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第77話 三度!訪ねた果てに!

「き、君は…コウメイ…さん?」


 先ほどまで接していた長身の青年・コウメイの道士服の中から現れたのは一際小柄な少女であった。


 目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つきに、少し頬が紅潮しているが、透き通るような白い肌、背は低く、とても華奢(きゃしゃ)体躯(たいく)の美少女だった。

挿絵(By みてみん)


「は、はい…コウメイです…


 リ、リュービさん…そ、その…手を離してもらえませんか…」


 コウメイに言われてふと自身の手を見ると、俺はまだ、彼女の小さいながらも柔らかな胸の(ふく)らみを掴んだままであった。


「あ、すまない」


 俺は慌ててコウメイから離れると、そのままコウメイはその場にへたりこみ、その勢いで今までコウメイと思っていた青年の頭が、下に落ちてガシャンと音を立てた。


「ガシャン?


 この頭作り物なのか?


 よく出来てるなぁ」


「コウメイちゃん!


 すごい音したけど大丈夫!


 ああ、バレちゃいましたか…」


 慌てて部屋に入ってきた茶髪のおさげの女生徒・コウゲツエイは、状況を一目見てすべてを察したようだ。


 コウメイは顔を赤らめながらコウゲツエイの後ろへと隠れてしまった。


「ゲ、ゲツエイちゃん…」


 彼女の影で縮こまるコウメイに代わって、コウゲツエイが話し始めた。


「この子は諸葛孔明(もろくず・こあ)


 通称、コウメイ。


 人見知りなので偽りの姿で応対しましたが、正真正銘、あなたの捜していた臥龍(がりゅう)、その人ですよ」


「そうでしたか…


 コウメイさん、人見知りと知らず無理に押し掛けて申し訳ない。


 しかも、その…あなたの体に触ってしまってなんと謝罪すればいいか…」


 俺は額を床にぶつける勢いでその場に土下座した。


「い、いえ、私こそ…(だま)していて…


 その…ごめんなさい」


 コウメイは顔を赤らめながら、頭をペコリと下げる。


「いえ、俺は君の姿を見に来たわけではありません。


 君の言葉を聞きに来ました。


 あの言葉はあなたの言葉であることに変わりはないのですから、(だま)してはいません。


 改めてお願いします。


 人見知りなら辛いかもしれないが、それでも俺には君が必要なんだ。


 俺の仲間になってくれませんか」


 俺は再びその場に頭を下げた。


 彼女がどんな姿であれ、俺が今必要とするものを持っていることに変わりはない。


 人見知りの少女相手に頼むのは心苦しいが、それでも出来るせめてもの誠意として、俺は彼女に頭を下げた。


 その様子を見たコウゲツエイは、後ろを振り返り、コウメイに話しかけた。


「コウちゃん、このリュービさんは、大人の男の姿でも恐れずに、子供の女の子の姿でも(あなど)らずに、容姿で態度を変えることもなく、あなたに三度の礼を示しました。


 この人なら信じてあげてもいいんじゃないですか?」


「うん…わかったよ。


 リュービさん、頭を上げてください。


 お話はわかりました。


 私はあなたの仲間になります」


「本当ですかコウメイさん!


 ありがとうございます!」


 俺は思わずコウメイの手を取った。


「リ、リュービさん…顔近いです…


 それとこれからは私が部下です。


 敬語はやめてください。


 後、コウメイと…呼んでください…」


 俺は慌ててコウメイの手を離した。


「あ、ああ、わかったよ。


 コウメイ、これからよろしく!」


「は、はい…!」


 こうして臥龍と言われた人見知りの少女・コウメイは俺の軍師となった。


「しかし、この青年の頭よくできてるな。


 これもコウメイが作ったの?」


「そ、それは…ゲツエイちゃんが…」


「私がコウメイちゃんのために作りました。


 発明家の光月英理(こうづき・えり)ことコウゲツエイです。


 長ければゲツエイとでもお呼びください。


 コウメイちゃんが行くなら私もリュービさんの陣営に加えてもらえませんか?」

挿絵(By みてみん)


「ああ、うちは大歓迎さ、よろしく!」


 そして、コウメイの友人、発明家のコウゲツエイを仲間に加え、俺は自分の教室へと戻っていった。


「兄さん、コウメイさんを仲間に迎えられておめでとうございます。


 …ところでコウメイさんは背の高い男性と聞いていたのですが…」


 俺はみんなに改めてコウメイを紹介したのだが、カンウの顔は微妙にひきつっていた。


「あのあの、コウメイと申します。


 みなさん、よろしくお願いします」


 コウメイはおどおどしながらもみんなに挨拶をする。


 その様子は小動物のようで、さすがにカンウも、これ以上コウメイを責める気にはならないようだ。


「まあ、いいですけどね。


 というか、ジョショさん知ってましたよね?」


 黒と緑二色の髪の女生徒・ジョショはふふふと笑いながら答えた。


「そりゃ、知ってたけど、本人が言いたくないことは言わないさ」


 カンウは落ち着いてくれたが、もう一人の義妹・チョーヒは、不満な様子でジーッとコウメイを睨み付けていた。


「アニキ…もしかして小さい方が好きなのだぜ?


 いや、アニキが小さい方が好きならオレも歓迎だけどさ、オレより小さいの連れてくることないんだぜ!」


「なに言い出すんだ、チョーヒ!


 別にそういうので選んでいるわけじゃないから!


 えー、ゴホン、とにかく、コウメイを我が陣営の軍師として迎える。


 みんな、仲良くしてくれ。


 コウメイ、何か我が軍を見て、気付くことはあるかい?」


 薄水色の髪の小さな少女・コウメイはまだ少し緊張しながらも答えてくれた。


「そ、そうですね。


 まず兵が少ないと思います。


 南校舎の生徒でもリュウヒョウ陣営に加わってない方も多くいるので、そういう方を調べて積極的に兵に登用していくべきだと思います」


「なるほど、確かにそうだな。


 よし、まずは兵を増やして部隊組織の改革から行っていこう」


 俺はついに念願の軍師・コウメイを得た。


 こうして、リュービ軍は新たな一歩を踏み出せた。




 東校舎・ソンサク改めチュー坊陣営~


 突然の盟主・ソンサクの脱落に混乱はあったものの、弟のチュー坊を新たな盟主とし、東校舎陣営もまた選挙戦を再開していた。


 長い金髪に、白い肌、西洋人形のような容姿のゴスロリ風の衣裳を身につけた女生徒・シュウユはハイヒールをツカツカと鳴らしながらチュー坊の前までやって来た。


「チュー坊様、コウソ配下のカンネーが我が軍への投降を希望しております。


 今こそ宿敵コウソを討つ時です」


 コウソは南校舎のリュウヒョウの部下で、東南の校舎を繋ぐ渡り廊下を守護する武将。


 ソンサクの代より何度も戦うが決定的な勝利は得られずにいたところ、彼の配下のカンネーがチュー坊陣営に投降したいという絶好の機会が訪れたのである。


「わかったシュウユ。


 姉さんの悲願を僕が引き継ぎ、これよりコウソ討伐を行う。


 みな出陣せよ」


 赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけ、小柄な少年のような男子生徒・チュー坊は、コウソ討伐の許可を出した。


 チュー坊の許可を得ると、シュウユはきびきびと部隊に指示を飛ばし、着々と準備を整えていった。


 チュー坊が総大将ではあったが、部隊の準備はほぼシュウユによって終えられ、彼は自分の準備のみ整え、待機させている部隊の元に向かった。


「おめでとう。


 コウソ討伐に行くんだってね。


 きっと成功間違いなしだよ」


 急ぐチュー坊を呼び止めたのは、頭からベールをかぶり、手に水晶玉を持った女生徒であった。


 彼女はゴハン、チュー坊陣営に所属し、占いを得意とする生徒である。


「ゴハン、それは占いの結果ですか?」


「まあ、そんなところだよ。


 今日は風向きがよくてね」


 ちなみに彼女は、風の流れで占う風気占いを得意としており、手に持った水晶玉は雰囲気作りのための飾りだそうだ。


「それは…ありがとうございます。


 でも、それを言う相手は僕じゃないですよ…」


 チュー坊は愛想笑いをすると、そのまま去っていった。


 去っていくチュー坊を見送りながら、ゴハンはポツリと呟いた。


「三匹目の龍、舞台に上がりながら未だ目覚めず、か…」


 しかし、彼女の独り言を聞くものは誰もいなかった。




 東校舎・渡り廊下前~


 集結する東校舎の兵士たちに、ゴスロリ風の衣裳の金髪美女・シュウユの言葉が飛ぶ。


「これより宿敵コウソ討伐を行います。


 全体の指揮はチュー坊様、前線の指揮はこの私・シュウユが()ります。


 トウシュウ、リョモウ、リョートー! 


 あなたたちが先鋒です!」


 シュウユに呼ばれ、三人の男女が返事をする。


「トウシュウ、リョートー、あなたたちは敵の正面を攻撃しなさい。


 ただし、カンネー軍とは無理に戦わなくてよいです。


 合図と共に我が軍に寝返る手筈となっています」


「はっ!」


「お任せください!」


 大小、二人の男子生徒がシュウユに返事をする。


「リョモウ、あなたは右翼のチンシュウ軍に当たりなさい」


「任せてよ!」


 続いてポニーテールの女生徒が返事する。


「では、みなさん出撃しなさい!」


「オー!」


 金髪美女・シュウユの出陣の命令に兵士たちは応じ、各々の持ち場へと急いだ。


 きびきびと動く兵士たちを見送りながら、小柄な少年のような男子生徒、名目上の指揮官・チュー坊は、事実上の指揮官・シュウユにこぼす。


「シュウユ、君が先鋒に任命したリョモウもリョートーも、まだ一年生で経験も乏しいが、大丈夫だろうか」


 先ほどシュウユが先鋒に任命したリョモウもリョートーもともに、チュー坊と同じ入学したての一年生だ。


 チュー坊陣営には、三年生も二年生も何人もいるにも関わらず、今回の人選はシュウユが意図的に行ったものであった。


 その真意をチュー坊はシュウユに(たず)ねた。


「リョモウ・リョートー、二人ともその勇猛さにおいては上級生にも引けを取りません。


 新入生ゆえの勢いもあります。


 それに経験不足ということなら、二年のトウシュウもいますから大丈夫ですよ」


「そうか」


 チュー坊の不安げな相槌(あいづち)に、シュウユはさらに話を続けた。


「新入生でもその能力に見合った活躍の場を与えるべきです。


 経験不足からくる不安は私たち上級生が支えれば何の問題もありません。


 チュー坊様も安心してその任務を(まっと)うしてください」


 一方、対コウソ戦の最前線では、チュー坊軍が果敢に敵に挑んでいた。


(ひる)むな!前進せい!」


 身長190cmの長身に、制服の上からでもわかる筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)体躯(たいく)、よく日に焼けた無精髭の大男・トウシュウが木刀を片手に兵士に向けて叫んでいた。


「机椅子をもっと持ってこい!


 バリケードを増築して遠距離から攻撃を加えろ!」


 大男・トウシュウを先頭に、攻め寄せるチュー坊軍相手に、コウソ軍指揮官・チョウセキは必死に指示を出し、防壁を盾に抵抗した。


「あんなチャチな防壁が俺たちに通用するものか!


 ものども俺に続け!」


 トウシュウが先陣をきって駆け出すと、手に持つ一振りの木刀で防壁を吹き飛ばした。


「我が断蒙刀(だんもうとう)の前には何の障害にもならんわ!


 さあ、この木刀の餌食(えじき)になりたい奴はどいつだ!」


「バリケードが突破されたか。


 撤退だ!撤退しろ!」


「逃がさねーよ!」


「ぐわっ!」


 我先にと逃げ出す敵指揮官・チョウセキを、小柄な少年が猛スピードで追いかけ、後ろから強烈な蹴りをくらわせて打ち倒した。


 長い髪を一つ結びにし、赤いハチマキをつけたその小柄な男子生徒は、同じく先鋒に任じられたリョートーであった。


 時同じくして、コウソ軍右翼の指揮官・チンシュウもリョモウに討伐された。

 

 立て続く前線の指揮官の敗北に、金髪にマントを羽織った男子生徒、この地を守る武将・コウソは苛立(いらだ)ちを隠せないでいた。


「チンシュウもチョウセキも討たれただと…


 後ろ備えのカンネーは何をしている!


 早くカンネーにチュー坊軍の侵攻を食い止めさせろ!」


 しかし、そのコウソの指示を遮るように、続報が副将の女生徒・ソヒよりもたらされる。


「大変です!コウソ様!


 そのカンネーが敵に寝返りました。


 カンネー・トウシュウ・リョートー・リョモー軍が一丸となってこちらに向かってきています!」


「なんだと!


 …カンネーめ!


 この私が拾ってやった恩を忘れおって…!」


「その恩を理由にこき使うからです。


 だから度々、カンネーを重く用いるようにと申し上げたのです」


「ソヒよ、今さらそんな過去のことを…」


「コウソがいたぞー!」


 コウソが言い終わるより先に、チュー坊軍兵士の


「敵はもうここまで来たのか!


 おいソヒ、逃げるぞ!」


「コウソ様、お待ち下さい!


 もう逃げ場なんてありません。


 ここは(いさぎよ)く投降しましょう」


「投降したければお前一人でしろ!


 私は逃げるぞ!」


 単身逃亡したコウソであったが、チュー坊軍の追走を受け、ついに兵士・フウソクによって捕らえられ、東校舎へ送られた。


 一方、投降した副将・ソヒは元同僚のカンネーの嘆願(たんがん)により(ゆる)され、釈放された。


 こうして、チュー坊はついに宿敵コウソを打ち倒したのであった。


 …しかし、一方でソウソウの南下計画は刻一刻と進行しているのであった。

次回は6月26日の20時頃に更新予定です

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