48 癒しの時間
訓練場でのお散歩は午前中だけで、昼食を食堂で取ったら、午後は私室に戻る予定です。
「セシル、今日は疲れただろう。個室まで送ろう。」
食事を食べ終えて、トレーをカウンターに戻すと、レリック様はいつも通り私の手を取りました。
騎士棟へ通う時は準備運動も兼ねて地下道を歩きますが、帰りは疲れを考慮されてか、転移陣を使います。
転移陣があるレリック様の個室は、南棟二階にあります。
今いる北棟二階にある食堂から、渡り廊下を通れば良いだけです。
差程距離はありませんし、建物には騎士しかいないので、私一人でも大丈夫だと思うのですが、何か危険があった時、存在を消せないという理由で、レリック様は、何時も手を繋いで一緒に行動して下さるのです。
私は私室に戻ってゆったり休めますが、私に付き合って下さったレリック様は、午後からもお仕事があります。
何かお手伝い出来れば良いのですが、団長の仕事は団長にしか出来ないようです。
私が出来る事と言えば、紅茶を淹れる位でしょうか。
騎士棟では侍女がいないので、自分で紅茶を淹れます。
紅茶を淹れるには時間がかかりますので、淹れて貰った方が、仕事も捗るのではないでしょうか。
それに、紅茶を飲むなら、食後の今が良いタイミングな気がします。
紅茶の淹れ方は、ラナにしっかりと教わって沢山練習しましたので、前回よりも美味しく淹れられる筈です。
「あの、午前中は色々と付き合って頂きましたので、ご迷惑でなければ、お礼に紅茶をお淹れしたいのですが、いかがですか?」
断らないでと思いながら、レリック様の手をキュッと握りました。
「是非頂こう。執務をしていると喉は渇くが、紅茶を淹れるのが面倒で、我慢する事も多いから助かる。」
良かった。お断りされたら、折角ラナに教わったのに無駄になってしまいます。
「では、お淹れしますね。」
個室へは行かず、レリック様と赤騎士団の執務室へ行くと、早速給湯室へ向かいました。
レリック様が執務机で書類に向き合っている間、給湯室でラナに教わった通り、ポットとカップを温めます。
ポットに茶葉をスプーンで計って入れたら、湯を注ぎます。
蒸らし時間もしっかり計りました。
「レリック団長、紅茶が入りました。」
ドキドキしながら紅茶を出しました。
「有り難う。」
レリック様が一口飲んで、停止しました。
美味しくない……のでしょうか?
ラナに教わった通りに出来たと思いましたのに、何か間違えてしまったのでしょうか?
一つ一つ工程を思い出しましたが、全部キチンと出来ていたと思います。
「あの……お口に合わなかったのでしょうか?」
恐る恐る窺いました。
「いや、旨くて驚いた。香りも良いし、雑味もない。」
「本当、ですか?お世辞ではありませんか?」
思わずレリック様の顔を覗き込んでしまいました。
「ああ、お世辞なんかではない。本当に旨い。何杯でも飲みたい。」
レリック様がフッと微笑んで、再び紅茶に口をつけました。
「良かった……。以前、紅茶をお出しした時、レリック様は美味しいと言ってくださいましたが、やっぱり美味しくなかったので、ちゃんと美味しい紅茶をお出ししたくて、ラナに、こっそり教わったのです。」
ホッとして、早々にネタをばらしてしまいました。
「私の為に?」
「はい。少しでも安らげたら、と思いまして。」
空になったカップに、紅茶のおかわりを注いでいると、レリック様が上を向いて、手に持っていた書類を顔に乗せています。
「最高か。」
あまり大きな声ではありませんでしたが、しっかり聞こえました。
そんなに喜んで頂けるなんて、とても嬉しいです。
練習した甲斐がありました。
「レリック団長のように、執務をしているアレク団長やバルト副団にも紅茶を淹れて差し上げたら、助かるでしょうか?」
今の私に出来る事はこれくらいなので、聞いてみました。
レリック様は、手にした書類をバッと顔から離すと、真面目な顔で持っている書類をヒラヒラと左右に振りました。
「セシルがわざわざ淹れてやる必要は無い。私の部下と違って、彼らの部下は気を利かせて紅茶を淹れている筈だ。」
以前クリス副団から、紅茶は自分で淹れる決まりだと教わりましたが、他の部署は違うようです。
「そうなのですね。余計な事をして、ご迷惑になるのはいけませんね。」
私が紅茶を淹れると言えば、部下の紅茶を飲んでいても、アレク団長とバルト副団は私に気を遣って、飲んでくださるでしょう。
無理をさせるのは良くありませんから、紅茶を淹れるのは諦めましょう。
「セシル、これからも執務をする私の為に、紅茶を淹れてくれないか?」
レリック様の胃袋ならぬ舌を掴めたのでしょうか?
気に入って頂けたのなら、何よりです。
「私でよろしければ、いつでもお淹れ致します。」
これからも。
その言葉が嬉しくて、思わず顔が綻んでしまいました。




