10 翌朝
「セシル様、お目覚めのお時間です。」
侍女のラナに起こされて、一瞬、ここが、どこなのか分かりませんでした。
ああ、そうでした。ここは王宮内にあるレリック殿下の寝室でした。
身体を起こして違和感に気付きました。
私は向かいのベッドで横になった筈ですが、いつの間にか、こちらのベッドに移動しています。
「私、かなり寝相が悪いのかもしれません。でも、こんな事、初めてなのです。本当に、初めてなのですよ。」
初めてを強調して話すと、大人しいラナに、クスリと笑われてしまいました。
「セシル様の寝相のせいではありません。あちらは殿下専用に作られた少し固めのベッドで、セシル様用のベッドは柔らかめなのです。きっと眠っているセシル様を起こさないよう、殿下が運ばれたのでしょう。」
「どちらも、同じベッドだと思っていました。」
見た感じ、同じに見えましたし、横になった時、特に固いと感じませんでした。
言われてみれば今寝ている方が、ふわふわな気がします。
どうしましょう、殿下のお手を煩わせてしまいました。
隣のベッドを見ると、殿下はいません。
私より遅く寝て、私より早く起きるなんて、体調を崩さないか心配です。
「朝食が出来ていますから、お仕度の準備を致しますね。」
ラナに身支度を手伝って貰い、大部屋へ入室すると、既に殿下がテーブルに着いていました。
「殿下、おはようございます。昨日はベッドを間違えてしまって申し訳ありませんでした。」
早速謝ります。
何でも謝るのは、早い方が良いのです。
「私こそ言い忘れていたから、お互い様だ。さあ、朝食にしよう。午前中は妃教育だ。」
「はい。」
殿下は引きずらないタイプのようで、助かります。
朝食を済ませると、王族専用区域から、一般区域へと移動します。
家庭教師でも、王族専用区域には立ち入れないそうです。
王族専用区域に一番近い、一般区域にある教育専用の部屋に案内されました。
本日は殿下も一緒に付き合ってくださるようです。
教育係は宮中に長年勤めている王族の縁者がなるとのこと。
紹介されたのは公爵家の六十代男性で、立ち姿は美しく、短めの白髪は整えられています。
丸い眼鏡の奥には、グリーンの瞳が光っていました。
体型はスマート。服装もキッチリとして、品があります。
私は彼をよく知っていました。
「まあ、ロイ先生ではありませんか。」
「お久しぶりです、セシル様。」
「二人は知り合いなのか?」
殿下が驚いたような顔をしています。
「ええ、私が幼い頃、家庭教師として邸に来て下さっていたのです。」
「ロイが!?」
殿下が更に驚いた顔をしています。
どうしたのでしょう?
伯爵家以上の貴族は家庭教師を雇うのが普通です。
幼い頃、解錠の加護が発現した直後、家庭教師は変えられて、新しく来た家庭教師がロイ先生でした。
以前の家庭教師と違って、ロイ先生はとても優しく、不出来な私に根気よく付き合って下さいました。
「王妃様とアセンブル夫人は、とても仲の良いご友人でした。アセンブル夫人から雇った家庭教師の話を聞いた王妃様が、私にセシル様の家庭教師をするよう望まれたのです。」
「そうだったのですね。」
「母上自ら?それは、知らなかった。」
王妃様が私の為に気遣って下さっていたなんて、殿下も知らなかったようです。
「セシル様が婚約されるまで、家庭教師はしておりましたから、既に基礎は出来ております。まさか殿下と本当に婚約するとは予想外でしたが、今まで頑張って学んだ甲斐がありましたね。」
家庭教師をつける意味は、幼い頃より、王家に嫁ぐ未来を想定されていると最近になって初めて知りました。
王家に嫁ぐなんて殆どの令嬢には叶いません。
学んだ事はきっと無駄にはならないでしょう。
けれど、学習内容は多岐に渡り、大変な思いをして努力が報われないのは、辛いものがあります。
任務の為に結婚する羽目になった私ですが、努力して王子と結婚出来ない令嬢から見れば、努力が報われた幸福な人間に見えるでしょう。
実際、殿下に恥をかかせなくて済むのならば、勉強しておいて良かったと思います。
「本日は婚約披露パーティーの流れについてお話しして、殿下とのダンスを見せて頂きます。宜しいですね。」
「はい。宜しくお願い致します。」
一通り説明を聞いて、いよいよダンスです。




