50 面接後編
「他人の事ではなく、自分の、セシルの望みを何でも聞かせて欲しい。金額も気にしなくて良い。セシルが任務を達成する事は、王家にそこまで言わせる功績になる。分かるだろう?」
「はい。」
魔を吸引する箱を使えるのは私だけで、魔を吸引出来なければ、世界が魔に飲み込まれてしまいます。
ピューリッツ殿下は、私の責任に見合った褒美を与えようとして下さっているのでしょう。
私の望みはレリック様と共に生きる事です。
でも、それは褒美として、レリック様の意思を無視して叶えられるべきではありません。
あ!一つ、ありました。
「もし、レリック様と結婚式の日程が決まったら、数日で良いので、実家に帰りたいです。」
私は王家の秘匿事項を知りすぎていますから、婚約破棄されても、実家に戻れるとは限りません。
万が一、レリック様と結婚して王家の一員になれば、このまま王宮暮らしで、家族と気軽に会えなくなります。
レリック様と結婚出来たら嬉しいですが、家族と過ごす時間が取れないのは、やっぱり淋しいです。
「セシル、それは褒美として認められない。」
ピューリッツ殿下に困ったような顔をさせてしまいました。
「申し訳ございません。決して王家の皆様や王宮が嫌と言うわけではないのです。皆様とてもお優しくて、私にとっては家族同然だと思っております。」
慌てる私に構わず、ピューリッツ殿下は立ち上がると、私の隣に座りました。
「セシル、家族に会いたいと思うのは当然だ。褒美として望まなくても、それくらい叶えてやれる。だから、もっと欲張って望みを口にしろ。最大限叶えてやる。私がこんな事を言うのは滅多にないよ。」
ピューリッツ殿下がとても優しい表情で、お兄様がするみたいに、私の頭を撫でてくださいました。
「有り難うございます。では、美丈夫ファンクラブに何か貢献したいです。」
「……セシル、私の話を聞いていたか?」
ピューリッツ殿下に呆れられてしまいました。
「勿論、しっかりと聞いていました。これには理由があるのです。」
ジェーン様に殿下や騎士団の情報をお願いされているのですが、スパイ活動のようで、ずっと続ける訳にも参りません。かと言って令嬢の楽しみを奪うのも気がひけます。
「私はレリック様と婚約して、騎士に守られ、令嬢の皆様から見れば、あまりにも恵まれています。そんな私を認めようとしてくださる彼女達に、何か報いたいのです。」
「言い分は分かった。美丈夫ファンクラブは、王家や国にも多大な貢献をしているから、無視出来ない存在であるのは確かだ。」
今や、公爵令嬢のジェーン様が立ち上げた美丈夫ファンクラブは、貴族女性の殆どが会員になっているらしく、彼女達の活動が流行を作り出し、経済が回って、王都の財政はかなり潤っています。
そして、社交界で噂好きな彼女達が王家の熱狂的なファンで、王家を批判する貴族を許さないからこそ、王家は多くの貴族を味方に出来ている側面があるのです。
それは王家の皆様が見目麗しいだけではなく、国の為に真摯に尽くしているからこその結果でしょう。
「年一回行われる王国騎士団剣術大会の観覧席を、美丈夫ファンクラブの為に、五十席ほど確保するのはどうだろう。五年以内の新人のみで、団長クラスは参加しないが、自己紹介や経歴の発表もあり、騎士達の情報も得られる。」
国王主催で行われる王国騎士団剣術大会は、加護を使わず戦うのがルールで、優勝する騎士を予想して、賭け金の金貨一枚を最低限支払った者のみ観覧席に座れます。
掛け金を支払えなくても、入場料の銅貨一枚(パン一個より安い金額)を支払えば、後方の立ち見席になりますが、観覧は出来ます。
収益は国に納められて、公共事業等に使われる仕組みで、毎年、一獲千金を狙う貴族の観客や、平民の見物客で、お祭り騒ぎになる一大行事です。
「それは良いですね。女性達は、お気に入りの騎士様(推しとジェーン様は名付けていました)を見つけて、応援したり、語り合う(キャッキャウフフする)のを趣味としていますから、喜ばれるでしょう。私も情報提供しなくて済むので、助かります。」
ピューリッツ殿下に苦笑いをされてしまいました。
「取り敢えず三つ希望を聞いたが、本当にこれで良いのか?」
一つ目は、任務終了後も必要があれば、騎士棟に出入りする許可。
二つ目は、騎士棟にある食堂の昼食を増量する。
三つ目は、年一回開催される王国騎士団剣術大会の観覧席を、美丈夫ファンクラブの為に五十席確保する。
何度も確認されましたので、しっかりと頷きました。
「はい、出来ればその三つをご褒美に頂きたいです。私の騎士服は特注でしょうし、昼食の食事量を維持するのと、観覧席を確保し続けるのは、私が亡くなった後もずっと続きます。きっと、どの方が望むご褒美よりも、お金が掛かってしまいます。それでも叶えて頂けるのならば嬉しいです。」
ピューリッツ殿下が目を見開いて、フッと笑いました。
「なるほど、分かった。セシルの望みは陛下に伝えておこう。それと、自分の望む褒美が他者にとって都合が悪い場合もある。任務に支障が出ないよう、褒美については口にしない決まりだ。だから、誰にも言わないように。レリックにもだ。いいね。」
子どもを諭すように、ピューリッツ殿下に念を押されました。
「さて、レリックを呼ぶか。勝手にセシルを部屋から出したら、文句を言われかねない。」
ピューリッツ殿下は意味深に微笑んで、腕輪でレリック様を呼ぶと、一分もしない間に、レリック様が執務室へとやって来ました。
「おい、来るのが早すぎないか?まさか、ずっと扉前に控えていたのか?」
「まさか。三階から一階まで下りるくらい、直ぐだろう。」
ピューリッツ殿下の怪訝な表情に、レリック様は顔色一つ変えません。
執務室を退室する際、いつものように、レリック様に手を引かれて気付きました。
レリック様の手がいつもより熱いです。
熱でもあるのでしょうか?
心配で顔色を確認してみましたが、体調が悪そうには見えません。
息も切れていませんし、汗一つかいていない涼しげな表情です。
もしかして、三階にある赤騎士団の執務室から、走って迎えに来て下さったのでしょうか。
わざわざ急がなくても逃げたりしないのに、少しでも早く私に会いたいと思って下さったのでしょうか。
そんな、まさか。令嬢に人気で王族のレリック様が?
でも、もしそうだとしたら……。
とても嬉しいです。




