40 エド団長の邸
レリック様は腕輪でシアーノに連絡しました。
「シアーノ、レリックだ。陣はエドの邸に繋がっていた。婚約者のレミーナ嬢の他に、陣を二つ見つけたので見て欲しい。どうぞ。」
「レリック団長、シアーノです。今行きます。どうぞ。」
直ぐにシアーノが来るので、陣から出て、少し離れました。
その時、手にしていた箱の中に突然、どす黒い何かが、物凄い勢いで入って来ました。
「レリック団長!」
「どうした!」
「箱に、恐ろしい何かが入って来ますっ!」
箱を持つ手が震えます。
レリック様の大きな手が、箱を持っている私の手を、上からしっかり包みました。
「セシル、大丈夫だ。私も一緒に箱を支える。これは恐らく、レミーナ嬢に憑いている魔だ。そのまま箱に吸わせた方が良いだろう。」
「はい。」
レリック様の言葉に頷いて、箱をしっかりと持ちました。
黒い物体が、どんどん箱に入って来るのが怖いです。
レリック様が一緒に支えて下さらなければ、箱を落としていたかもしれません。
「うわっ!え!?」
転移して来たシアーノが、箱になだれ込む黒い物体を目にして、言葉を失っています。
暫くすると、黒い物体はもう無いのか、箱の蓋が自然に閉まり、鍵がかかりました。
レリック様の大きな手が、ゆっくりと私の手から離れます。
何故か少し、淋しい気がしました。
「セシル、終わったようだ。魔を引き寄せて消し去る箱が本物だと証明された。レミーナ嬢を見てみろ。」
レリック様に言われて、レミーナ嬢に目を向けました。
レミーナ嬢の顔にあった黒いモヤは、もうありません。
顔色も良いですし、表情も先程とは違って、明らかに柔らかくなっています。
「早く、エド団長に知らせて差し上げたいです。きっと、とても喜びます。悪魔の力も、もう必要無いですね。」
「ああ。」
レリック様に微笑むと、ポンポンと頭を撫でられました。
レリック様の手は、何だか心地好くて安心します。
もし、悪魔が箱に入って来ても、レリック様が一緒ならば、頑張れそうです。
それにしても、箱の中はどうなっているのでしょう。
「レリック団長、魔を消し去るには、どのくらいの時間が必要なのですか?」
「聞いた話によると、鍵がかかって、次に開ける時には再び使えるらしい。」
閉じている箱をレリック様と見つめました。
そんなに早く、あの禍々しい何かが無くなるのでしょうか?
「開けて、みますか?」
「……それは後にしよう。確認すべき事がある。」
レリック様はシアーノに声を掛けました。
「シアーノ、足元近くに陣が二つある。確認してくれ。」
私達を見ていたシアーノが、ハッとして、足元にある二つの陣に目を向けました。
「こちらは……時計塔の陣と相互関係にあります。もう一つは他のどの陣とも関係がありません。もしかしたら、エド団長の個室に繋がっている可能性も考えられます。」
「そうか、ならば転移して確認する。我々が転移している間、シアーノはレミーナ嬢と、ここで待機していてくれ。」
「了解しました。」
「転移の前に、箱を開けておく必要があるか。セシル、開けてみてくれないか。」
「はい。」
レリック様とシアーノが見守る中、緊張しつつも、解錠を意識して箱に触れました。
パチンと解錠音がしましたので、上蓋を大きく開けてみます。
中には何も入っていませんでした。
「本当に、ただの空箱です。」
「これならば、直ぐにでも悪魔を吸引出来そうだ。」
どうやら箱は解錠すれば、直ぐに使えるようです。
「それにしても、転移した時、箱は無反応でしたのに、どうして急に機能したのでしょうか?」
「転移陣からレミーナ嬢までは少し離れていますが、セシル嬢が陣から出た時、ちょうど箱が機能する、一メートル以内に近付いたのでしょう。」
首を傾げる私に、シアーノが答えてくれました。
確かに、箱が機能したのは陣から離れた時でした。
知らない間にレミーナ嬢に近付いていたようです。
「騎士棟の個室ならば、そんなに広くはないので、転移して、本人さえいれば箱が機能する筈です。」
シアーノの言う通り、レリック様が使用している騎士棟の個室は、部屋の大部分をベッドが占めていて、広い印象はありませんでした。
「では、セシル、陣を解錠して貰えるか?」
「はい、レリック団長。」
陣に見える錠前を手で触れて消しました。
「レリック団長、解錠出来ました。」
「では、行こうか。箱の準備はいいか?」
「はい。」
箱の上蓋を開けて手に持つと、レリック様が私の腰に手を回して、お互いの体が密着するくらい引き寄せます。
陣が一人用なので、二人で使う時は、くっつく必要があるらしいのです。
レリック様との密着も回数をこなして、だいぶん慣れた気がします。
戸惑いよりも、安心感を感じる位です。
レリック様が足で二回、陣をノックました。
どうかエド団長の部屋に繋がっていますように。
祈るような気持ちで、光る陣を見つめました。




