17 エド団長
今、殿下とアレク団長に連れられてやって来たのは、南棟の二階東側二○ニ号室。
エド団長に与えられた個室の前です。
殿下が腕を組んだまま説明して下さいました。
「エドが行方不明になってから、個室の扉には、普通の鍵だけではなく、更に特殊な鍵が掛けられていた。ドア自体も頑丈になって壊せない。だから、誰も侵入出来なかった。手掛かりがあるとしたら、ここか、エドの邸だ。」
アレク団長がドアノブを回すと、ノブはクルクルと回るだけで、何か引っ掛かっている気配さえありません。
アレク団長は肩を竦めて私に視線を向けました。
「さっきセシル嬢に解錠して貰った奴隷の枷には、特殊な陣が付いていた。セシル嬢は陣の鍵も解錠出来るようだから、エドの陣も解錠可能かと思ってね。この扉は解錠出来そうかい?」
扉を見ると、簡単に解錠出来ると分かります。
「はい。解錠できます。でも、開けても良いのでしょうか?」
「勿論良いよ。どうして?」
アレク団長が首を傾げました。
「独身男性の部屋には、女性が決して見てはならない物があるから、本人の許可なく開けてはいけない。そう、お兄様は言っていました。」
心配事を口にすると、アレク団長が殿下と顔を見合わせて、フッと笑いました。
心当たりがあるようです。
「ああ、確かにセシル嬢の兄は正しい。エドはムッツリだろうからね。解錠さえしてくれれば、部屋には私が入るから、セシル嬢は外で待つと良いよ。」
「それは助かります。アレク団長、ムッツリとはどういう意味ですか?初めて聞く単語です。」
何か任務の用語でしょうか?
「え!?それはレリックに聞いてくれないかな。私では説明が難しいからね。」
苦笑いするアレク団長から殿下に視線を向けました。
「私もそんな用語、今初めて聞いた。黒騎士団の暗号ではないか?」
殿下がアレク団長を見て、首を傾げています。
「とぼけるのはズルいよ、レリック。」
「それよりエドの事だ。セシルに指摘されて思ったが、無断で扉を開けようものなら、瞬時に証拠隠滅になるよう、策を練っていそうだと思わないか?」
殿下は真面目な表情になりました。
アレク団長も真剣な表情をして、腰に手を当てています。
「それはあり得る。開けた瞬間に部屋が燃えるとか、エドならやりそうだ。」
「実は定期的にお帰りになっているのではないでしょうか。扉が開かないなら、休むには丁度良い気がします。騎士棟の個室にいた方が見つかりにくいですよね。」
「まさか。」
私の意見を聞いたアレク団長が、駄目元で扉をノックしました。
「エド?もしかして、いる?」
「……いるが何だ。」
「「「!!」」」
私達は顔を見合わせました。
交渉はアレク団長が得意なのでしょう。
アレク団長が話掛けます。
「いつから?」
「単独行動してはいるが、出て行ったつもりはない。犯罪者のゴミ共を掃除出来て、丁度良いだろう。」
「いやいや、殺しちゃ駄目だよ。結果的に死刑になる人でもね。もう、開けくれないか?レリックの婚約者にも会わせたいし。」
「レリックが婚約?驚いた。美人?」
「かなりの美人。今日、たまたま挨拶に来ているんだ。見てみたくない?」
「それは気になる。」
アレク団長、褒めてくださるのは嬉しいですが、そんなに言う程ではありませんよ。
アレク団長の袖をクイクイ引っ張って、首を横に振りました。
アレク団長はウンウンと頷くと笑顔で言い放ちました。
「あと、可愛い。」
「っ!」
私の意図が全然伝わっていません。
驚きと恥ずかしさで赤面してしまいました。
「アレクから手を離す。」
いつの間にか傍にいた殿下に、ボソリと小声で言われました。
言われるがまま、アレク団長の袖から手を離すと、その手を殿下に掴まれて、アレク団長から引き離されてしまいました。
きっと、交渉の邪魔をしてはいけないと思ったのでしょう。
突然の褒め言葉に、顔の火照りが治まりそうにありませんから、助かりました。
「アレクの加護は騎士団内で『尋問の加護』と呼ばれている。アレクが加護を意識して対象者に質問すると、真実を聞き出せる。だから交渉はアレクが向いている。まあ、エドもそれを分かった上で返事をしたのだろうが。」
「そうだったのですね。」
もしかして、アレク団長が話し掛けたから、エド団長は返事をしてしまったのでしょうか?
距離を取った所で交渉を見守ります。
「アレクがそれ程言うなら見てみたいが、私は婚約者が一番だから遠慮しよう。」
「因みにだけど、何とかして扉を開けたらどうなるの?何か仕掛けたりしてる?」
「そうだな、扉を開けた瞬間、辺境の森に飛ばす陣が発動する。」
解錠しなくて良かったです。
「それは困るな。悪魔と契約して犯罪者を殺し続けても婚約者は……。もう止めて、出て来いよ。」
「済まないとは思っている。あ、もう時間だ。」
「時間?何の事?エド?」
アレク団長が呼び掛けようとした時、三時の鐘が鳴りました。
私達はその場で胸に手を当てて目を閉じ、上を向いて深呼吸をします。
エド団長も払いの鐘が鳴り終わるまで、深呼吸をしているのでしょうか。
鐘が鳴り終わって、再びアレク団長がエド団長に呼び掛けましたが、返事はありませんでした。




