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第67話 決闘!カンウ対コーチュー!

 リュウバンに呼ばれ、俺たちの前に長い銀髪を三つ編みに結び、カンフー風の道着を身に(まと)い、大人びた容姿に背の高い女生徒が現れた。


「わしはリュウバン隊副隊長・黄野忠実(こうの・ただみ)


 またの名をコーチュー!


 次はわしが相手になろう」

挿絵(By みてみん)


 コーチューと名乗る銀髪のカンフー衣裳の女生徒は、腕を組み、仁王立(におうだ)ちで俺たちの前に現れた。


「はっはっは。


 こいつが我がリュウバン隊が(ほこ)る切り札・コーチューだ!


 武勇ならカンウ・チョーヒにも決して引けを取らないだろう」


 まだ地面にうずくまったままだが、得意気な様子でリュウバンはコーチューを紹介する。


「アニキ…ヤベーぜ、この女…」


 チョーヒが(かす)かに震えている。


 無理もない、俺でさえ彼女がタダ者ではないことが伝わってくる。


 おそらく武芸の達人であるチョーヒはより彼女の実力が伝わっているのだろう…


「この女…カン姉並みのデカチチだぜ!」


「…チョーヒ、そういうこと大声で言わない」


「デカチチ女は倒さねーといけないんだぜ…」


 チョーヒに別のスイッチが入りそうになっている。止めないとまずいか。


「落ち着きなさい、チョーヒ」


「うわ、カン姉!」


 暴走しかけたチョーヒを止めたのは、チョーヒの義姉、俺の義妹、美しく長い黒髪の美少女・カンウであった。


「ここは私が相手をします。


 チョーヒ、あなたは頭に血が上っています。


 それにあなたは先ほど手合わせしているのですから、次は私にやらせてください」


「ちぇー、まあ、カン姉がそういうなら譲ってやるんだぜ」


 カンウ-俺とチョーヒと義兄妹の誓いをかわし、チョーヒと並ぶ我がリュービ軍の二枚看板だ。


 その武勇は学園でもトップクラスで、トータク軍のカユウ、元リョフ軍で、今はソウソウ軍のチョーリョー、エンショウ軍のガンリョウと、多くの敵主力武将を討ち果たしてきた。


「私は関羽美(せき・うみ)、またの名をカンウ!


 コーチュー、私が相手です」


「ほお、音に聞こえたカンウと手合わせできるとは女冥利(おんなみょうり)に尽きるってもんだな。


 さぁ、では行かせてもらうぞ!」


「カン姉、やっつけちまえ!」


 先に動いたのはコーチューだった。


 彼女は一気にカンウまで間合いを詰めると、無数の蹴り技を繰り出した。


 そのあまりの速業に俺なんかは目で追うのがやっとだが、カンウはその全てを防いでみせた。


 コーチューの蹴りが一種止まったその瞬間、カンウは一気に近付き、投げの体勢に持ち込もうとする。


 しかし、コーチューはカンウの手をすぐに払い退()け、すぐに距離をとって身構えた。


「やりますね」


「まだまだこれからよ!」


 カンウはコーチューが放つ無数の拳を(さば)きつつ、自らも攻撃を加え、互いに相手の(すき)(うかが)う一進一退の攻防が続いた。


「凄いんだぜ!


 あのコーチューってやつ、カン姉と互角にやりあってやがる」


「うん、カンウが投げ技を防がれてるところなんて初めて見た」


「カン姉は打撃技も不得手(ふえて)じゃないけど、好んでは使わないんだぜ。


 大体は最初の投げ技で決着がつくし…」


 打撃技で相手をねじ伏せるチョーヒに対して、カンウはいつもあっさりと相手を投げ飛ばして勝つイメージだ。


 しかし、コーチューは素早く突きや蹴りを繰り出し、カンウに投げる技に持ち込む(すき)を与えようとしない。


 だが、その状況が一瞬崩れた。


「クッ…防ぎきれんか」


 連撃を放つコーチューのわずかな(すき)をついて、打撃技をねじ込んでいくカンウの前に、ついにコーチューの動きが(にぶ)りだした。


「負けるわけには…いかん!」


 コーチューは足を真上に振り上げると、渾身(こんしん)の蹴りをカンウに放つ。その振り下ろされる間は俺から見れば一瞬だが、カンウが()けるには充分な一瞬だった。


 カンウは瞬時にコーチューの側面に現れると、そのまま足払いでコーチューを倒す。


 コーチューは倒れながらも執拗(しつよう)に突きを放つが、その攻撃はカンウに防がれ、彼女はそのまま床に倒れ込んだ。


「まだだ!」


 すぐ立ち上がろうとしたコーチューだったが、仁王立(におうだ)ちしたカンウが一睨(ひとにら)みでコーチューの動きを押さえつけ、ついにコーチューは観念して白旗を上げた。


「おお、カンウが勝ったぞ!」


「やったんだぜカン姉!」


「ふぅ…コーチューさん、あなたはなかなか強敵でした」


「わしもカンウ殿ほどの猛者(もさ)は初めてだ」


 戦いに敗れたコーチューにリュウバンが近寄り声をかける。


「まさか、コーチューまで敗れるとはな。


 いや、天下のカンウ相手にあそこまで善戦したのだから誇るべきか」


「すまんなリュウバンの大将。


 カンウの実力は、前に戦ったソンサクのとこのタイシジに匹敵するかそれ以上…


 まさに天下に名が(とどろ)くに(あたい)する腕であったわ、かっかっか!」


 その言葉にリュウバンは少し思案に入る。


「やはりリュービ軍、その名は決して虚名(きょめい)ではないな…よし!」


 リュウバンは何やら決断したのか、俺の元にやってきた。


「リュービ、君に頼みたいことがある」


「何ですか、リュウバンさん、そんなに改まって」


「弟を…リュウホウを君の部隊で預かってくれないか」


「え、それは構いませんが…


 なぜ俺たちのところに?」


「我が隊にいては、やはり兄の贔屓目(ひいきめ)で甘く扱ってしまう恐れがある。


 だが、弟・リュウホウには多くの経験を積んでもらいたいと思っているのだ。


 その点、君たちリュービ軍には一騎当千の猛者(もさ)たちがそろっているし、選挙戦が始まれば対ソウソウ戦の最前線に立つことになる。


 これほど経験が積めるところは他にない」


「なるほど、わかりました。


 では、リュウホウ君を我が隊で預かります」


「引き受けてくれるか、ありがたい。


 リュウホウ、今日からお前はリュービ軍の一員だ!」


 リュウバンに呼ばれ、リュウホウがこちらにやってくる。


「は、はい。


 リ、リュービさん、よろしくお願いします」


 リュウホウも事前にその予定を聞かされていたのか、すでに了承している様子だ。


「よろしく、リュウホウ君」




 南校舎・書庫~


 薄暗いこの一室で、色黒の男子生徒・チョーインが、長身スーツ姿の男子生徒、リュウヒョウの副将・サイボウに報告を行っていた。


「サイボウさん、リュウバンが弟をリュービに預けたそうです」


「何?あのガサツ男がそこまで入れ込んでいるのか…


 リュービ、思った以上に危険な男かもしれんな。


 チョーイン、他に我が陣営の者でリュービに近付いている者はいるか」


「他ですと、ゴキョ、リゲン、カクシュン、イセキ、ライキョウ辺りが何度かリュービと接触しております。


 どの程度親しくしているかまではわかりません」


「そうか、うーむ、文科系、体育会系区別なく接触しているな。


 それにリュウバンやゴキョやリゲンの様に部隊を預かる者がリュービと親しくするのはまずいな。


 結託(けったく)されると南校舎のパワーバランスが崩れかねない」


 イセキやライキョウは文科系の学生として名のある者たちだ。


 そしてリュウバン他、ゴキョ・リゲン・カクシュンは防衛隊や遊撃隊の指揮官の務めている。


 部隊指揮官は名目上では全てサイボウの指揮下にあるが、厳格に管理できているわけではない。


 彼らがリュービを中心にまとまり、今後の選挙戦で発言されると、サイボウではそれを退(しりぞ)けるだけの力はない。


 さらにリュウヒョウが彼らの意見を支持すればサイボウの地位さえ危うくなりかねない。


「それとサイボウさん、リュウヒョウ部長の弟・リュウキが何度かリュービのところを出入りしているそうです」


「何だと!」


 リュービは実績はあれど所詮(しょせん)はよそ者。


 南校舎の生徒で彼と親しくする者はいても従う者はいない。


 だが、リュウキは実績はなくともリュウヒョウ部長の弟だ。南校舎の生徒が彼に従う可能性はある。


 そしてリュウヒョウは今年三年生、次期部長を継ぐ者をそのうち考えなければならない。


 イトコのリュウバンも三年生だから候補から外れる。


 そうなると有力候補は弟のリュウキとリュウソウの二人、リュウキがリュービと手を組むのならリュウキ派、リュウソウ派で南校舎が真っ二つに別れることもありうる。


「まさかリュービ、我が南校舎を乗っ取る気ではないのか…このままではまずい。


 親リュービ派を排除せねばならん!」




 中央校舎・ソウソウ陣営~


 赤黒い瞳と髪を持ち、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート姿の生徒会長・ソウソウは、他の生徒会執行部の面々と会議を開いていた。


「うーむ、烏丸(うがん)高校が度々わが校生徒にちょっかいをかけてる件は早めに解決した方がいいな。


 いっそ生徒会が直接乗り込むか」


 今や生徒会長となったソウソウの頭を悩ませるのは学園内の問題ばかりではない。


 近隣高校と友好関係を築くのも彼女の仕事である。


 しかし、友好的な高校ばかりではない。最近では、北にある烏丸(うがん)高校との関係がかなり悪化していた。


 その関係を力技で解決しようとするソウソウを、丸眼鏡をかけた小柄な女生徒、長らくソウソウの片腕を務めた副会長・ジュンイクがたしなめる。


「直接乗り込むのは危険ではないですか。


 しかも間もなく“アレ”を始めようというタイミングで」


「ふふ、それでやつらの出方を見るのも面白いかろう」


「またそうやって遊び事のように言われる」


 冗談とも本気ともつかないことを言って周りを困らせるのはソウソウのよく使う手だ。


 ジュンイクも何度もこの手に振り回されてきた。


 そこへ男装の女生徒・ソウソウの参謀にして生徒会広報を務めるカクカが入ってくる。


「ソウソウ会長、ショーヨーたちが戻ってきました」


「そうか、戻ったか」


 ソウソウの前に現れたのは、銀髪に色黒の肌、メガネをかけた着物姿の女生徒、生徒会の一人・ショーヨーであった。

 

「ソウソウ会長、ショーヨーほか、ただいま戻りましたよぉ」


「ショーヨー、長期間の任務ご苦労であった。


 向こうの様子はどうであったか?」


「我らはよそ者ですからねぇ、露骨に敵対行動を取ってくる者も少なくありませんでしたよぉ。


 詳しくはチョウキからお聞きくださいませ。


 チョウキ、こちらに」


「は、はい!


 はじめまして、チョウキと申します」


 ショーヨーに(うなが)されて挨拶(あいさつ)したのは、細身で、ショートの黒髪の、地味な印象を与える女生徒・チョウキであった。


 彼女の緊張を感じ取ったソウソウは優しく声をかけた。


「そう(かしこ)まらなくていい。


 君の活躍はよく聞いている。


 今回の交渉をまとめたのはチョウキ、君だそうだな」


 ソウソウのその言葉に反応し、横にいたショーヨーもチョウキを称賛した。


「今回の交渉、チョウキでなければ彼も首を縦にはふらなかったでしょう」


「い、いえ、私は何もしていません。


 ただ誠心誠意話をしただけです」


 生徒会長と生徒会重役の称賛の声に挟まれて、チョウキはただただ恐縮(きょうしゅく)しきりであった。


「ふふふ、そう卑下(ひげ)することはない。


 誠心誠意言葉を尽くして相手の心を開かせる。


 私にはできない芸当だ」


「ソ、ソウソウ会長、わ、私には勿体ないお言葉です」


「ふふ…それでは早速、“彼”に会おうじゃないか。


 来ているのだろう?この学園に」


「はーい、今お連れしますぅ」


 ソウソウに言われ、ショーヨーが連れてきたのは、大柄で、()りの深い顔立ちの男子生徒であった。


「お初にお目にかかります、ソウソウ生徒会長」


 ソウソウの前に現れた彼は、(かしこ)まった様子で、その長身の頭を深々と下げ、一礼した。


「おお、よく来てくれた。


 西涼(せいりょう)高校生徒会長・“バトウ”よ」




 春、俺たちは来るべき生徒会選挙に向けて動き出し始めた。


 しかし、戦乱の始まりの時はすぐそこまで迫ってきていた。

次回更新は4月17日20時頃の予定です

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