35 陣の描き変え会議
午後は昼食を共にしたメンバーと、黒騎士団の執務室へ移動しました。
エド団長の陣を発見した場合の対策について、話し合う為です。
「我が黒騎士団が王都全域でエドの陣を探索して、陣を見つけ次第、青騎士団に連絡し、既に探索は終了していると部下から報告を受けている。さて、青騎士団の確認状況はどうかな。」
アレク団長がバルト副団に視線を向けました。
「はい、陣は全部で五つ発見されました。五つの内、一つは室内で、実際に目視出来ていません。転移陣は二つで一組ですが、相互転移の関係が確認出来たのは、一組だけです。その他、屋外で見つかった二つのどちらかは、室内の陣と相互転移の関係にある可能性があります。」
バルト副団は簡単に説明した後、詳しく説明して下さいました。
五つの陣があった場所は
①教会の墓地
②教会近くの湖がある公園
③王都中央に建つ、祓いの鐘がある時計塔
④エド団長所有の邸
⑤エド団長が狙うとされている盗賊のアジト側
でした。
この中で、相互転移の関係にあるのは『①教会の墓地』と『⑤盗賊のアジト』だけです。
『②公園』と『③時計塔』のどちらかは『④エド団長の邸』に転移する可能性があると考えられています。
「室内の陣と相互転移の可能性と言いましたが、騎士棟にあるエド団長の個室も可能性があります。」
バルト副団の意見に全員頷きました。
エド団長は騎士棟の個室に帰っていますので、陣を使っているのは明らかです。
「出来れば、エドが盗賊のアジトに乗り込む前に、悪魔を吸引してしまいたい。それには、いち早く、エドに会う必要がある。」
レリック様の言葉に、バルト副団が口を開きました。
「『②公園』か『③時計塔』どちらかの陣を解錠して転移してみるべきでしょう。事前に魔を封じる箱を開けておけば、エド団長に会った瞬間に、悪魔を吸引出来ます。一度箱が発動すれば、エド団長が逃げても、悪魔は逃げられない筈です。仮にエド団長が不在でも、騎士限定に陣を描き変えるには都合が良いので、マイナスは無いと思います。」
「あの、質問を宜しいですか?」
気になる事がありましたので、思い切って発言しましたら、一斉に皆さんの視線が私に集まりました。
何も知らない私が発言するのは迷惑でしょうか。
それとも、何かタイミングを間違えたのでしょうか。
質問なんて、するべきではなかったのかもしれません。
反省して俯く私に、レリック様が声を掛けて下さいました。
「セシル、遠慮はいらない。皆、意欲的な言動に驚いただけだ。気になる事は何でも聞いてくれ。」
レリック様が優しい表情で頷いて下さいました。
「レリック団長、有り難うございます。質問ですが、エド団長は陣が描き変えられたら、気付いてしまうのではないでしょうか?」
「その心配はありません。エド団長は陣を描く加護によって、天才的な才能があり、陣に関しては、かなりの自信があります。陣を消される位は予想出来ても、自分の描いた複雑な陣が、私やシアーノのような部下に描き変えられるなんて、考えもしないでしょう。」
「そうそう、バルト副団の言う通りです。本来、陣を一部消して描き変えるなんて不可能なんです。でも、セシル嬢の解錠は、制約の部分だけを綺麗に消すので、描き変えを可能にしてしまえた訳です。これは天才と言われるエド団長でも出来ません。だから、絶対に気付かないと言い切れます。」
シアーノの自信たっぷりな発言に、バルト副団は深く同意しています。
どうやらエド団長に気づかれる心配はないようです。
この際です。ついでにもう一つ聞いてみましょう。
「あと、悪魔は私達の事をどこまで把握出来るのですか?」
「どこまで把握出来る、とは?」
レリック様に聞き返されてしまいました。
質問の仕方が良くなかったようです。
「私達が悪魔を吸引する計画を事前に察知して、吸引されないように、妨害される可能性はありますか?」
物語の悪魔は何でも知っていました。
心の中を読んだり、話していない筈の過去を知っていたり。
でも、それは物語であって、実際はどうなのでしょうか。
「恐らく大丈夫だ。損得勘定で物事を考えて、無駄な労力を嫌う悪魔は、我々の計画を知っても、妨害する理由が無い。何故なら、我々が悪魔を箱で吸引しても、元の世界に戻るだけで、死ぬ訳ではない。それに、陣の強制力で無理矢理呼び出されて、契約させられた悪魔が、エドの味方をする筈も無い。悪魔がいなくなって困るのはエドだけだ。」
私達の計画は悪魔に把握されてしまうようですが、妨害はされないとレリック様は考えているようです。
悪魔とは、もっと攻撃的な存在だと勝手に思っていましたから、意外です。
「セシル嬢が質問してくれたお陰で、懸念材料は無くなったし、バルト副団の意見に従って、『②公園』か『③時計塔』どちらか一つの陣を解錠して、転移してみるのが良さそうだね。レリックとセシル嬢、シアーノに転移して貰うとして、待機はどうしようか?」
アレク団長の言葉に、バルト副団が反応しました。
「待機は陣の描き変えを想定して、部下のセルリアンに声をかける予定です。彼も陣を描くのを得意としています。陣を描く際、見張り役が必要です。黒か赤騎士団に応援を頼めますか。」
「見張りは大丈夫だよ。今回はエドに悟られない事が重要だから、陣を見つけた時点で、我が黒騎士団が既に陣の見張りをしているからね。」
アレク団長、仕事が早いです。
黒騎士団は隠密を得意としていますから、適任でしょう。
「今回の解錠は『②公園』にしてはどうだろうか?王宮からは最も離れているが、騎士団の転移陣が近い。早朝四時頃ならば、公園には誰もいない筈だ。朝が弱いエドも寝ている可能性が高い。」
レリック様の言う通り、朝四時は皆、一般的に眠っている時間です。
「僕は執務室から指示出しをするから、現場には同行しないけれど、エドが朝弱いのは確かだし、良いんじゃないかな。」
「では明朝三時半、南棟一階の転移陣に集合とする。バルト副団、同行予定の待機要員に伝えておいてくれ。」
「了解です、レリック団長。」
話し合いが落ち着いた時、祓いの鐘が聞こえてきました。
もう三時なのですね。
全員、座ったまま、上を見上げて目を閉じると、胸に手を当てて、鐘が鳴り終わるまで深呼吸を繰り返します。
朝三時半に集合ですと、三時前には起きなければなりません。一番眠りが深い時間です。
騎士団の任務は、時間も関係ないようで大変です。
でも、ハズレの加護と思っていた解錠が役立てる事に、少し遣り甲斐を感じつつあるのでした。




