22 婚約披露パーティー当日
今夜は王家主催の婚約披露パーティーが開かれます。
主役は殿下と私です。
今日も殿下は騎士棟へ出勤して、午後三時頃にはお戻りになるそうです。
私は午前中、ゆっくりと食事をして、午後からはパーティーの準備です。
侍女のレミとラナに全身を磨かれ、マッサージを施されると、王妃様とお母様が選んで下さったドレスに身を包みました。
繊細な刺繍が美しい黄色いドレスは、プリンセスラインで全体的に可愛らしい印象です。
化粧を施され、編み込みのアップスタイルに髪を整えられると、最後にネックレスを着けられました。
殿下の瞳を思わせる濃い青色の大きなサファイアが、首元で輝きます。
お値段は恐ろしくて聞けません。
「そろそろ殿下のお支度も整います。大部屋でお待ちくださいませ。」
侍女のレミとラナに促されて、自室から大部屋に入室した時、丁度殿下も自室から大部屋に入室して来ました。
殿下の衣装はアイボリーの上着とスラックスで、襟や袖に金糸の縁取りがされています。
前身ごろには、刺繍の装飾があしらわれていました。
中に着ている白シャツの襟には、私の瞳をイメージさせるライラック色の宝石。
クンツァイトのチェーンブローチが着けられていました。
衣装に気合いの入っている殿下は通常の倍以上にキラキラしさが増しています。
流石、生まれつき見目麗しい方は違います。
「……っ!」
目が合った瞬間、殿下の動きが止まりました。
化粧マジックで、あまりにも私の見た目が激変しているからでしょう。
誰だか分からなくて、驚いたのかもしれません。
女性あるあるです。
言葉を失って固まっている殿下に対して、決意を口にしました。
「殿下、とても素敵です。きっと多くの令嬢が頬を染めて喜ぶでしょう。私では見劣りしてしまいますが、殿下の引き立て役になれるよう努めます。」
「……有り難う。だが、引き立て役等、気にする必要は無い。」
微妙な表情をされて、ハッとしました。
「そうですね。殿下はお一人でも十分輝いておられますものね。」
元々人気の殿下に引き立て役なんて必要ありませんでした。
「そういうつもりでは言ってない。」
では、どういうつもりなのでしょう。
私は次の言葉を待っていたのですが、殿下の中では話が終了したようで、サッと腕を差し出されて、エスコートの形を取られました。
「もう時間だ。行こう。」
「はい。」
殿下の腕に手を添えて、大部屋を出ました。
扉の前には白い騎士服を着た護衛騎士が二人、立っていました。
服装から、彼らは白騎士団ですね。
会釈をして微笑むと、胸に手を当ててお辞儀をされました。
部屋の前に待機している彼らは私達の専属護衛のようです。
長い廊下を歩いていると、一定の距離を保ってついて来ます。
先ずは王家と顔合わせです。
婚約披露パーティーが行われる会場の隣にある休憩室へ案内されました。
休憩室にはセブラン国王陛下、マンセン王妃殿下、ピューリッツ王太子殿下、ルルーシェ妃殿下が既にいらっしゃいました。
「まあ、セシルちゃん、なんて素敵なの。さあさあ、二人とも座って。」
国王陛下よりも先に、王妃殿下が声をかけて下さいました。
出入口から真向かいに見えるソファーに国王陛下と王妃殿下、テーブルを中央にして左手に、王太子殿下と王太子妃殿下がソファーに座っています。
私達は右手の空いているソファーに腰かけました。
「セシル、堅苦しい挨拶は無しだ。今は事情があって婚約ではあるが、もう我が王家の一員だと思ってくれ。」
国王陛下に家族の一員として受け入れる発言をされてしまいました。
とても光栄ですが、国王陛下にそんな事を言われたら、婚約破棄は難しいでしょう。
任務の為だけに婚約した殿下はそれで良いのでしょうか?
チラリと殿下を見ましたが、表情は変わりません。
殿下って私が知りたい時に限って感情が顔に出ないのです。
私としては、婚約破棄されない方が両親を悲しませずに済みますので問題無いのですが、生活を保証して頂けて、穏やかに過ごせるのなら、婚約破棄されても致し方ありません。
殿下のお心のままに従うつもりです。
「セシル、私はレリックの兄、ピューリッツだ。横の彼女は妻のルルーシェ。家族水入らずの時は、私の事は兄、妻の事は姉と呼んでくれ。」
ピューリッツ殿下はとても気さくな方のようで安心しました。
確か殿下より五歳年上だと記憶しています。
ピューリッツ殿下は国王陛下に似て少し目が大きくて、王妃殿下と同じアクアマリンのような青い瞳をしています。
そして、やはり見目麗しいです。
ピンクの瞳にピンクの髪をした美しいルルーシェ妃殿下も、優しく微笑みかけて下さいました。
確か二十三歳と十七歳の私より年上ですが、癒されます。
「では、ピューリッツお義兄様とルルーシェお義姉様とお呼びしても宜しいですか?」
「ああ、是非そう呼んでくれ。」
「では、私達の事も父、母と呼んでくれ。」
国王陛下と王妃殿下を!?
畏れ多いですが望まれるのならば、お呼びするべきでしょう。緊張します。
「はい、では、その、お義父様、お義母様と呼ばせて頂きます。」
「良い、良いわ。」
マンセン王妃殿下が少女のように喜んでくださいます。
セブラン国王陛下もにっこりと頷いて下さいました。
こんなに歓迎されるとは予想外です。
受け入れて貰えるのは素直に嬉しいので、淑女らしくと意識しなくても自然と笑みがこぼれます。
「あなた、やっとよ、やっと。」
「ああ、良かったな。まさかこうなるとは。」
セブラン国王陛下とマンセン王妃殿下が何やら二人だけで通じ合っています。
「何がやっとなのですか?」
怪訝そうにする殿下に、ピューリッツ殿下が答えました。
「レリックの婚約が決まった事ではないか?お前は婚約の話が出ると、直ぐに存在を消して逃げていたからな。母も苦労したのだろう。」
モテる殿下の事ですから、より良い女性を求めて選り好みしていたのでしょうか?
結果的に任務の為に私と婚約する羽目になるなんて、お気の毒としか言いようがありません。
「さあ、顔合わせも済んだし、会場へ向かおうか。」
セブラン国王陛下の言葉に、ほんわかした雰囲気から、一瞬で凛とした雰囲気に変わりました。
国王陛下も近寄りがたい風格を醸し出しています。
「緊張しなくて宜しい。何が起きても何とかする。」
国王陛下が優しく背中を撫でて下さいました。
「有り難うございます、お義父様。」
「私達だっているわ。」
マンセン王妃殿下も背中を撫でてくださいました。
「はい、お義母様。」
「そうそう。」
ピューリッツ殿下も。
「大丈夫。私も何とかなったわ。」
ルルーシェ妃殿下も。
そっと皆さんが順番に背中を撫でてくださいます。
「セシルなら大丈夫だ。」
殿下がエスコートの姿勢を取って下さいました。
「有り難うございます。」
王家の皆様に勇気を貰って、殿下の腕に手を伸ばしました。
「今から私の事はレリックと呼べ。婚約者なのに殿下では他人行儀だ。皆に仲の良さをアピールして、私と娘を婚姻させ、王家と繋がりを持とうと狙う貴族共に諦めて貰う必要がある。」
そう、実はこの婚約披露パーティ、王家の為に妃教育をしている令嬢やその両親に、王子との結婚を諦めさせる目的で開かれるそうです。
「不仲だと思われれば付け入る隙があると思われて厄介だ。私の事は名前で呼べ。」
急に名前呼びって。婚約披露パーティ直前に言いますか?
そういうことは前もって言っておいて欲しいです。
「……レリック殿下。で宜しいですか?」
殿下呼びが慣れてしまったので、違和感があります。
「…………。」
無言で首を横に振られました。
名前で呼びましたのに、何故でしょう。
「……レリック様?」
「まあ、良いだろう。」
どうやら殿下が気に入らなかったようです。
「ではセシル、行こうか。」
「はい、レリック様。」
王家が出入りする専用の扉からパーティ会場に入る直前、もう一度レリック様呼びを練習しておきます。
まだ言い慣れません。
「宜しい。」
フッと殿下が微笑みました。
何でしょう、急にご機嫌になった?
あ、違いました。これはきっと外面王子様モードになっただけですね。
社交界での殿下は、紳士的で、誰にでも穏やかな対応をする、素敵な王子様なのです。
名前の呼び方が気に入らなくて、無言になったりはしないのです。
しないのですが、私がうっかり殿下呼びしたら、しれっと聞こえないふりをされる気がします。
気を付けましょう。




