第66話 新将!カンペーとリュウホウ!
「うーん、結局、新入生はどうやって集めていくかな。
新入生に知り合いはいないし、直接、声をかけていくしかないのか」
ソウソウに新入生集めなら今からできると言われ、ソンサクのもとの訪ねたが、結局、俺はまだ集め方がよくわからないでいた。
仲間にも聞いてみたが、今年、弟妹や知り合いが入学するあてはないようだ。
今こうして先生に呼び出されたチョーヒを待っている最中にもそのことばかり考えてしまう。
「そういえば西北校舎の工事はもう終わってるんだっけ?」
ふと、目をやると西北の新校舎が北校舎の奥に見えた。
「春休み中に終わらせると聞いていましたが」
俺の何気ない問いかけに長く美しい黒髪の義妹・カンウが答える。
ここ後漢学園は大きく北部と南部に別れる。
北部中央には、東西に長い中央校舎があり、そのさらに北に同じく東西に長い北校舎ある。
南部には、南北に長い東・南・西校舎が順に川の字のように並び、そのさらに南に東西に長い第二南校舎が建っている。
今回の工事では、北校舎の西、中央校舎の北西に、新たに西北校舎が建てられたという話だ。
「新しい校舎が建つと言うことは、今年度はそれだけ生徒が増えているということか。
なんとか味方を増やしたいところだ」
「大丈夫ですよ、兄さん。
頑張って一緒に増やして行きましょう」
「お姉様~!」
どこからともなく、俺の聞き覚えのない黄色い声が響いてきた。
「この声は…」
なにやら心当たりがあるのか、カンウの表情がみるみる曇り出した。
「やっと見つけましたわ!お姉様!」
「あなたは!」
突然、現れた女の子は、カンウに抱きつこうとして、さらりとかわされてしまった。
現れたのは、カンウより少し短めの長い黒髪に、緑色のリボンをつけ、少し小柄な女生徒だった。
俺はこの子についてカンウに尋ねた。
「カンウ、知り合いかい?」
「えーと、兄さん、この子は…」
「兄さん?
あなたね!
私のお姉様をタブらかして兄妹プレイを楽しんでいるという不届き者のリュービというのは!」
「な、何を言い出すのですか、あなたは!」
カンウの義兄である俺につかみかからんばかりの態度の緑色のリボンの女生徒を、カンウが必死に取り押さえる。
「カンウお姉様!
私は中学の時からあなたの妹にしてくださいとお願いしても、全然、お認めくださらなかったのに、こんな男の妹になるなんて…」
「あなたの妹にしてくださいは、もう一つ重い感じがするんですよ…」
今にも泣き出さんばかりの緑色のリボンの女生徒に、カンウは困り果てた顔で返す。
「えーと、君はカンウの後輩かな?」
このままでは話が進まんので、とりあえず名を聞いておこう。
「申し遅れました。
私、カンウお姉様の妹、関平和、通称カンペーと申します」
「嘘はやめなさい。
あなたの名字は関本でしょう。
関本平和がこの子の名前です。
私の後輩ですが、妹や親戚ではありません」
「漢字一文字なんて大した問題ではありません。
私もお姉様と同じ名字が良いんです!」
「ご先祖様に謝りなさい!」
緑色のリボンの女生徒もとい、カンペーはまた隙をみてはカンウに抱きつこうとし、軽くいなされている。
とりあえず、カンウを慕う赤の他人というのとか。
そこへ遅れてもう一人の義妹・チョーヒが現れた。
「アニキ、カン姉、お待たせ…
げ、お前はカンペー!」
カンペーの顔を見るなりギョッと驚くチョーヒ。
そうか、カンウの後輩ならチョーヒとも面識があるのか。
「チョーヒ先輩!
私のいない間にちゃっかりカンウお姉様と姉妹の誓いをするなんて許せません!」
「ああ、面倒なのに会った…」
「お姉様!私とも姉妹の誓いをしていただけるまで離れません!」
「全く、あなたという子は…」
まさか、学園きっての豪傑・カンウ、チョーヒの二人を困らせる女生徒がいようとは…
「まあまあ、カンウ。
どうだろうか、カンペーも加えて四兄妹にしてもいいんじゃないか?」
「あ、いえ、結構です。
私はカンウお姉様の妹になりたいのであって、別にリュービさんやチョーヒ先輩と兄妹になりたくはありませんので」
俺のよかれと思って出した提案は、なぜかカンペーによってあっさり断られてしまった。
「すみません兄さん、こういう子なんですよ」
「私はお姉様とだけ姉妹であればそれで良いんです」
純粋で暴力的な瞳で見つめられ、ついにカンウも根負けしてしまった。
「はぁ…わかりました。
その代わり、私たち三兄妹のことについてはとやかく言わないこと、リュービ兄さんとチョーヒにも敬意を払うこと、この二つを守るならあなたを義妹として認めます」
「本当ですの!わかりましたわ!
リュービ先輩、チョーヒ先輩、これからよろしくお願いしますね!」
カンウの義妹に認められたカンペーは、先ほどの態度が嘘のように礼儀正しく俺たちに一礼した。
「うーん、とりあえず後輩一人加わってくれたのかな」
形はどうあれ、新入生が俺たちリュービ陣営に加わってくれたんだ。喜ばしいことだ。形はどうあれ…
しかし、部室に戻ると、さっそくカンペーがトラブルを起こした。
「お前、何、カンウの姐御にベタベタしてやがる!」
「姐御?
あなたはカンウお姉様のなんなんですの!」
「俺はカンウの姐御の一番弟子・シューソーだ!」
カウボーイハットをかぶった、ツンツン頭の小柄な男子生徒、カンウの弟子を自称するシューソーは、そう大見得をきってカンペーに名乗った。
「なんだ、ただの弟子ですか。
私はカンウお姉様の実妹・カンペーですよ。
弟子なら姉妹の仲を邪魔しないでください」
シューソーとカンペー、ともにカンウを慕ってやって来た者たちだが、別に仲良くなれるわけではないようだ。
罵りあいを続ける二人に、カンウが仲裁に入る。
「二人とも喧嘩はやめなさい。
それとカンペー、しれっと実妹にならないでください」
「うーん、この調子で大丈夫かな…」
「おう、どうしたリュービ。
浮かない顔してよ」
そんな俺に声をかけてくれたのは、無精髭を生やした強面の男子生徒・リュウバンであった。
「リュービ、邪魔させてもらっとるぞ」
「よくお越しくださいました、リュウバンさん。
実は仲間同士仲良くやっていけるかと思いまして…」
「はっはっは、そんな事か。
まあ、この時期は新入生もくるからそういう問題も起こるわな。
だが、仲間なんてのは同じ釜の飯食って、一緒にいれば仲良くなるもんさ、はっはっは」
リュウバンは大した問題じゃないとばかりに豪快に笑い飛ばした。
「おう、そうだ、今日はこいつを紹介しておこうと思ってきたのだ。
おい、入ってこい」
リュウバンに呼ばれやってきたのは、細身に、木訥な雰囲気の、地味な男子生徒であった。
「こいつは俺の弟のリュウホウだ。
春からここの高校生になった。
まあ、一つよろしく頼む」
「お、弟の立牧封太、リ、リュウホウと申します!
あ、あの、よ、よろしくお願いします!」
兄リュウバンに促され、おどおどした様子で弟リュウホウが挨拶をする。
豪快な兄に気弱な弟と、正反対な印象の二人だな。
「弟は腕はまあまあ立つんだが、どうも気が弱くてな。
リュービ、少しこいつに稽古をつけてやってくれないか?」
「え、俺ですか?
俺は弱いですよ、やるならカンウやチョーヒの方が…」
まさか、俺が指名されるとは思わなかった。
確かにカンウやチョーヒに特訓に付き合ってもらって、多少なりとも強くなったとは思うが、まだまだ二人の足元にも及ばない。
「はっはっは、リュービ、君ほどの歴戦の将が弱いわけないだろう。
それにいくら腕に覚えがあっても、学園随一の猛将カンウ・チョーヒといきなりやらせるのはさすがに怖いしな」
確かにそうか。
俺の義妹カンウ・チョーヒは学園でも有数の強さを誇り、チョーウンも二人に負けずとも劣らない実力者だが、試しに戦ってみるような相手ではない。
他の仲間だとリューヘキや黄巾党の連中も荒っぽくて手加減してくるるようなタイプではない。
シューソーとカンペーは今取り込み中だし、ビジクとその妹ビホウやソンカンは俺の有能な補佐官だが、荒事向きではない。
リョフやコウソンサンやカコウリンらは一応今は非戦闘員枠だし、カンヨーは…まあ、どうでもいいか。
となると、適当なのは俺ぐらいか。
「わかりました、そういうことならお相手します」
俺たちは稽古のために体育館に移動した。
「へー、アニキがリュウバンの弟と仕合か。
アニキー!頑張れー!」
「兄さん、日頃の特訓の成果を見せてください」
妹たちが応援してくれている手前、俺も無様なところは見せられないか。
頼りなく見えるかもしれないが、こう見えて俺はこのリュービ軍の長、指揮官として前線に立ち続け、トータク・エンショウ・エンジュツ・リョフ・そしてソウソウと、長い戦いを繰り広げてきた。
その間には危なかったことも一度や二度じゃない。それなりに鍛えられているはずだ。
「い、行きます!リュービさん!」
「来い!リュウホウ!」
先に動いたのはリュウホウだった。
即座に俺との距離を詰めると、そのまま殴りかかってきた。
しかし、彼の拳は空を切った。
リュウホウの攻撃をかわした俺は、側面よりリュウホウに接近し、彼に当て身を一発、リュウホウが体勢を崩したのを確認して、勢いそのまま彼を投げ飛ばした。
「そこまで!勝者リュービ!」
審判を務めるリュウバンの声が響く。
「さすが、リュービだ。強いな」
「いやぁ、カンウやチョーヒとの特訓が活かせたようです。
でも、リュウホウ君もいい動きしてたよ」
「あ、ありがとうございます、リュービさん」
俺はリュウホウに手をさしのべて、倒れている彼を起こした。
「さすが音に聞こえたリュービ軍の総大将。
どうだ、次は俺とやってみんか?」
今度はリュウバンが俺との勝負を望んできた。
うーん、リュウバンと俺とでは体格差が結構あるしなぁ。
俺が迷ってると、チョーヒが話に割り込んできた。
「おいおい、アニキばかりと遊ぶんじゃないぜ。
次はオレが相手してやるんだぜ!」
「ほぉ、チョーヒか、いいだろう。
相手がチョーヒとなればこちらも全力で行かしてもらおう。
学園一とも言われるその武勇、見せてもらおうか」
二回戦は、お団子ヘアーの義妹・チョーヒと強面の先輩・リュウバンの試合となった。
チョーヒ-俺と義兄妹の誓いをかわし、ともに戦ってきた我がリュービ軍の主力武将だ。
小さい体ながら怪力無双で、特に一騎討ちでは無類の強さを見せる。
しかし、チョーヒは高校生の中でもかなり小柄な女の子、対してリュウバンはかなり大柄でがたいのいい男性だ。
端から見ると子供と大人、小学生とプロレスラーほどの体格差がある。
「行くぜリュウバン!」
「来い!チョーヒ!」
「どっせい!」
勝負は一瞬でついた。
チョーヒの一撃を真正面から受け止めたリュウバンは、体育館の壁を突き破り、そのまま後方の林まで吹き飛ばされた。
「す、すまん、リュウバン。
力加減間違えたぜ!」
俺たちが林まで駆け寄ると、茂みをかけ分けて、リュウバンが這い出してきた。
良かった、生きてた。
「い…いや…鍛え方が足りなかったのは俺だ…
しかし、二敗のまま終わるわけにはいかん。
悪いがもう一戦付き合ってもらうぞ。
こちらは俺の切り札を出させてもらおう。
コーチュー、出番だ!」
リュウバンの声に応じて現れたのは、長い銀髪を三つ編みに結び、カンフー風の道着を身に纏い、大人びた容姿に背の高い女生徒であった。
「わしはリュウバン隊副隊長・黄野忠実。
またの名をコーチュー!」
次回更新は4月10日20時頃の予定




