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第十六話 駆け抜ける戦場(2)

 

 森林を駆ける。風に乗る春の匂いが、鼻腔をくすぐった。


 天気は良く、木漏れ日が降り注いでいる。そんな陽気な風景に似合わず、たった今斬り裂いた魔物の血飛沫が舞った。南西方面の魔物を一度片付けた俺は、北へ転進し魔物の掃討を図る。ここで数を減らすことができれば一気に楽になるだろう。


 霊力にはまだまだ余裕があり、この戦場の魔物を全て喰らってもなお、朽ちることはないと確信していた。


 こちらの進行を妨げるように現れる七体のゴブリン。走る勢いのままに撫で斬りにしてやってもいいが、奴らは捨て駒。それではこちらを減速させ、その間に他の魔物を退かせようとする相手の狙い通りだ。であれば、時間を稼がせる暇もなく瞬殺する。


 跳躍し横にあった木に両足をつけ、足に霊力を込める。


 魔物の方へ、蹴り飛んだ。霊力により強化された俺の脚力で、木が木っ端微塵に砕け散る音が聞こえる。


 勢いを乗せ刀を握りながら、体を一回転させた。


 振り絞った弓から放たれた一矢の如く。ゴブリンの群れへ突っ込み、一閃。奴らをまとめて斬り裂いた。雑魚が。話にならない。


 着地。進行を緩めることなくこのまま前進する。






 魔物の群れがいたという報告があった北西方向。その報告に狂いはなく、魔物の群れを発見した。


 その数、五十体を超える。


 その群れはゴブリンやオーク、インプといった見慣れた魔物で溢れていたが、その中に見たことのない魔物の姿を確認した。


 オークよりも鍛えられた鋼の肉体。紅に染めたかのような肌。その体躯は逆三角形のような形をしており、異常なまでに肩幅が広い。


 (オーガ)だ。これは大物。魔獣を除けば陸生最強の魔物で間違いない。今回の主攻を担っているのはこいつか。もし魔獣がタマガキ近辺にいないのであれば、こいつが最高位かもしれない。


 俺の存在に、防人の強い霊力の気配を通して魔物の群れは気づいたようだ。オーガは構えを取り臨戦態勢を取っているが、他の魔物は狼狽し逃げ惑っている。


 指揮を取りきれていない。知能の低い魔物では、統率の取れた行動をこのような状況で取れない。


 敵はオーガ一人と言っていい。既に奴は腹をくくっている。やる気だ。


 オーガは右腕と左腕で格闘の構えを取り、対し俺は刀を納刀し抜刀の構えを取る。オーガがこちらの懐に入り込めるか、俺がその前に奴を叩っ切れるか。お互いの技量が高い以上、勝負は一瞬だ。


 機を伺い動かぬ時間が続く。一瞬、オーガの体が弛緩した。


 相手の想像を上回れ。奴は構えを見てこちらから来ると思っていない。右足で大地を蹴り、突っ込む。


 オーガの動きに迷いが見えた。素早く反撃の構えを取るも、もう遅い。


「『地輪』」


 打刀に『地輪』を纏わせた俺は刀の強度を上げて、霊力を乗せ力を思い切り込める。


 オーガがその肉体に魔力を纏わせ刀を防ごうとするが、無駄だ。『地輪』で強化された以上その一撃は必殺。魔力の鎧も突破する。


 奴の上半身と下半身が真っ二つに別れ、剣閃が黄土色の軌跡を描いた。


 奴は地に伏せているものの、腕を使い起き上がろうとしている。上半身と下半身が泣き別れしてなお、まだ息があるようだ。なんたる生命力。これだから魔物は恐ろしい。


 しかし奴は死に体。トドメとしてオーガの首を叩き斬り、血が吹き出る。



 勝利の余韻に浸った。口角が意識せずとも、吊り上がった。




 頭は獲った。しかし時間がかかったせいでこのままでは、他の魔物を逃してしまう。ここは素早く追撃に移り、更なる殲滅を━━


 刹那。唐突に背後に気配を感じた。敵か? まずい。そう思ったのも束の間、まるで親猫が子猫を持ち上げるように、何者かに首元を掴まれ持ち上げられる。首を動かし後ろを見ると、見覚えのある人物がいた。


「郷長......?」


「坊主。目標は防衛であって敵の殲滅じゃねぇ。よくやった。深追いはするな。帰るぞ」


 そう言い放った山名が、手を離し、俺を地に下ろす。あまりにも唐突なことだったので、膝をつきそのまま倒れこみそうになった。


 彼は先に行く、と言い残して木々の間を通っていった。一瞬姿が見えなくなったと思ったら、彼の気配が()()()消えた。加えて、春とはいえあたりに桜の木など一本もないのに、なぜか桜の花びらが舞っている。


 もう一度彼の姿を探すが、どこにもいない。先ほどまでいた彼は幻影などではなく、本物だったはずだ。一体どうやって......


 まあいい。なんにせよ帰還命令が出たのは間違いない。そう自分を無理やり納得させた俺は、二刀を納め、郷への帰路についた。




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