47 家宅捜索について
赤騎士団の執務室で足を冷やし終えて、執務室内にある掛け時計を見ると、十一時五十五分でした。
「そろそろ、お昼ですね。」
「昼食は二階の食堂で取る。アレクが席を確保してくれるそうだ。」
レリック様に手を繋がれて、三階にある赤騎士団の執務室から、二階の食堂へ向かいました。
初めて騎士棟の食堂で昼食をご一緒したのが切っ掛けで、アレク団長、バルト副団、シアーノ、そしてレリック様と一緒に食事をするようになりました。
「セシル嬢、レリックから二日後の家宅捜索任務について、話は聞いているかい?」
私の右隣に座っているアレク団長が話し掛けてきました。
「いえ。聞いていません。」
「アレク、まだ伝えていない。午後から話すつもりだった。」
「そうか、ではセシル嬢、食べながらで良いから、聞いてくれるかい?」
「はい。」
既に皆さんは食事を食べ終えて、食べるのが遅い私をただ待っている、見守りタイムに突入していました。
ただ、見守られるよりも、話をされる方が多少は気楽です。
「黒騎士団で言う家宅捜索任務とは、事件の犯人が分かっているものの、捕える為の証拠が見つからない場合、犯人の潜伏先や住まいに秘密裏に侵入して、犯罪の証拠を盗み出す任務の事なんだ。任務自体はとても簡単で、それをセシル嬢に手伝って貰いたくてね。」
「私がお役に立てるなら、お受けします。」
他人の邸に無断で入るのは抵抗がありますが、犯罪者を捕える為ならば、致し方ありません。
「今回のターゲットであるサイギー子爵は、過去にエドが殺害してしまった犯罪集団や、他国の奴隷商人と繋がっていてね、我が国で禁止されている奴隷売買に手を出していた所までは分かっていたんだけれど、末端の者しか捕えられず、証言は得られたものの、直接取り引きをしていた奴隷商人は何者かに殺されて、証拠が全く見つけられない状況だったんだ。」
殺された奴隷商人と聞いて、アレク団長とレリック様に連れられて、地下牢へ行った日の事を思い出しました。
「もしかして、奴隷の首に着けられていたあの枷は、その殺された奴隷商人が着けた物だったのですか?」
「その通り。それで家宅捜索するまでになったんだけど、サイギー子爵の邸に限っては、何度潜入しても証拠が見つけられなくてね。黒騎士団が失敗するなんて、前代未聞なんだよ。」
やれやれと困ったように、アレク団長が話を続けます。
「で、失敗する理由を調べた結果、サイギー子爵は『隠す加護』の持ち主で、彼が隠したい物には注意を向けさせないように出来ると分かったんだ。今まで、子爵の隠した物を見つけられた者はいないらしく、黒騎士団も失敗続きだった。でも、解錠の加護を持つセシル嬢ならば、見つけられると思ってね。」
「皆さんが見つけられないのならば、私も見つけられないと思うのですが、解錠の加護がお役に立てるのですか?」
首を傾げる私に、アレク団長は力強く頷きました。
「勿論、とても役に立つ。大事な物を隠す場合、いくら見つからないと分かっていても、用心して鍵をかけるものだ。セシル嬢は解錠出来る物の場所が分かって、解錠出来ると言っていたね。つまり、我々が注意を向けられない物に、注意を向けられると思うんだよね。」
「言われてみれば。」
アレク団長の言う通り、大抵の人は、見られたくない物や、大事な物程、頑丈に鍵を掛けるでしょう。
その場合、どこに隠そうと、解錠の対象として私は見つけてしまうのです。
それは、隠す加護の効果が効いていても関係ないでしょう。
「お役に立てるなら良かったです。それにしても、どうやってサイギー子爵の加護を知ったのですか?」
加護については、基本的に家族以外には話さない筈です。
マリー様やレリック様、そして騎士団の皆さんは、簡単に話して下さいますが、普通は違います。
「先日行われたレリックとセシル嬢の婚約披露パーティに、サイギー子爵令嬢が参加すると情報は得ていたから、ダンスを申し込んで、さらっと聞いたんだよ。僕には本心を言わせる加護があってね。僕に質問されれば、誰も隠し事は出来ないし、嘘も吐けない。寧ろ、進んで話してくれるんだよ。だから僕の加護は騎士団内で『尋問の加護』なんて言われているんだ。言っていなかったかな?」
にっこりと首を傾げられました。
「レリック様から教わった記憶はありますが、直接は聞いていない気がします。」
婚約披露パーティーで私とダンスを踊った後、アレク団長はお仕事をしていたようです。
令嬢に人気のアレクセイ様からダンスを申し込まれたサイギー子爵令嬢は、さぞ喜ばれたでしょう。
それに、アレク団長はとても聞き上手です。
加護を使わなくても話してくれたのでは?と思ってしまいます。
「アレク団長の加護は相談に向いていますね。自分の事なのに分からなくて悩む方に、本当はどうしたいのか、気付かせる事が出来ますもの。」
私を見たアレク団長が目を瞬かせています。
「なるほど、そんな使い方も出来るね。思い浮かばなかったよ。」
「それは勿体無いです。人を助けられる素敵な加護をお持ちですのに。」
アレク団長が、クスリと笑いました。
何か変な事を言ってしまったのでしょうか?
「僕の加護が素敵なんて言われたのは、初めてだよ。騎士団を引退したら、迷い子を助ける神父にでもなろうかな。」
シアーノが顔をしかめながら、手をブンブンと振っています。
「無理無理、神父って神様が恋人の聖職者って誰かが言ってましたよ。女好きのアレク団長が女性を絶つなんて、絶対、無理ですよ。」
アレク団長が珍しく深刻な表情になりました。
「それは、無理だね。ご令嬢専門の悩み相談所にするよ。」
今度はバルト副団がゆっくりと首を振りました。
「分かっていませんね、アレク団長。ご老体になっても、本音を聞くだけなら体力を使わないので、国王陛下、そして次期国王のピューリッツ殿下も、一生引退なんて許しませんよ。」
「確かに。アレクは私やエドと共に、一生国に仕える運命だ。引退なんて無い。諦めろ。」
「レリック団長、エド団長の処遇が決まったのですか?」
私が言うよりも先に、バルト副団が声に出していました。
「ああ。王国騎士団に一生仕える終身刑だ。来週から青騎士団の団長として正式に復帰が決まった。今日の午後三時頃、総長が全体放送で発表する予定だ。」
「終身刑、ですか……。」
レリック様の言葉に思わず呟いてしまいました。
殺人をしたのですから、仕方がないのかもしれませんが、待ち続けると言っていたレミーナ嬢が心配です。
「言葉は重いが、今まで通りだ。今すぐには無理だが、普通の生活も、結婚も許される。ただ、首輪は外されず、青騎士団には一生縛られるが。」
「良いんじゃないですか。我々もそうですけど、特に天才肌のエド団長は青騎士団以外では、ただの社会不適合者ですし、一ヶ月後の任務には絶対必要な人材ですからね。」
口は悪いですが、シアーノはエド団長が団長として復帰するのを受け入れているようです。
それだけエド団長の能力が抜きん出ていて、団員達からも慕われているのでしょう。
私としては、エド団長が普通の生活も結婚も出来ると聞いて、ホッとしました。
「あ~あ、一生君達と腐れ縁が続くのか。まぁ、セシル嬢が仲間になりそうだから、良しとしようか。」
お昼が終わる時間になって、席を立ったアレク団長に、レリック様が言いました。
「仲間になりそう?既に仲間だろう。」
「そうだったね。」
アレク団長がクスリと笑っています。
「確かに。」
「ですね。」
シアーノやバルト副団も席を立ちながら同意してくれました。
加護で国の為に貢献している皆さんに、仲間として認められた事、何よりレリック様から認められた事が嬉しいです。
「有り難うございます。仲間として、頑張りますね。」
仲間という響きが嬉しくて、思わず顔が綻んでしまったのでした。




