第7話 訪問!後漢学園の英傑達!
「コウソンサン先輩か、そういえば入学してからまだ会ってなかったな」
俺達は悪漢・トータクに対抗するため、各々で仲間集めに奔走することとなった。
俺の担当は中学時代の先輩・コウソンサン。先輩が部長を務める馬術部に向かっていた。
「どんな人なんだ?コウソンサン先輩って?」
チョーヒが歳不相応のあどけない表情で俺の顔を覗きこんでくる。
「うーん、昔から俺のことをよく気にかけてくれて、色々お世話になった人なんだけどね。
ただ、体育会系で強引なところがあって、ちょっと苦手なんだよね」
「でも学園のためですから、なんとか口説いて味方にしないと!」
カンウの言うとおりだ。一人でも協力者は欲しいし、それに先輩は後輩思いの頼りになる人だ。味方になってくれれば心強い。
「リュービ!リュービじゃないか!」
彼方からよく通る声で、俺の名が聞こえたかと思うと電光石火の速さで人影が俺めがけて突っ込んできた。
もちろん、回避なんてできるはずもなく、俺はそのまま人影に捕縛された。
「コ、コウソンサン…先輩…苦しいです」
「悪い悪い。いやーなかなか会いに来てくれないからお姉ちゃん寂しかったぞ」
マッハの速度で抱きついてきたこの女生徒こそ、俺の中学時代の先輩・公孫珊瑚。通称コウソンサンだ。
少し長めのおかっぱ…ボブカットというべきか、に少し太めの眉とタレ目気味の目。
背は伸びてるが、雰囲気は中学時代のままだ…が、胸部が格段にパワーアップされてる!
この人には中学時代からよく抱きつかれたが、破壊力が段違いだ。もはやこれは凶器…
「ふーん、コウソンサンって女の人だったんですね…」
「アニキのスケベ!」
二人の冷ややかな目が刺さる。
「カンウ、チョーヒ!違うんだ!別にそんなやましい関係じゃないんだ!」
やましいことを考えた後でこの言葉にどれだけの説得力があるのだろうか。もはや、言い訳以外の何物でもないが、俺だってここまでのパワーアップは予想外だったんだ、信じてくれ。
俺の追い込まれた様子を察したのか、コウソンサン先輩がカンウ・チョーヒに向き直った。
「君達がカンウ・チョーヒだね。君達三兄妹の話は聞いてるよ。リュービの妹なら私の妹だ。
さあ、お姉ちゃんの胸に飛び込んでくるといいさ」
両手を広げ、慈母のような面持ちで受け入れ体勢の先輩。そうだね、この人はどこまでもマイペースな人だった。
「確かにこの人は…」
「なかなか手強い先輩みたいだぜ…」
思ってたのと違うが、カンウ・チョーヒは先輩のマイペースさに屈したようだ。
「本当に久しぶりだね、リュービ。私もリュービに会いに行きたかったんだけどさ、部長の仕事が忙しくてね。
でももう大丈夫。部活辞めてきたから!」
「え、先輩、部活辞めたんですか?」
突然の話に驚く。確か、先輩って大会とかにも出てなかったか?それなのに辞めちゃったのか?
「ああ…」
コウソンサン先輩は少し眼を潤ませながら語ってくれた。
「馬術部にトータクの仲間でリカク・カクシってのが入ってきてね、初めは一緒に練習してたんだけど、次第に不良グループの溜まり場にされちゃってさ。
昔からの部員も次々辞めちゃうし、私の手には負えなくなっちゃって辞めたのさ」
ここにもトータクの手が及んでいたのか。
「先輩、実はソウソウから反トータク連合を結成しようと檄文を預かってきました。
一緒にトータクを追い出しませんか」
先輩だって退部は望んでないはず。トータクを倒せば復帰もできるだろう。
「リュービ、たくましくなって。お姉ちゃん嬉しいよー」
「って、なんでいちいち抱きつくんですか!」
俺はコウソンサン先輩の強化装甲に屈し、なすがままに抱き締められる道を選んだ。
「ふー、久しぶりにリュービに会えて満足だったよ。
さて、話はわかった。私も一緒に戦うよ。馬術部で辞めちゃった子が他にもいるからお姉ちゃん、皆に声かけてくるね。
じゃあ、リュービ、また会おうねー」
俺をひとしきり抱き締めて満足したのか、先輩は帰っていった。
やれやれ、やっと解放された…と、言いたいところだが、後ろからのカンウ・チョーヒの視線が痛い。こちらはまだ解放されそうにないな…
これではダメだ。せっかく長兄となったんだからもっとしっかりしなければ…
しかし、あっさり話がついた。名簿をあるし、他もあたってみようか。
カンウやチョーヒに今聞いても答えてくれそうにないし、とりあえず教室の方に行ってみるか。
「リュービ、コウソンサンはどうした?」
「ソウソウ。コウソンサンは味方についてくれたよ。時間があるから他も回ろうと思って」
教室を目指して歩いていると、ソウソウに出くわした。
「ならちょうどいい。今からエンショウのところに行く。着いてこい」
返事をするより先にソウソウは俺の腕を掴んで歩き出した。
やむなくカンウ・チョーヒも後に続く。腕にソウソウの膨らみが当たるのに全神経を集中させてるうちに、人気のない薄暗い一角に連れてこられた。
「あの騒動以来、連絡がつかなかったんだが、ようやく見つけてな。ここだ。エンショウ、ソウソウだ、入るぞ」
「遅いですわソウソウ!時間は貴方が指定したんじゃなくて!」
部屋に入るなりきつめの口調で責め立てられた。
声の先には一人の女生徒が腰に手を当ててこちらを睨み付けている。
やや赤みを含んだ薄い紫のウェーブのかかった長い髪に小鳥の髪飾りが鈍く光る。
睨み付けてはいるが大きな瞳に高い鼻、それに豊かな胸に細い腰…じゃなくて、胸元に一際大きな金色のリボンをつけ、白いマントを羽織り、紺のニーソと、初対面だが、一目でこの部屋の主とわかる出で立ちだ。
「悪いなエンショウ、トータク一味の目があるからな」
笑いながら遅刻の件を謝るソウソウ。
「その名前は出さないでくれますの。あんな下賤な者のせいでこの私がこんな教室の隅っこに追いやられて…
というかその腕を組んでる男は誰ですの?貴方、男の趣味悪いわね」
「ああ、コイツはリュービ。そこにいたから拾ってきた」
趣味が悪いと言われた上にぞんざいな紹介である。
「 リュービ、こいつが円紹子、エンショウだ。
生徒会副会長で財閥のお嬢様だ。名家を鼻にかけ、傲慢なところがあるが、ワガママなところが玉に傷だ」
まあ、こんな紹介よりはマシか。
「ちょっとソウソウ!悪口しか言ってないじゃない!」
「玉の部分が褒め言葉だ」
「そんなの褒めたうちに入りませんわ!」
「さて、そんなことより本題なんだが」
ああ、自分を中心に話を進める人同士の会話ってこうなるのか…もはや、入る隙もなく、カンウ・チョーヒもただ見てるだけだ。
「かくかくしかじかで、私達はトータクを討つ。エンショウ、お前も手伝え」
「なんだか、随分話が飛ばされた気がしますが、
まあ、参加してあげてもいいですわ。
ただし、一つ条件がありますわ!
私、貴方の下につきたくありません!私を盟主にするのならお受けてしてあげますわ!」
ソウソウを指差し、高らかに宣言するお嬢様。あまり上品とは言えないような…
「ああ、いいぞ。盟主でも日本酒でも好きにやってくれ」
あっさり盟主の座を譲り渡すソウソウ。そんな簡単に上げていいのか?
「ソウソウ、ホントにいいんですの?後で気が変わっても譲りませんわよ」
ほら、言った本人すら戸惑ってるじゃないか。
「私に二言はない。
では、盟主様、他に協力者がいたら声をかけておいてくれ」
「わかりました。このエンショウ、盟主になったからには全力で仲間を集めましょう」
エンショウは座り直し、姿勢を正すとお嬢様らしい口調で宣言した。なんだ、やればできるんだ。
「そうか、頼んだ。これが檄文のコピーだ。必要なら配ってくれ。では、私は帰る」
「え、もうお帰りになりますの?もう少しゆっくりしていっても…」
エンショウが手を口に添え、頬を赤らめながら言う。不意討ち気味のやや反則な表情だ。
「私も仲間集めで忙しい身だ。トータクを倒したらまた来てやる。
リュービ・カンウ・チョーヒ、帰るぞ」
寂しげなエンショウを置いてソウソウは俺達を伴ってさっさと部屋を出ていった。
だが、去り際にソウソウの顔が少し笑ったように見えた。なんだかんだで仲がいいのか、この二人?
「ふー…エンショウの奴、人の話をちゃんと聞かないから苦手なんだよな」
「え、あ、はい」
ソウソウの中ではそういうことになってるようだ。まあ、どっちもどっちかなぁ。
「さて、私はこれからエンショウの妹に会ってくる。あいつは知らない人を嫌うからお前達はこない方がいいだろう」
「わかった。俺達も他を当たってみるよ」
エンショウの妹というと、双子で生徒会会計の円術子ことエンジュツのことだろう。姉の方で既にお腹いっぱいなので、素直に遠慮しておこう。
ソウソウと別れた俺達は体育館の方面に向かった。
「そういえば、空手道場がこっちの方にあったな。確かソンケンは空手部だったね」
ソンケンは連合候補の最初の方に名前が上がってたから、もう誰か声かけてるだろうが、改めて会うのもいいかもしれない。
「うちの空手部に何の用なら!」
空手部の話題をした途端、どっからともなく訛り気味の女の子の声が聞こえてきた。
「さてはあんたら、トータクの仲間じゃね!」
ツインテールの女の子が俺達の方に向かってきた。
「違う!俺達はトータクの仲間じゃない。俺はリュ…」
「昨日もそう言ってきょーたが!騙されてお茶まで出したうちを笑いに来たんね!」
ツインテールの結び目に大きめのリボンを2つつけ、三日月の髪飾りに、ミニスカート、ブーツの細身の女の子だ。普通にしてればかなりの美少女だが、明らかにファイティングポーズをとっている。
「話を聞いてくれ、俺達は…」
「問答無用じゃー!」
彼女のブーツが唸りを上げて飛んでくる!
『ガキッ!』
「うちのアニキに何すんだぜ!」
「事なら私達が相手です!」
この子、ミニスカートなのに躊躇なく蹴りを…なんだ、下にスパッツ履いてるのか…じゃなくて、カンウ・チョーヒが止めてくれなければ危なかった。
「あんたらなかなかやるね。
さてはあんたらリョフじゃな!」
カンウ・チョーヒを指差しながら何を言い出すんだ、この子は?
「強いとは聞いとったけど、なるほど、二人もいたのね!」
なんかよくわからんことを言い出したが、このツインテールの子の中では成立してるのだろうか?
「何言ってんだぜ、コイツ?」
「ちょっとあなた、そんなわけないでしょう」
カンウやチョーヒも混乱しているようだ。攻撃はキックだったが、なかなかパンチのある子だったようだ。
「ということは…
あ、白い虹が太陽に刺さってる!」
「「え?」」
「隙あり!」
俺達はつい、ツインテールの子の指差す方向に眼を向けてしまった。
その隙にその子はカンウ・チョーヒの間を抜けて俺の前に現れた。
「二人のリョフに守られた男!お前がトータクじゃね!」
強烈な言いがかりキックが俺に向かって放たれる。
「しまった!兄さん逃げて!」
逃げてなんて無茶を言う。
俺は体を大きくねじって蹴りを間一髪でかわすことに成功する。
だが、一撃が限界だった。バランスを崩した俺はなんとか止まろうとするも、力及ばずそのまま前に倒れこむ。
ふにっ!
地面に当たる前に両手になにやら柔らかなものが当たる。ふむ、ツインテールの子、最初見た時はそんなに印象なかったが、着痩せするタイプか。これはなかなか…
「なーーー!なに人の胸揉んでんじゃ、この変態!」
「いや、ごめん、これは事故で…」
今度は至極真っ当な平手打ちが俺に放たれる。当然、この体勢では避けることもできず、顔面に平手打ちをくらい、今度は本当に倒れこむ俺。
「はぁ…はぁ…その女好き、やっぱりあんたトータク…」
「兄さん…」
「これは許されねーな、アニキ」
いつの間にか修羅と化した二人が俺の前に立っていた。
「ま、待ってくれ、カンウ、チョーヒ。これは事故で…」
「「天罰!」」
二人の鉄拳が俺に飛んできた。それが俺の見た最後の光景だった。
「カンウ・チョーヒ?あんたらもしかしてリュービ三兄妹?」
「はい、そうです」
「ということは、そいつ、トータクじゃなくてリュービ?」
「そうだぜ、リュービのアニキだ」
「なにやっとんなら、お前ら」
「あ、ソンケンさん」
「兄者!」
「ほら、リュービ、しっかりせい」
「イタタタ…あ、ソンケン…」
俺はソンケンの手を借りて立ち上がった。
あの鉄拳が人生最後の光景じゃなくて本当に良かった。
「こんなところで寝て何があったんじゃ?」
「いや、兄者、これはその…」
ツインテールの子が明らかに動揺している。てか、兄者?
「まさか、サク、また突っ走ったことしたんじゃなかろうのぉ」
「え、えっと…」
この突っ走りっ子には少しお灸をすえて欲しい気もするが、良い思い…もとい、悪いことしちゃったので助け船を出すか。
「いや、俺がこけただけだよ」
まあ、広くとれば間違いでもない。
「それよりソンケン、トータクと戦う件は聞いたかい?」
「おう、さっきカコウトンという男から聞いたぞ。ワシらも参加するよろしくな」
「そうか、それは良かった。えーと、こっちのツインテールの子はソンケンの妹?」
「おう、そうじゃ、コイツはワシの妹のサクじゃ」
「兄者、それじゃ説明が…ソンケンの妹の呉孫咲香、ソンサクです。うち…私も参加するのでよろしくね」
「俺はリュービ、髪の長い方がカンウ、お団子ヘアーの子がチョーヒ。よろしく」
ソンサクは俺に握手すると、そっと俺の耳元でささやく。
「さっきはありがとう。それとごめんね」
「いや、俺の方もごめん」
「うん、胸揉んだ件は後で責任とってもらうけんね」
「はい…」
チャラにはならないのね…まあ、そうだよね。何かで返さないとな。
とにかく、これで反トータク連合に強力な多くの仲間が加わってくれた。決戦は目の前だ。