ホテルリズノワール 1
ニュータウンを出た私が着いた場所。
そこは、不思議なカプセル型の住居の連合体だった。
きっと、ニュータウンのことは、また書くこともあるだろうが
今回は、不思議なカプセル型住居と
そこから繋がる不思議な世界を書いておきたいと思う。
そのタワーのまわりには
やたらに中国語の書いた看板やら、それっぽい建物やら
ちっともそれっぽくない近代的な建物やら
とにかく立ち並んでいて
確か、近くに運河のようなものが流れていたと思う。
そんな実に中国ぽい
だけど中国ぽくない
実際はきっと名古屋くらいにあるような
そんな街なわけだから
牛丼屋くらいはあるわけで
私はタワーに着いてから
毎日のようにテイクアウト牛丼を抱えてカプセル部屋に帰り
それを毎回食べているような
実に穏やかなような
だけど、実に無機質な時間を過ごしていた。
ある日、いつものようにテイクアウト牛丼を抱えてタワーに入る直前
突然、それは現れたんだ。
こちらではどんなお仕事を?
現れた男はそんな話をする。
いや、この…
私は
アプリケーション内に並ぶ自作カセットテープリストやら
別の動画サイト上に並ぶ自作カバーソング集やらを男に見せながら
ま、ちっともエネルギーにはつながってないんですけどね。こんなもんです。
男は、ちらとさほど興味なさそうにそれを眺めたあと
また、こっちを見る。
ま、そういう人もいますからね。では。
男は去っていき
私は、カプセルに帰り牛丼を食べる。
そしてまた
無機質な牛丼と過ごす日々がはじまり
時間がまた流れる。
そんなある日
珍しく牛丼ではなく
なにか外資系コンビニ的な場所から手に入れた
バスタ的なものを抱えて帰り着く途中
また、あの男が現れたわけだ。
このあいだは、どうも。
男は何か急いでいるらしく、矢継ぎ早に
きっとどこの組織体にも加わってないんでしょうから、よければ私からそちらに最適な組織体をご用意差し上げますが。
え?
まあ、このタワーて、私のようなどこかの組織体に属していく育成途中の芸術家と
芸術家もどき…
まあ、好きなだけのヤツですね。
そんなどちらもいるわけですけど…
私は普段見るタワーのエレベーターホールあたりで遭遇する人間たちを浮かべてみる。
たしかに、ずいぶん忙しそうな意欲に満ち溢れたような連中と
イラつき、無気力化しているような
そんな連中が
どちらもいるのは、確かなように思えた。
成程、そういうことか。
私は、男の申し出を受けることにした。
どのみち、このまま時間を過ごし続けても
牛丼ときどきバスタの日々が続いていくだけで
なにもはじまりそうにない。
ならば、この
さほど怪しそうでもない
どちらかと言えば
タワー内にいる、満ち溢れている側に見える
そんな男の話に
乗ってやったほうがいい。
わかりました。なら、私の方から組織体には連絡しておきますから、向こうの人間がやってくるまで、少し待機してください。
そういって男は去っていき
私は、カプセルへ帰り、バスタを食べる。
だけど、もう、何かが違うんだよ。
何日か過ぎたあと
部屋の電話が鳴った。
あ。〇〇さんで合ってますか?
なにやらアニメキャラクターみたいな
ずいぶん幼い女性の声がする。
あ。合ってますけど。
あ。△△さんからお話いただきましてー、ご連絡差し上げたんですけどぉー。
あ。申し遅れましたぁ。
私、転生世界定着支援センターの、弘島と申しますぅー。
なんかそんな名前の女子アナいたよな。
で、そちらに伺うと、ほらぁ、くすぶっている方々がおられましてー。
あ、あの連中ね。
昨日も、誰だか廊下でケアサボ系のヤツに怒鳴り散らしてたヤツいたっけ。
そのへんのくすぶってる…いやいや、芸術家のつもり…いやいや、卵の方々…
本音、めっちゃ出てますやん。
まあ、その辺の方々に見られると、ほら、自分にも、とか。なんでうちには来ないとかぁ…
その辺、あるある過ぎ…
なんでぇ、ご自分から…いやいや、あなたさまのほうでぇ、こちらに向かってくださると大変助かるんですがぁ…
向かうて、どこに?
えーと、峠のほうに、ホテルリズノワールというのがございましてぇー、そちらがいわば宿泊療養施設のようなものになっておりましてぇー、そちらでゆっくりいろんな疲れをとっていただいてからぁ、向かう先に向かっていただければとー。
峠て、どうやって行きゃいいんだよ。
あ。市内から峠トンネル経由ネクストタウンゆきのバスもあって、そちらの峠トンネル口で降りていただいたらすぐなんですけどぉ、峠トンネル経由便はあんまりなくて、たいてい高速道経由になっちゃうんでぇ、手前の方に、森林が丘住宅循環の、森が丘センター北、てバス停がありましてー。そちらからトンネルに向かう旧国道を上っていただけると、センター北から25分くらいで峠トンネル口に…
なんだかややこしいアクセスのホテルだな。
何日かあと、センター北からしばらく歩いた
あ。これかよ。
そんな峠トンネルホテルに着く。
あ。お待ちしておりましたぁ。弘島でーす。
は?
なんだよ、このネット系カジノディーラー系女子?
そこが、ホテルリズノワールだったわけで
そこから、また
不思議な物語が
続いていくわけだ。