表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/223

第73話 帰還!奸雄ソウソウ!

 中央校舎・ソウソウ陣営~


 すでに生徒会室にはソウソウの腹心が集められていた。


 そこへ赤黒い髪と瞳を持ち、スラリとした体型に、胸元を大きく開け、へそ出しミニスカートの生徒会長・ソウソウが帰ってきた。


「すまない、戻るのが遅くなった。


 無事であったか」


 ソウソウは長らく対立関係にあった烏丸(うがん)高校に乗り込み、そこの番長トウトンを討ち倒し、烏丸(うがん)高校との和平を結び、学園に帰還した。


 だが、その帰還はとある事情により、予定より遅れることとなった。


「事前に伝えたが、私が遅れたのはカクカの件だ。


 帰還の途中、カクカが突然倒れた。


 そのまま病院に連れて行ったが、どうもよくない病気らしく、長期入院ということになりそうだ。


 当分、学園への復帰は叶いそうにない。


 残念だが、カクカは休学することとなった」


 ソウソウの口から、彼女の参謀で、この度の烏丸(うがん)高校遠征に同行していたカクカの入院が語られた。


 しかし、生徒会の面々は事前に倒れた(むね)を伝えられていたので、皆、取り乱すことなくその報告を聞いた。


「カクよ。


 お前はカクカに代わりこれより生徒会広報を務めよ」


 ソウソウより指名されたのは、セミロングの茶髪に、Tシャツ、黄色のパーカー、ショートパンツ姿の、首にヘッドフォンをかけた細身で背の低い少女・カクであった。


「はっ、わかりました」


 カクは、かつてサッカー部のチョウシュウに(つか)え、カントの戦いの直前にソウソウの臣下となった新参だが、その智謀による功績からの抜擢(ばってき)であった。


「カクカの智謀は群を抜いていた。


 そのために私は無理をさせ過ぎてしまった。


 生徒会執行部は多いのだから、役割をもう少し分散させるとしよう」


 そこへショートカットの黒髪に、鼻に小さな丸眼鏡をひっかけた小柄な少女・ソウソウの右腕にして生徒会副会長のジュンイクが声をあげる。


「ソウソウ会長、カクカの件はわかりました。


 それで、その肩に乗っているのは?」


 皆の視線がソウソウに集まる。


 彼女の肩には灰褐色(はいかっしょく)の毛並みに、(まだら)模様の一匹の小動物が乗っかっていた。


「見てわからぬか。


 猫だよ」


「いや、なぜ猫がいるのですか?」


「あれは道中での出来事だった…」


「その話長くなります?」


「短くするからまあ聞け。


 道中、我らの行く手にライオンのように大きな猪が現れて威嚇(いかく)してきた。


 あわや、というところで、突然、この山猫が現れてその猪の怒りを静めて追い返した。


 それ以降、この山猫は私に(なつ)いてついてきたのだ」


胡散臭(うさんくさ)い話ですね…


 それでその猫どうするんですか?」


(なつ)いてるのなら面倒みるのもいいかな。


 リョフのおかげで我が校はペット同伴可だしな(※第40話参照)。


 名前がいるな、ふくよかな顔してるから『狸』でどうだ?」


「なんで猫に狸なんですか!


 それにその猫、野性味(あふ)れてますけど、飼育して大丈夫ですか?」


 ジュンイクがその山猫に手を差し伸べようとした途端(とたん)、山猫は毛を逆立てて怒声を上げると、脱兎の如く棚の上に駆け登った。


「どうも私にしか(なつ)かんようでな。


 他の者は手も触れさせん。


 そうだ、あの山猫は影が消えるように速かったから、名を『絶影(ぜつえい)』としよう」


「飼うんですか、あんな狂暴なのに」


「私には甘えてくるからな。


 それより、ジュンイク、留守の件だが…


 リュービが動いたようだな」


 ソウソウの留守をついての、リュービによる生徒会室襲撃事件。


 生徒会室目前にしてリュービが撤退したので未遂に終わったが、中央校舎の一部は占領され、リュービの脅威を見せつけられる結果となった。


 その事について、ツンツンヘアーにアゴヒゲを生やした、左眼の黒い眼帯を着用する男子生徒・カコウトンが発言する。


「申し訳ない、ソウソウ。


 俺が任されていながらリュービの侵攻を許してしまった」


 カコウトンはソウソウ留守中の防衛を任せられ、対リュービ戦でも総指揮を()っていた。


「リュービはそこまで強くなっていたか…


 このまま見過ごすわけにはいないようだな」


 ソウソウの言葉にカコウトンが続ける。


「リュービは最早危険人物だ!


 このまま野放しにしておくべきではない!


 俺に一軍を預けてくれ。今のうちに叩き潰す!」


 カコウトンは怒りっぽいところもあるが、無思慮(むしりょ)な男ではない。


 ソウソウは、彼の言葉が怒りからではなく、責任感からくるものだとよく知っていたが、その言葉を押し止めた。


「いや、こちらからリュービと戦うということは、背後に控えるリュウヒョウとも戦うということだ。


 その戦力を考えれば、お前一人を行かすわけにはいかない。


 我がソウソウ軍は、全軍を上げてリュウヒョウ及びリュービを討伐する!」


 ソウソウによるリュウヒョウ及びリュービ討伐が決定した瞬間であった。


「ジュンイク、君はどのような方針で行けばよいと思うか?」


 ソウソウは早速、丸メガネの小柄な女生徒、参謀筆頭のジュンイクに意見を求めた。


「リュウヒョウは我らとの力の差をよくわかっております。


 正面から大軍で攻めて威圧を加え、軽装の部隊で側面より不意をつけば、リュウヒョウ軍は逃げ散ることでしょう」


「よし、ではそうしよう。


 エンショウの時以上の大軍を以てリュウヒョウ・リュービを討つ!


 ジュンイクには人員の選抜を任せる。


 それと次の事案だが…チリョ、報告を頼む」


 ソウソウに呼ばれ、前に進み出たのは、分厚いメガネに、おさげ髪の、一見地味そうな女生徒であった。


 彼女はチリョ、ジュンイクに推薦された人物の一人でその肩書きは生徒会長補佐。


 生徒会長補佐はソウソウが生徒会長になって新たに設けた役職である。


 会長補佐という名前だが、ジュンイクの就いている副会長が純粋に生徒会の業務を補佐するのに対し、会長補佐の本当の仕事は、他の生徒会メンバーへの“監視”であった。


「ソウソウ会長。


 この度の会長の烏丸(うがん)高校遠征に対し、事務長官・コウユウが批判的な言葉を言っておりました。


 (いわ)く、かつて他校と揉め、我が校の先輩・ソブが抑留(よくりゅう)された過去を忘れたのか、と」


「また奴か」


 生徒会三役(書記・会計・広報)の下に九つの長官がいる。


 ソウソウは三役までを自身の腹心で固めたが、独裁の批判をかわすため、その長官には先輩や元々ソウソウの部下でない者から多く選んでいた。


 ソウソウの会長就任式に参加した先輩のジョキュウや元西涼(せいりょう)高校生徒会長のバトウらが就任している。


 そしてその長官の一つ、事務長官には元環境委員長のコウユウを就けたが、彼は度々ソウソウへの批判を口にした。


「ソウソウ会長。


 コウユウの就いた事務長官は生徒会幹部です。


 彼は幹部として生徒会の活動に意見を述べたに過ぎません」


 ソウソウの怒りを察して、ジュンイクが発言した。


 ここでコウユウを処分すれば、またソウソウへ独裁の非難がいくことになる、そう考えての発言であった。


「ジュンイク、事務長官の仕事は学園の備品管理であって、私の行いに意見を述べることではない。


 それに意見なら私が行く前に述べるべきで、行った後に言うのはただの文句だ」


(おっしゃ)る通りです…


 しかし、コウユウ先輩の名声は学園中に(とどろ)いており、処分すれば、ソウソウ会長が非難されるのは必定です」


「奴はそれを見越して好き勝手言ってるのだ。このまま放置はできん。


 ならば、コウユウを顧問官(こもんかん)に降格させよう。


 顧問官(こもんかん)は私に意見を述べるのが仕事だが、特に具体的な権限を持たない。


 喋りたがり屋のコウユウにちょうど良い。


 ジュンイク、私の譲歩はここまでだ」


「わかりました」


「ところでジュンイク、空席となった事務長官だが、誰か適任はいないか?」


「そうですね…


 それならコーキはどうでしょうか?


 彼はまだ二年生ですが、後漢(ごかん)学園創成期に活躍したコーエン先輩の一族で、この一族は何人も後漢(ごかん)学園の卒業生を輩出してきました。


 そのためコーキは三年生とも活発な交流を行っております」


「三年生に顔の利く二年生か…


 良いだろう、そのコーキを長官とする」


「直接お会いせず決定してよろしいのですか?」


「ジュンイク、君の推薦だ。


 信頼しているよ」


「わかりました。


 コーキには私の方から伝えておきます。


 それとソウソウ会長、東校舎のソンサクが刺客(しかく)の凶刃に倒れ、入院しているそうです」


 続いてジュンイクが伝えたのは、先日のソンサク入院の件であった。


 東校舎の盟主・ソンサクへの襲撃は突然の出来事であった。


 そのため、学園内には、ソンサクが処分した道士・ウキツの呪いだの、部下に襲われただの、不確かな噂が飛び交い、未だ事実がはっきりとはしていなかった。


 しかし、ソウソウ陣営は独自の情報ルートから、彼女がキョコウの元配下に襲撃され、長期入院となったという、かなり正確な情報を入手していた。


「そうか、とりあえずソンサク軍はすぐに動けないと言うことだ。


 ますますリュウヒョウに全力を注げるな。


 一応、ソンサク陣営には正式に使者を送り、その様子を(うかが)わせよう。


 私の情報ルートがどのくらい正確なのかも確かめたい」




 市内・病院~


 近隣でも特に大きな病院の一室に、赤黒い瞳と髪の女生徒・ソウソウが入ってきた。


「カクカよ、具合はどうだ?」


 そのベッドには、茶髪にいつものポニーテールをほどき、ツリ目、モデルのようなスラリとした体型の、美男子のような容姿の女生徒・カクカが横たわっていた。

挿絵(By みてみん)


「ソウソウ会長!


 すみません、このような大事な時にこんな状態になってしまって」


「カクカよ、気にするな。


 むしろ私がお前に無理をさせ過ぎてしまった。謝るのは私の方だ」


「いえ、これも私の体調管理が未熟だったせいです」


「カクカ、そう言うな。


 病気は誰でもなり得るものだ。


 まあ、チングンは普段の不摂生(ふせっせい)(たた)ったのだと(なげ)いていたがな」


「ふふふ、チングンは真面目ですからね。


 よく私の女遊びを批判してましたし」


 カクカはソウソウとしばらく談笑をすると、改まってソウソウに向かって言った。


「ソウソウ会長、ソンサクの件聞きました。


 刺客(しかく)に襲われて重傷を負ったとか…


 恐らく、その刺客(しかく)は、前回の選挙戦の終盤に私が(あお)った者の一人でしょう。


 制御しきれず、このような事態を招いたのは私の失態です」


「今回はその男の暴走だ。


 カクカ、お前がそこまで気に病むことはない」


「いえ、始まりは私です。


 やはり計略というのは劇薬です。やり過ぎれば毒にもなります。


 ソウソウ会長もお気をつけください。


 過ぎればその身を滅ぼします」


「わかった…覚えておこう。


 だが、お前はあまり気にせず、今は病を治す事に専念してくれ」

次回は29日土曜に更新予定です。

それと本編とは別に来週中に三国志解説を更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ