15 腕輪の使い方
牢に入れられた人達の枷を無事、全て解錠し終えました。
「アレク団長、この枷は外に出した方が宜しいでしょうか?」
「いや、そのままで良いよ。後で青騎士団に回収させるから、二人とも出ておいで。」
アレク団長の指示に従って、殿下と牢を出ました。
私は解錠出来ても、施錠は出来ません。
でも、施錠は簡単だそうで、アレク団長が牢に鍵を掛けてくださいました。
「お疲れ様、セシル嬢。執務室に戻ろうか。」
牢を後にして、再び見張りの騎士がいる扉まで戻って来ました。
「君たち、枷は外れたから、回収を宜しく。」
「本当ですか?直ぐに回収致します。」
アレク団長が、確か彼は……セルリアンに報告すると、多分……シアーノが腕輪に向かって話し始めました。
「青騎士団に告ぐ。北棟の東側、地下牢前のシアーノです。枷の解錠に成功、回収をお願いします。以上。」
もしかして、この腕輪は直接会わない相手とお話出来る道具なのでしょうか?
腕輪を見つめている私に、殿下が教えてくださいました。
「手首のこれは通信用の腕輪だ。ボタンの色を押すと、各々の騎士団に繋がる。緑のボタンを長押しすると、声を登録出来る。そうすると、個人的に、やり取りが出来る。」
「声まで記憶出来るのですか?こんな便利な物、見たことがありません。」
私達貴族の一般的な連絡手段は、専ら手紙か口頭です。
「王国騎士団限定の秘密道具だ。」
出ました。また秘匿案件です。
黒騎士団の執務室に戻って、腕輪の使い方を見せて頂きました。
「レリック、アレクです。どうぞ。」
アレク団長が緑のボタンを軽く押して、殿下に呼び掛けると、殿下の腕輪から、アレク団長の声がします。
「レリックだ。どうぞ。」
返事をする時は、緑のボタンを同じように軽く押して話します。
「声を登録しないと、腕輪は反応しない。セシル。」
殿下が呼び掛けても、私の腕輪は無反応です。
緑のボタンを長押しして、セシルと声を登録しました。
「アレクです。セシル嬢、どうぞ。」
アレク団長が呼び掛けると、腕輪から声が聞こえました。
緑のボタンを押して、お返事します。
「はい、登録出来ました。」
「セシル、返事の時も名前は言った方が良い。あと話が終わったら、どうぞと言わないと相手は、いつ話せば良いか分からない。」
殿下が教えてくださいました。
「では、セシルです。登録出来ました、どうぞ。で宜しいでしょうか?」
「それで良い。連絡事項を伝えるだけや、話を終了する時は、以上と言えば良い。」
確か、先ほど青騎士団のシアーノが、以上と言っていました。
「分かりました。」
腕輪を使うにも、ルールがあるのですね。
使いこなせるか不安です。
「心配しなくても練習すれば良いさ。私が付き合ってあげるよ。」
「アレク団長、ありがとうございます。」
アレク団長の厚意に、少し不安が和らぎました。
「セシル、アレクは忙しい。私が練習に付き合おう。」
「おいおい、私が忙しいなら、レリックも忙しいだろう。」
そちらの方が忙しいと互いに言い合っています。
「あの、お気持ちは嬉しいのですが、お忙しいのに、私の練習に付き合って頂くのは、申し訳無いです。」
「別に私は―――」
「では、黒騎士団の皆に協力して貰おうか。まだ紹介していなかったね。直ぐ向かいの部屋にいるから、行こうか。」
アレク団長はそう言って、サッと立ち上がりました。
殿下も何か言いかけていましたが、何も言わない所を見ると、もう良いようです。
向かいの部屋は詰め所として使われているそうです。
室内には長机と椅子があり、騎士たちは、それぞれの席で仕事をしたり、休憩しているそうです。
部屋に入室する直前でした。
後ろにいた殿下に手首を掴まれて、引き止めるように、クイッと後ろに引かれました。
「で、レリック団長、何でしょうか?」
驚いて振り向いた時、思わず殿下と言いそうになりました。
殿下は直ぐに手を放すと、私から視線を逸らしました。
「いや、大丈夫かと思っただけだ。」
大丈夫とは何に対してでしょうか?
分かりませんが、心配して下さったようなので、お礼を言っておきましょう。
「レリック団長、お気遣い有り難うございます。」
「我が部下は紳士の集まりだと言うのに、レリックは失礼だね。」
アレク団長が呆れながら扉を開けました。
入室した瞬間、二十名ほどいる黒尽くめの男性集団に注目されました。
何とも言えない迫力があって、ちょっと怖いです。
アレク団長は私の緊張を感じ取ってくださったのでしょう。
安心させるように、そっと背中に手を添えてくださいました。
「彼女がレリックの婚約者、セシル嬢だよ。今日から黒騎士団所属だけど、まだ腕輪の使い方も分からないから、交流がてら練習に付き合ってあげて。」
「「「ハイ!」」」
声の迫力にも驚きますが、淑女は笑顔を絶やしてはなりません。
にっこりと微笑んでご挨拶しました。
「セシルと申します。皆様宜しくお願い致します。」
「「「!!」」」
あら?皆さん無言です。
何か間違えたのでしょうか?
内心戸惑っていると、黒い髪と瞳をしたミステリアスな雰囲気の男性が立ち上がりました。
「私はグレンと申します。黒騎士団の副団長で、グレン副団と呼ばれています。以後お見知りおきを。」
「自分はアバイン。こちらこそ宜しくお願いします。」
「俺はラコッタです。何でも聞いて下さい。」
お忙しいのにわざわざ一人一人、椅子から立ち上がって、自己紹介をして下さいました。
怖いのは初めだけで、皆、思ったより気さくで安心しました。
今後の任務について話をする為、再び向かいの執務室へ戻ると、腕輪から声が聞こえてきました。
早速、黒騎士団の皆さんは、腕輪を使う練習に付き合ってくださるようです。
「セシル嬢、アバインです。執務が大変なので、応援してください、どうぞ。」
「セシルです。アバイン、頑張って下さいませ、どうぞ。」
「セシル嬢、ラコッタです。これから任務に行ってきます。どうぞ。」
「セシルです。ラコッタ、気をつけて行ってらっしゃいませ。どうぞ。」
グレゴル、グレン副団、ブロイル……黒騎士団の皆様が代わる代わる練習に付き合ってくださいます。
執務室に戻って、十分ほどですが、お陰で随分慣れました。
「おい、腕輪からの連絡が、任務とは関係無い、どうでもいい内容ばかりで邪魔だ。これでは話が出来ない。アレク、何とかしろ。」
暫く黙っていた殿下が、アレク団長に苦言を呈しています。
皆様、私の為に協力してくださっているのに、申し訳ないです。
「きっとセシル嬢が気に入って、話したいのだろうね。皆、残念がるだろうけれど、腕輪にはもう慣れたようだし、確かに話は出来ないね。任務以外に連絡しないように言っておくか。」
アレク団長は腕輪の黒いボタンを押しました。
「アレクだ。話し合いに支障をきたしているので、セシル嬢には、任務以外の連絡は禁止する。以上。」
執務室内にある箱から声が聞こえました。
北棟二階東側の黒騎士団専用区域に設置されている全ての箱から声が聞こえているそうです。
アレク団長による鶴の一声で、腕輪からの連絡はピタリと来なくなりました。
流石団長です。
「ようやく静かになった。やっと今後の話が出来る。」
殿下が真面目な表情で切り出しました。
いよいよ極秘任務の話です。




