。
隠す加護の効果は消えていたようで、黒騎士団が目を向けられなかった場所に、赤騎士団は床下収納以外の全てに、目を向けられていました。
私達の作業が終わりを迎えた頃、レリック様の腕輪に連絡が入りました。
「レリック団長、カマインです。第一部隊、イース公爵家の夜会に参加しているサイギー子爵を捕縛し、騎士棟の地下牢に入れました。以上。」
「カマイン、レリックだ。ご苦労。こちらも任務を終了した。直ぐ戻る。以上。」
通信を終えたレリック様が私に手を差し出したので、その手を取りました。
「さあ、皆、帰還だ。」
「「「ハッ!」」」
サイギー子爵邸の奴隷を全員救出して、無事、騎士棟へ帰還しました。
赤騎士団第一部隊長、カマイン初登場は目次46




