32 陣の解錠初実践
黒騎士団が北棟の二階東側にあるのに対して、青騎士団は北棟の二階西側にあります。
中央に食堂があって東西に部署は分かれていますが、同じ二階なので、直ぐに執務室の場所を覚えられそうです。
レリック様に手を引かれて、青騎士団の執務室へ案内されました。
執務室に入室すると、バルト副団ともう一人、明るい青色の髪と瞳をした騎士がいました。
彼には会った記憶があります。
「セシル嬢、彼はシアーノ。陣を描く加護があります。」
バルト副団が紹介して下さいました。
彼は確か、私が初めて騎士棟に来た日。
解錠する為に地下牢へ案内された時、見張りに立っていた方です。
お互いに自己紹介をした記憶があります。
「セシル嬢、自分の事を覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、覚えています。地下でお会いしましたよね。」
「はい、忘れられていなくて何よりです。」
ニッと爽やかに微笑まれました。
「レリック団長、丁度、作業室に部下達が集まっているので、セシル嬢を紹介させて下さい。」
「ああ、手短に頼む。」
バルト副団の提案で執務室の向かいにある作業室へと案内されました。
皆さん作業に集中していて、私達が入室した事に気付いていないようです。
バルト副団が声を掛けると、全員ハッとした様子で顔を上げて、こちらに視線を向けました。
「彼女がレリック団長の婚約者、セシル嬢です。今後関わると思いますので協力頼みます。」
「セシルと申します。宜しくお願い致します。」
騎士服が青いせいでしょうか、黒騎士団の時より威圧感は少なめに感じましたので、リラックスして挨拶出来ました。
「「「宜しくお願いします。」」」
凄いです。声が揃っています。
思ったより声に迫力があって驚きましたが、皆さん笑顔が素敵な方ばかりです。
騎士団が令嬢に人気なのも納得です。
青騎士団の皆さんに顔合わせを済ませてから、再び青騎士団の執務室へ移動しました。
全員がソファーに着席したのを確認したバルト副団が、早速本題に入ります。
「セシル嬢は転移陣の解錠が出来るとアレク団長から報告を受けました。セシル嬢、実際どのような結果になるか、見せて頂けないでしょうか。」
「はい。勿論です。」
私自身も気になりますし、加護を知る良い機会になりそうです。
「バルト副団、私専用の転移陣を使うのはどうだろう。セシルにも使えるようにしたいが、解錠しても良いものかと思っていたところだ。」
「レリック団長が宜しければ助かります。エド団長も同じ転移陣を使っている筈ですから、データを取るにも丁度良いです。」
レリック様専用の転移陣を解錠すると話が決まり、南棟の二階東側にある、レリック様の個室へと全員で向かいました。
移動中、レリック様は相変わらず私の手を握っています。
バルト副団とシアーノは何も言いませんが、明らかに私達の手に視線が向いています。
私達は繋ぎたくて手を繋いでいる訳ではないのですが、大いに誤解されてる気がします。
レリック様は私を守る為に、仕事として、仕方なく、手を繋いでいるだけです。
私としても、人前で手を繋ぐのは恥ずかしいので、放して欲しいのが本音です。
ただ、婚約者である私が何を言っても説得力が無いでしょう。
残念ながら、誤解を解くのは、諦めるしかなさそうです。
殿下の個室に到着して、全員で部屋に入室しました。
床に描かれている陣を見ると、錠前が見えます。
「セシル嬢、陣を解錠出来そうですか?」
「はい、バルト副団。では解錠しますね。」
全員が見守る中、加護を意識して錠前に触れます。
「解錠は出来ましたが、解錠すると錠前は消えてしまいました。」
皆さんに報告すると、シアーノがしゃがんで陣を見つめています。
「確かにレリック団長専用の制約が外れて、ただの転移陣になっています。しかし、基本的に陣は二つで一組です。二つの陣を正確に描く事で機能するので、片方だけ解錠しても、もう片方の陣はそのままなので、これは、陣として機能しないかもしれません。」
「では、機能しないか試して見よう。」
レリック様が陣の中心まで行くと、足で床を二回ノックしました。
陣が機能しなければ、何も起きない筈です。
しかし、陣は光って、レリック様は消えてしまいました。
「レリック団長、バルト副団です。無事ですか?どうぞ。」
直ぐにバルト副団は、通信用の腕輪を使ってレリック様に連絡を入れました。
「バルト副団、レリックだ。問題なく自室に着いた。どうぞ。」
「了解、暫くそこで待機して下さい、どうぞ。」
「了解。以上。」
バルト副団がレリック様と話している間、シアーノが陣を見つめながら呟きました。
「陣は機能しているみたいですね。まだ転移先にある陣の制約が効いていれば、レリック団長しか使えない可能性があります。」
シアーノの話を聞いて提案してみました。
「あの、私も陣に入っても良いでしょうか?もし私が転移出来れば、転移先の陣も解錠出来ている証明になりますよね。」
「確かにセシル嬢の言う通りです。では、試してみましょうか。」
シアーノと話して、次は私が陣の中心に立ちました。
「レリック団長、バルト副団です。今から、セシル嬢が転移出来るか、実験をします。以上。」
バルト副団がレリック様に報告したのを確認して、レリック様がしたように、足で床を二回、ノックしました。
陣は光って、気付けば目の前にレリック様が立っていました。
「セシルも通れた、という事は、こちらも解錠されているみたいだ。」
「そうなりますね。」
レリック様と話していると、腕輪からバルト副団の声が聞こえて来ました。
「セシル嬢、バルト副団です。無事ですか?どうぞ。」
腕輪にある緑のボタンを押して、返事をします。
「バルト副団、セシルです。無事、レリック団長と合流出来ました。どうぞ。」
「了解、我々も向かってみますので、そちらで待機をお願いします。どうぞ。」
「了解です。どうぞ。」
バルト副団とやり取りをして、陣から離れました。
バルト副団とシアーノも順次、無事にレリック様の部屋に転移して来ました。
二人同時かと思いましたが、そうではありませんでした。
「驚きました。こちらの陣も、ただの転移陣になっています。解錠の加護は片方の陣を解錠するだけで、もう片方も同じように解錠出来るようです。」
シアーノが陣をまじまじと見て報告してくれました。
新たな発見です。
「予想通り、誰でも通れる陣になってしまう訳だ。それで元に戻すには描き直しか?」
レリック様がシアーノに尋ねました。
「はい。ですが、一部だけです。全部描き直す必要は無いでしょう。」
「では、シアーノ。私とセシル限定の陣に描き直して欲しい。」
「分かりました。では、前回同様、専用のインクに声を登録して貰います。」
インクに声を登録、なんて出来るのでしょうか?
とても興味があります。
シアーノ初登場は14話です。




