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第二十七話 勝利

 


 山名に会いに本部へ向かう俺を見た他の係員が、血塗れになっている俺と俺の装備を見て、一度体を流してくるように言った。汚れた外套を預けて、予め水で血生臭い汚れを落とした後、更衣室の方にある風呂へ向かう。早めに戻ってくるように言われたのだが、この際ゆっくり浸からせてもらおう。


 身につけた装備を脱いで見てみれば、今日気づかぬうちについたであろう大量の生傷が体についていた。しみるだろうか。


 体を洗い、湯に浸かる。思わず息が漏れ出た。


 立ち上る湯気。目を閉じ、無心になる。体が暖められて疲れが抜けていった。ああ、この感覚が気持ちいい。


 故郷にあった露天風呂を思い出す。またいつか浸かりたいと願った。



 のぼせそうになる。そろそろいい時間だ。ゆっくりと立ち上がり、風呂を出る。


 用意されていた服を着て、郷長がいるであろうロビーへ向かった。






 更衣室を出て、廊下を歩き、ロビーへ入った。照明が点けられたそこには、多くの兵員が既に集まっていて、俺が遅刻したことが伺えた。ちょっとまずいかも。



 ロビーの中心には、御月、郷長、そして会ったことのない忍び装束の男がいた。加えて、たった今帰還したであろう兵士たちが集まっている。彼らの中へ入り込むように歩みを進め、立ち止まった。


 郷長が口を開く。


「帰還したか。玄一。それで、首尾はどうだ」


「確認した戦略級魔獣”血浣熊”と交戦。撃破に成功した」


「上々上々! よくやった!」


 山名が唐突に近づいてきて、背中をその大きな左手で叩いた。すごく痛かったが、なんだか嬉しかった。彼が喜んでいるのが伝わってくるからだろうか。


 俺と郷長のやり取りを、黒装束の男が見つめている。


「郷長、私に自己紹介をさせてくれないか」


「おう。いいぞ」


「こんばんは。玄一君。私は甚内(じんない)というものだ。君と同じタマガキの防人だ。よろしく頼む」


 彼は口元を布で隠しているため、その表情ははっきりと見えなかったが、笑みを浮かべているように思えた。装束から見える褐色肌。背は俺より少し高いくらいで、腰には短刀が挿してある。


「それで君が......」


 横に無言で立っていた御月から、唐突に何故かわからないが殺気が飛んでくる。凄まじい表情で彼女は甚内の方を睨んでいた。怖い。


「すまないすまないなんでもない。私からは以上だ」


 甚内さんは汗をだらだらと流し御月にびびりちらしている。最初は落ち着いた大人の男性のように感じていたがその印象からかけ離れているような動きをしていた。この人、意外と緩かったりするのかもしれない。


 御月から飛んできていた殺気スッと消える。振り返って見てみれば、御月が笑顔でニコッとこちらを見て笑っていた。笑っていればかわいいはずなのに何故か怖い。なんで。


 山名が脱線しそうになった場をごほんと咳をして戻す。


「今回の一連の侵攻。皆ご苦労だった。具体的なことはまだわかっていないが、侵攻を受けたこちらの被害は軽微であるにもかかわらず、魔物の被害は甚大であろうと予測されている。よくやった」


 湧き上がる拍手。その拍手が鳴り止んだ後、御月が口を開いた。


「それで山名。今後どう動く。これは大きなチャンスだぞ」


 御月の言葉に、山名が大きく頷く。今回敵の指揮官級である魔獣を仕留めることに成功したのは何も俺だけではない。特に南の戦線にいる防人達は数体の魔獣を撃破することに成功したらしい。その隙を、逃せないと御月は言っているのだろう。


「こちらの被害は軽微とはいえ、失った物資は多い。まずはそれの補給を行い━━」



「逆侵攻を行う。一週間後を目処にカイト砦北西のダンジョン攻略を目的とした大規模作戦を開始する。総員。引き続き気を引き締めてかかれ」


 彼の隻眼が光ったような気がした。戦勝を祝う空気が一変して締まった。甚内と御月の目付きが鋭くなる。


 そんな彼女たちに反して、大きく笑った山名が、その隻腕を掲げた。


「しかし、今はこの勝利を祝おう。今日は飲んで喰らえぇ!!」


「うぉおおおおおおおお!!!!」


 皆が腕を上げ叫んだ。俺も場の空気に当てられて、思い切り叫んでしまった。













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