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第八話 帰投

 


 本部に帰投した俺と御月は、今日の哨戒任務で遭遇し襲撃してきた魔物の群体について報告をするため、普段山名がいるというロビーへと向かう。


 階段を登り歩くこと数分。ロビーの中央に立つ隻腕の偉丈夫と、西ではよく見かけられるという海外にその起源を持つ金髪の女性が会話をしているのを見た。


 御月が割り込む形で彼らに話しかける。


「山名。たった今哨戒任務より帰投した。会話の途中で申し訳ないが、早急に報告したい事項がある。時間を貰えないか」


 それに対して山名が返答した。


「いや、今ちょうどアイリーンの報告を聴き終わったところだ。いい機会だし坊主にこいつのことを紹介しておこう。こいつはアイリーン。こう見えて防人だ。御月と同じようにお前の先輩ということになる」


「私はアイリーン! よろしくっすよ! 後輩の玄一くん!」


 アイリーンと名乗った金髪碧眼の女性は腕を後ろで組んで、笑っている。ロビーに響く彼女の明るい声は、不思議と耳に残った。こちらに子供っぽい満面の笑みを向ける彼女の背丈は御月と同じくらいで、その胸元にあるロザリオが目立っている。


 彼女はスラリとした御月と比べて少し大きいように見えたが、鍛え上げられた肉体を持つ防人を基準にしてみれば、アイリーンはいたって普通で御月が痩せすぎているぐらいだろう。


 澄んでいる彼女の碧眼が、こちらを見据えていた。


「俺は、新免玄一。ここより西の放棄された郷の出身だ。故郷を取り戻すために戦っている。よろしく頼む」


 軽く彼女に自己紹介を行なった俺を見て、十分だろうと思ったのだろうか、山名が口を開いた。


「それで御月。報告したい事例とはなんだ」


 発言の許可を得た御月が、深刻そうに語った。


「ああ。実は哨戒任務中に、ワイバーン率いる混成群体と遭遇した。その上ワイバーンが逃げもせず特攻まで仕掛けてきて、無事殲滅したが、かなり怪しいぞ」


 それを聞いたアイリーンが、御月の様子とは対照的に明るい雰囲気を醸し出している。


「ついこの前までカイト砦に詰めてたっすけど、魔物側に大規模な動きは確認できなかったっすよ。珍しいっすが、問題はないんじゃないんすか?」


 アイリーンがふわふわした感じで答えた。こういったら失礼かもしれないが、この人、本当に魔物と戦う精鋭の防人なのだろうか。


「まったく......楽観的になるなアイリーン。タマガキに何かがあれば西は陥る。慎重になりすぎるくらいがちょうどいい」


 郷長の山名は考え込む時に目を瞑る癖があるのか、目を瞑ってその会話を聞いている。無茶苦茶なおっさんだとは思っていたが、情報を聞いて考え込むその姿に郷長としての威厳を感じた。


 しかしアイリーンほど楽観的になることではないと思うが、御月ほど深刻そうに受け取ることでもない気がする。


「御月。ワイバーンが出てきたことがそんなに問題なのか? よくわからないけど、出てきたらまた倒せばいいだろう」


 俺の意見に同調するように、アイリーンが続けた。


「そうっすよ御月! 御月はいつも堅苦しいっす」


「アイリーン。それは今全く関係ないぞ」


 見当違いのことを言っているアイリーンにはツッコミを入れておいた。呑気に反論をした俺たちに対し、御月は少しムッとしている。


「君たちは一体座学で何を学んだんだ......ワイバーンというのは本来指揮官である魔獣の近衛のような役割を担っている魔物だぞ。そんなのが前線に出てきて特攻など、まぎれもなく! 異常事態だ」


 こちらに言い聞かせるような彼女の主張を聞いて、その様な背景があったとはと脱帽する。素直に謝ることにしよう。


「ああ、そういうことだったのか。御月。すまない」


 あっさりと折れた俺に、御月が首をかしげ不思議そうにしている。


「急に物分かりがいいな。玄一。魔物学は防人の必修科目だぞ。君も学んだはずだ。養成機関にいた頃を思い出せ」


 その御月の反応に違和感を覚えた。師匠から連絡がいっていると思ったのだが、もしかして、知らされていないのだろうか。


「御月。俺は養成機関で座学を一切受けていないぞ」


 私は寝てたっすーだいたい同じっすねーなんて言って哄笑するアイリーンと、開いた口が塞がらない御月。先ほどまで左目を閉じていた山名は、驚きでそれをまん丸にさせていた。彼に威厳はもうなかった。







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