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05

 何でも、アスレンの求める翡翠玉はふたつだか三つだかあるということだ。

 しかし従弟は、西にあるひとつ――或いは、その守護――で遊んでばかりいる。

 もっとも、これはアスレンの遊びだ。ラインの好きなようにすればよいこと。

 しかし、それならば自分はアスレンに代わって南のそれを手にしてこようと、ラインにそう申し出ればいい。そう考えたサズは、その通りにした。

 ラインたる王子は、サズがラーミフにそそのかされたとすぐに気づいたようだった。

 その上で、許可を出した。

 妹の召使いになっている従兄を馬鹿にしているのだ。面白がってもいるのだろう。だが、そのようなことは判りきっている。

 苛つく、とは言わない。ただ、腹の辺りに溜まるものが増えるだけ。

 これを払えるだけの力を持った、強烈な刺激が要る。

 それはたとえば、身を滅ぼすほどの――。


 南の街には、冷たい空気が漂っていた。

 カーディル。

 この地には彼の父親がいるということだったが、別に興味はなかった。「父親」など、母が彼をこの世に送り出すために利用した、ただの種馬に過ぎない。

 もちろんその「種馬」の血が彼には流れている訳だが、それがたまたまサズと――母マリセルと、ではない――相性のよいものであっただけのことであり、それ以上の意味はない。

 ただ、此度の企みには、何の価値もないと思っていたこの血が利用できるかもしれない。そうであれば、カンベルという男も種付け以上の仕事ができたということだ。

「何奴」

 胡乱そうな警戒の声に、サズは、彼の身分にあるまじきことをした。

 下賤の者のように、深々と頭を下げた。

「こちらの伯爵閣下に、お話が」

 南方にある小さな館の門番など、彼にとっては羽虫(グー)ほどの値打ちもない存在だ。しかし、いや、だからこそ、このようなことは屈辱でも何でもなかった。

 サズは占い師であると名乗り、疑う理由もないと言うより、考えるだけの頭がない門番はそれをそのまま領主の執務官に伝えたようだった。

 半日程度待たされたことは、何の怒りにもつながらなかった。

 これは長くかかるだろう、とサズには判っていたのだ。

 「この日は」ではない。「この件は」。

 大きな力を持つ魔術師たる彼に訪れた、それは予感(フェルシー)であったかもしれない。

 しかしそのサズでも、読み切れなかったことがある。予言(ルクリエ)を専門とする術者であっても、読んだ未来を解釈し損なうことはあるのだ。

 たとえアスレンであっても、同じこと。

 思うままに未来を操ることのできる者はいない。

「さて」

 南にある翡翠。その守護と思しきカーディルの伯爵は、怪しんでいるという様子を隠すことなく、レンの王甥を見ていた。

「用件を聞こうか」

 椅子に座ろうともしないまま、南の〈守護者〉はそう言った。

 あまりにあからさまな警戒心に、サズは笑いがこみ上げそうになった。

 小心者の警戒であれば、何も面白くない。少し脅せば言いなりになるだろうからだ。

 だがこの男は違う。敵ならば躊躇わずに斬ると、最初から彼に宣戦布告をしている。

 面白い、と思った。

 サズがアスレンに敵わぬように、この男がサズに敵うはずもないものを。

 では、遊戯を続けよう。アスレンがはじめ、ラーミフが参加し、サズが乗せられた盤上で。

 次に駒を動かすのは、いったい誰であるのか。

 どういう形になるにせよ、全く思いもかけぬことが置きそうだ。

 それもまた、予感であったろうか?

 彼の魔力が掴んだその感覚は、彼と彼の王女の運命を大きく揺るがす流れの一端だった。

 〈変異〉の年の翡翠。

 それが彼ら従兄妹たちを破綻と破滅へ導く使者であるということまでは――サズの魔力は、彼に教えなかった。


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