表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解錠令嬢と魔法の箱  作者: アシコシツヨシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/114

101 観光牧場後編

「次はお買い物です。」


 レリック様の手を引いて厩舎を出てから、店が入っている建物に入ります。


「ここでは食事も出来ますが、おつまみセットを買って、好きな場所でピクニックをするのがお勧めです。」


「なるほど。外で人々がピクニックをしているのは、そういう事だったのか。いくらだ?」


「今日は私の案内ですし、褒賞金も頂いていますので、お金は大丈夫です。それに、レリック様は金貨しか持っていない気がします。」


 レリック様がお金を出そうとしている袋を指差すと、レリック様の手が止まりました。


「私が金貨しか持っていないと、何故分かる。」


 やっぱりです。


 金貨一枚あれば、平民の大人二人が、一ヶ月暮らせると言われています。


 領地よりも物価が高いとされる王都でも、一般的な貴族が普通に買い物を楽しむ程度なら、銀貨で十分です。


 勿論、高級店で買い物する場合には、金貨が必要です。


 ただ、王族は一般的に、王都まで足を運んで買い物をしません。

 買い物する場合、王家ご用達のお店を王宮に呼びます。

 その全てが高級店です。


 最低額でも金貨一枚なので、支払いは全て金貨になり、銀貨を使う機会なんて訪れません。

 だから、金貨しか持っていないだろうと思ったのです。

  

「何となくです。銀貨で支払えるのに金貨を出す貴族は、ほぼいません。いるとしたら、王家、あるいは公爵家の方くらいです。いくら変装していても、そういうところで王子だと勘付かれますから、今日は私にお任せくださいませ。」


「……仕方ない。」


 レリック様は、渋々金貨の入った袋をしまって下さいました。


 お摘まみセットは、チーズ、中サイズのボトルワイン、木のコップ二つと、敷物がついています。

 チーズとワインは、数種類から一つ選べます。


 追加でパンやディップ等を購入出来ますが、夕食も控えていますので、今回はシンプルなセットを購入する予定です。

 その前に、レリック様の好みを聞いておきましょう。


「レリック様は、どんなワインがお好みですか?赤か白、重いか、軽い。甘さの好みはいかがですか?」

「赤ワインが良い。重めであまり甘くない方が好みだ。」

「分かりました。」


 年代物の赤ワインと、お勧めのチーズを選んで、おつまみセットを購入しました。


「皆さん、この周辺で落ち着くのですが、私のお勧めは丘の上ですから、少し馬で移動します。」


 馬場に戻って馬に乗り、緩やかな坂を登って、丘の上にやって来ました。

 木が数本生えているので、適当に馬を木に繋ぎます。


 馬から少し離れた木陰に、おつまみセットを包んでいる布を広げて、座るように勧めました。


「ここは私の一番好きな場所です。風がとても涼しくて、人も来ません。静かで景色も見渡せて、ゆったり過ごせます。」


 ワインを木のコップに注いで、レリック様に手渡しました。


「確かに風が心地好い。任務や王宮から離れてゆったり過ごすなんて、今まで考えたこともなかった。」


 レリック様がチーズを一口(かじ)って、ワインを飲みながら、遠くの景色を眺めています。


「私好みのワインだ。チーズとも良く合う。」


 ワインのコップを眺めながら、レリック様が呟きました。


 気分転換になったでしょうか?


 レリック様の横顔を窺っていると、レリック様が、フッと笑いだしました。


「セシルは、私の馬に乗るのかと思っていたのに、まさか、追走とは思わなかった。初デートなのに。」


 初デート!?言われて見ればそうです。

 その感覚は、すっかり抜け落ちていました。


「ああ!すみません、時間が限られていますし、レリック様に色々案内したくて、気持ちが(はや)ってしまったのです。」


「いや、責めている訳ではない。何かと初体験ばかりだったと思って。追走もそうだが、牛の乳を搾るのも、バターを作るのも。乳搾りは抵抗があったのに、いざ体験してみれば、満喫してしまった。」


「それは良かったです。」

「そうだ、セシルが手ずから氷菓子を食べさせてくれたのも初めてだ。私も食べさせてやりたくなった。」


 レリック様が、小さくちぎったチーズを、私の口へと差しだしました。


「あれは溶けると思って急いでいて、昔、お母様がしてくれたように、つい、してしまったのです。」

「ああ、有り難う。私は嬉しかった。セシルは嫌か?」


 レリック様は、私が断れないのを知りながら、わざとそんな言い方をしている気がします。


「その言い方は、ズルいです。」


 口を開けて、レリック様が摘まんでいるチーズを食べました。


「!!」


 チーズを食べた時、レリック様の指先を唇で咥えてしまいました。

 レリック様は、チーズを離しても、指はそのままにして、引っ込めなかったのです。


 咄嗟に顔を引いて、レリック様の指を唇から解放します。


「セシルに指を食べられてしまった。」


 レリック様が良い笑顔で、私のせいにしてきます。

 あれは絶対にわざとです。

 私は悪くありません。

 悪くはないのですが、指を食べてしまったのは事実です。


「……すみません。」


 口元を手で覆って、チーズを食べつつ、思わず謝ってしまいました。


「ごめん、セシルが可愛くて、つい意地悪をしてしまった。ただ、謝っておいて何だが、今後も止められそうにない。」

「え?」


 私の頭を撫で始めたレリック様を、凝視してしまいました。


「恥ずかしがるセシルの反応が、私の好物らしい。」

「そんな事言われても、困ります。」

「済まない、困らせたい。」

「そんな……。意地悪です。」

「ああ、私は意地悪だ。セシルは悪くない。」


 意地悪って認められてしまいました。

 今後、私ばかり恥ずかしい思いをさせられるのは、悔しいです。

 納得できません。


「では、私もレリック様を恥ずかしがらせて、困らせますからね!」

「セシルから来てくれるなんて、喜びでしかない。」

「え?」


 レリック様が満面の笑みを浮かべています。

 これは私、とても不利なのでは?

 

「セシルは、ここでも楽しませてくれて、王宮に帰ってからも、私を喜ばせようとしてくれるのか。なんて愛しいのだろう。」


「違っ、そんなつもりで言ったわけでは……」


 明らかにレリック様は、私をからかって楽しんでいます。

 私は反論したいのに、有無も言わせず、レリック様が耳元で、それはそれは素敵な声で、甘く囁くのです。


「帰ってからも、大いに期待しているよ、セシル。」

「――っ!レリック様の意地悪っ。」


 レリック様の甘い声に、思わず耳を押さえて動揺してしまうのは、私だけではない筈です。

 顔が赤くなるのも仕方がありません。


 困りました。これでは、益々レリック様を増長させてしまいます。

 そっとレリック様の手が私の手に重ねられました。


 次は何?

 身構えてしまいましたが、杞憂でした。


 レリック様から、からかうような空気は消えて、まなざしは、優しく穏やかです。


「セシル、今日は、私の為にありがとう。とても楽しかったし、久しぶりに、ゆっくり出来た。」

「喜んで頂けたなら、良かったです。」


 今日は、レリック様が心から楽しむ姿を引き出したいと思っていました。

 それが達成できたようで嬉しいです。


「結婚して、いつになるかは分からないが、また必ずここへ来よう。」

「本当ですか?」

「ああ、約束しよう。」


 お互いの小指を絡めて、約束をしました。

 これは、友人や恋人の間でする、約束の儀式です。


 未来の約束は、未来も一緒にいるからこそ出来る約束です。

 この先も一緒だと言われているようで、とても幸せな気持ちになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2023年12月8日にOFUSEサイトにて、レリックとセシルのイメージイラストを投稿しました。 宜しければご覧くださいませ。 OFUSEサイト・アシコシツヨシ
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ