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トリックスターマスカーニャ

作者: モリオ

『今夜20時に ラウドボーン博物館 に寄贈されている わざマシン171テラバース をいただきに参上する』


清掃員のワナイダーが、手紙が窓に刺さっているのを発見した。18時の出来事だった。

「早く厳重体制の準備をしろ! 特に技マシンの周辺!」

ラウドボーン館長が叫び、ピリピリした空気感が流れている。

「瞬きしている間に敵が急接近するかもしれん。瞬き禁止で敵を探せ!」

「そんなの、無理っすよぉ……」と、アチゲータ館員。

「無理じゃない! やるんだよ! きあいのハチマキを持ったらカイオーガの潮吹きだろうと10%の可能性で耐えるだろ? その10%を運命力で引き当てろ!」

「館長……言っていることがメチャクチャっすよぉ……」

時間は残り1分で約束の20時を迎える。あっという間だ。

わざマシンを高台へ置き、周りにホゲータ館員を隙間なく配置。

「これで大丈夫だろう。館員スタッフの総動力をお前にぶつけてやるぜ! マスカーニャ」

その時だった。館内の電気がバチっと消えた。

「おい! どうなってんだ! 暗くて何も見えんぞ!」

「そんなぁ……電気の配線は何度も大丈夫なことを確認していたのですか……」

「私が切ったのよ」

「!?」

パチィン

指を鳴らす音が聞こえたと同時に、照明が付いた。

ラウドボーン艦長は高台を見上げる。本来技マシンが置かれていた場所に、1匹のポケモンが立っていた。

「怪盗……マスカーニャ……!」

「あら? 怪盗なんて失礼だわ」

マスカーニャは、凄まじい速さで高台から窓へ飛び移る。

「トリックスターと呼びなさい」

「こら! 逃げるな! 技マシンを返せ!」と、激昂してラウドボーン艦長が叫ぶ。

「お土産よ」と言い、マスカーニャはラウドボーン艦長に花束を投げ付ける。

花束は爆発し、館内を煙幕が襲った。

ーー マスカーニャの技 トリックフラワー ーー

「ゲフンゲフン」

「おい! 何をしている! 早く煙幕を何とかしろ!」

「さっき、清掃員のワナイダーさんに、換気扇の強度変更と、全ての窓の開閉をお願いしました」

「清掃員1人じゃ間に合わん! お前らもやれ!」

「は、はいぃ!(艦長もやれば良いのに)」

アチゲータ館員やホゲータ館員が慌しく館内を走り回り、窓を開ける。

煙幕が薄くなると、マスカーニャの姿はどこにも見えなくなっていた。

「クッソーー!! マスカーニャ……覚えとけよ!」

ラウドボーン艦長は怒り狂い、マスカーニャが消えた窓に向かって叫んだ。




『今夜20時に ウェーニバル警察署 に寄贈されている 特性パッチ をいただきに参上する』


ウェーニバル警視長が、毎朝恒例にしているお散歩中に手紙を見つけた。

相談に持ちかけられたルカリオ警視は、目を細め、頬杖を付きながら「面倒なことになりましたね」と言う。

「こんなのが生きてりゃ、アホダンスの一つや二つ出来やしねぇ」

「でも妙ですよね。わざわざ警察署に寄贈されている物を盗みに来るなんて。自殺行為ですよ。警察を舐め過ぎでしょ」

「それだけ自信があるってことだろ。何より、ウチに寄贈されている『特性パッチ』は、戦闘民族にとっては相当価値のある品物みたいだからな」

ウェーニバル警視長は立ち上がった。

「警察署中に警備と仕掛けを大量に配置しろ。今日の20時までにな。警察に喧嘩売るって上等じゃねーか。覚悟しろよ? マスカーニャ」


19時57分になった。

『特性パッチ』は、檻の中にあり、鍵もかけている。

檻の前には、ウェーニバル警視長とルカリオ警視が並んでいた。マスカーニャの姿が見えた時に、全力で仕留めさせるようにする為だ。

「外にはクワッス巡査とリオル巡査。署内にはウェルカモ巡査など複数名配備しました」

「よくやった。天下のマスカーニャもここまでだな」

その時だった。署内の照明が消えた。

「何だ? 何が起こっている?」

「おかしいですね。配線のチェックは完璧なはずですが」

「私がやったのよ」

!?

どこからか声が聞こえる。

「どこだ! 姿を現せ!」

パチィン

指を鳴らす音が鳴り響き、照明がつく。

しかし、ウェーニバル警視長とルカリオ警視の前には誰も居ない。ルカリオ警視は興奮の為か、少し離れた場所に居た。

「ま……まさか」

後ろを振り返ると、鍵がかかっていた檻の中にマスカーニャが居る。手には特性パッチと鍵穴を持っている。

「私の持っていた柔らかい素材の鍵穴を、元々あった鍵穴とトリックしたの。柔らかい鍵穴は、鍵で開けなくても、引っ張るだけで解除されるの。鍵穴として失格よね?」

砕け散った鍵穴が檻の前に落ちていた。

「クッソォ! この野郎!」

ウェーニバル警視長がみずでっぽうを繰り出した。マスカーニャは、手で技を払い除けた。

「トリックフラワー!」

マスカーニャの手から作られた花束が発射される。

「はどうだん!」

少し離れた場所に居た、ルカリオ警視が繰り出した技が激突し、爆風となった。

「うわぁぁぁ!」

ウェーニバル警視長とルカリオ警視は爆風に飲み込まれた。

「クッ……ダメです。爆風がふんえんを生み出したみたいです。炎技で威力80なんで効果抜群です」

「どちらにせよ煙が邪魔で身動き出来ねぇ……後はウェルカモ巡査などみんなに託すか……ガクッ」

ウェーニバル警視長とルカリオ警視は倒れた。

「最後に1つだけ良いですか? 何でウェーニバル警視長は みずでっぽう を忘れさせてないんですか?」

「俺は昔から最初の思い出を大切にしたいタイプだからだよ。忘れたくないんだ」


「はぁ……はぁ……」

マスカーニャは息を切らして走っていた。

署内の警備は厳重だ。ラウドボーン博物館で出来た窓からの脱出も、ウェーニバル警察署では出来ない。

「しまったわ……」と息を漏らしながら言う。

トリックで窓の鍵を破る機材を、うっかり忘れてきてしまったのだ。

脱出も窓からでは無く、警察署の入り口に戻って逃げなければならない。

「参ったわね……」

油断して視線を外しながら走り続ける。

「マスカーニャ覚悟!」

曲がり角からウェルカモ巡査がアクアジェットで突っ込んできた。首元には拘りスカーフを巻いている。

「キャァ」

何とか避けたが、体制を崩した。焦ってしまい、盗んだ特性パッチを手放してしまう。

「今だ!」

ウェルカモ巡査が叫ぶと、マスカーニャの上から網が降った。身体全体を包み込む。

「し、しまったわ!」

「よっしゃ! マスカーニャ確保! ウェーニバル警視長に報告するぞ!」

意気揚々とウェルカモ巡査がウェーニバル警視長の元へ向かおうとした。

ザクッと、何かが刻まれる音がした。

ウェルカモ巡査の動きが止まる。そして、そのまま横倒れした。

何が起こったのか分からない。ウェルカモの背後から気配を感じるのは分かる。

唖然としていると、水の刃がマスカーニャへ飛んできた。『みずしゅりけん』だ。

刃は、マスカーニャを包んでいた網に襲い掛かった。

「え……?」

網はバラバラになり、マスカーニャは解放された。

「誰だ!」

奥にあった影が形を成し、忍者のような姿になった。

アーマードミュウツーのような、黒い装備をかぶっているので、中がどんなポケモンか分からない。

「気になっていたから後を付けてみたが、この有様か。残念だぞ。マスカーニャ」

黒い忍者は、落ちていた特性パッチを拾い上げた。

「あ! 私の特性パッチ!」

「厳密に言うと、トリックスターマスカーニャのではなく、ウェーニバル警察署のものだろ」

「た、確かに」

「勝負だ」

黒い忍者は、そう言い終わると、恐ろしい速さで駆け出した。

「あっ! 待って!」

マスカーニャも慌てて追いかける。

途中、クワッス巡査とリオル巡査が追いかけてきたが、速度を緩めることなく みずしゅりけん で払い除けた。

この黒い忍者。相当なやり手だ……

もしかして、トリックスター界で1番有名な ゲッコウガさん なのか……?

黒い忍者の後を付けていると、あっという間にウェーニバル警察署を離脱した。

前の黒い忍者の背中を見ながら、真っ直ぐ追いかける。マスカーニャの方が若干速いのか、少しずつ距離が縮んでいく。

街の屋根上、森などを越え、崖の下まで来た。

あと少しのところで、黒い忍者は後方へ大きくジャンプした。纏っていた黒い装備が外される。

「あ! お前は……?」

「トリックスターゲッコウガだ!」と言い、上空から冷凍ビームを放つ。

「クッ!」

マスカーニャは、ビーム擦れ擦れに避けた。

「トリックフラワー!」

上空のゲッコウガへ向かって、花束を投げつけた。

「グオッ!」

ゲッコウガは身体を捻らせ、避けようとしたが、花束の爆風が足元を襲った。

「しまった!」と声を上げ、ゲッコウガは手に持っていた特性パッチを落とした。

何とか着地し、すぐに大ジャンプする。

「その特性パッチはくれてやろう。しかし、次は上手くいかない。覚えておけ」

ゲッコウガは瞬く間に崖の上へ消え、姿を消した。


「はあぁ……」

マスカーニャは疲れ果て、横になった。

今までずっと上手くいっていた。ここまで苦労することは無かった。

世界には沢山の宝がある。盗むのにもっと難関な場所もある。

トリックスターを名乗る以上、もっと強くならなければいけない。

「私が、トリックスター界の頂点に立つんだ……!」

疲れ果てて、か細い声を出しながら、マスカーニャは手にした特性パッチを使った。

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