新築の人に李のおすそ分け
<鑑賞文を書くのが苦手なので中村泰に句を借りて小説を書きました>
新築の人に李のおすそ分け
今日、実家から段ボールいっぱいの李が届いた。
こんなにあっても一人じゃ絶対に食べきれないので、引っ越して来たばかりの、まだ見ぬお隣りさんに分けに行くことにした。
ピンポーン
やや間があって、扉が開く。
「どちら様ですか?」
「お隣りの東川です。実家から李が届いたので。どうですか?あれっ、あなた、もしかして大学一緒じゃない?」
「言われてみれば見覚えがあるような…。御茶ノ中女子大ですか?」
「そうだよー‼文学部の3回生。」
「奇遇ですね、私も文学部です。1回生ですが。挨拶遅れてすみません。これからよろしくおねがいします、東川先輩。」
「こちらこそよろしくねー。稲庭ちゃん。」
「なんで名前知ってるんですか!?」
「表札見れば分かるよ。そういえば、引っ越しの片付け、もうできた?」
「いや、それが思ったより大変で…。エアコンも壊れてるみたいで正直、汗だくです…。」
忙しいときに訪問して迷惑だったかなと思った。
いわれてみれば稲庭ちゃん、結構汗だくでしんどそうだ。
「ここのアパート古いから、エアコン壊れてるのは仕方ないね…。うちで休憩していったらー?」
「え、でも申し訳ない。」
「いいっていいってー。先輩は暇なんだようー。」
「うーん。じゃあ、お言葉に甘えて。」
稲庭ちゃんを連れてうちに入る。
「お邪魔します。」
「好きなとこに座ってねー。さっきの李でも食べる?」
「ありがとうございます。いただくことにします。」
久しぶりに使う、来客用の綺麗な硝子の器を戸棚から出して李を転がすようにして入れる。
「はい、めしあがれー。」
「用意させてしまってごめんなさい。」
「いいのいいのー。本当に暇だったからー。」
「「では、いただきます。」」
2人の声が揃って、思わず目を見合わせて吹き出した。
「パクらないでよー。」
「パクってないです。」
と笑いながら言ったかと思うと稲庭ちゃんはがぶっと李にかじりついた。
「おー‼いい食べっぷりだねー。」
がぶっ
私もまけじとかじりつく。
ぴんっと張った皮が破れたかと思うと、甘酸っぱい懐かしいような香りがおのずと口いっぱいに広がる。
二人して、また目を見合わせる。
「「おいしい…‼」」
「あ、またパクられた。」
「だから、違いますって…。」
ふと、窓の外を見る。吸い込まれそうなほど青い空が広がっていた.。
なんとなく、この子とずっとこんな日々を過ごしていけたらたらいいなと思った。