番外!後漢学園文化祭!その9[遊戯]
「キャハハハハ
リューちゃん、次はどこに行くのだ?」
「ヒミコちゃん、そうだね…そろそろ戻る時間かな?」
「兄さん、往生際が悪いですよ。
次はソウソウさんのところです」
「アニキ観念しな。
カン姉は絶対筋は通すんだぜ」
「うう、仕方ない。ソウソウのところに行くか」
今や後漢学園の生徒会長となったソウソウ。
その拠点は今も中央校舎の臨時生徒会室だが、今回は資料の散乱し、手狭な臨時生徒会室ではなく、北校舎で催しを行うようだ。
「ここがソウソウがいる教室か。
昔、エンショウが会議に使っていた教室をつかってやるんだな。
…おや、歌が聴こえるな」
戸の向こうからなにやら女性の歌声が聴こえる。これはソウソウの声…?
「煌々と輝く月の君♪
いつ私の手を取っ手くれるの
憂いは心に満ち満ちて消すことさえもできないの
幾多の遠路を踏み越えて
訪ねてきてよ私の元まで
久々に会って語りたい
昔の繋がりを暖めたい
輝く月よ瞬く星よ
鵲は大樹の周りを三度巡り
寄り添う枝を探してる
山は拒まずますます高く
海は受け入れますます深く
いつでも私を訪ねてきてね
共に天下を歩みましょう~♪」
ソウソウの歌が終わると周りの観客から一斉に歓声があがった
「ワーワー!ピーピー!」
「会長ステキー!カッコイイー!」
「よっ、後漢学園の丞相!」
さすが生徒会長、すごい人気だ。
ソウソウはステージから下りると俺たちを見つけたのか、まっすぐこちらに歩いてきた。
「リュービ、来てたのか。
なんか歌ってるとこ見られるのは恥ずかしいな」
そう言って俺に話かけたのが、赤みがかった長い黒髪に、同じように赤黒い眼、白い肌にスラリとした体型、生徒会長になっても相変わらず胸元を大きく開け、ヘソ出し、ミニスカートというスタイルの女生徒・ソウソウであった。
彼女は黄巾の乱では風紀委員を率いて討伐にあたり(※第2~4話)、続く反トータク連合でも中心人物として活躍し(※第5~14話)、選挙戦では中央校舎を中心に勢力を拡大、リョフやエンジュツらを討伐し、北校舎のエンショウを倒して生徒会長に就任した(※第15~62話)。
俺とは同盟を組んでいた時もあるが、俺がソウソウと対立を決め、それ以降、対立状態のまま選挙戦が終わってしまった。
「カンウ・チョーヒも久しぶりだな。
あれから会う機会もなかったから寂しかったぞ。
それとそちらの子はなんだ?」
「キャハハハハ
あちしはリューちゃんの子供なのだ」
「またヒミコちゃんはそんなことを…」
「ほう、なんだリュービ、やることやってたのか。
どうだ、私とも子作りしてみるか?」
「ちょ、ちょっとソウソウさん!
何言い出すんですか!
兄さんにそんなことは必要ありません!」
「そうだぜ、アニキから手を離しな!」
「ふふ、つれないな。
で、本当はこの子は誰だ?」
「この子はヒミコちゃん、一人だったから一緒に文化祭を見て回ってるんだよ。
それにしてもソウソウ、歌上手いんだね」
「ありがとう、魏の曹操の詩『短歌行』をもとにした歌だ」
「ちなみにあの歌詞の意味は…」
「ふふ、歌詞は好きに解釈してくれ。
さて、せっかく来たんだから遊んでいくか?ここはゲームコーナーだ。
題して『三国志の遊戯』だ」
「あれ?
歌ってたのに三国志の詩とかじゃないんだ?」
「ああ、三国志の詩は本編で触れるかもしれないから今回はパスって作者が言ってた」
「またそんな無責任なことを…
それにしてもゲームコーナーと言っても古そうなゲームが多いような…これは碁盤?」
「ああ、囲碁の碁盤だ。
どうだ、やってみるか?我が校が誇る囲碁四天王に勝てれば賞品が貰えるぞ」
「囲碁四天王?」
「囲碁四天王とは我が校が誇る囲碁の四人の名手。
すなわち、サンシドウ・オウキュウシン・カクガイ…そして私だ!」
「ソウソウかよ!
相変わらずなんでも得意な人だなぁ」
今さらこの人の万能っぷりにつっこんでもしょうがないか。
しかし、ソウソウに不得手なことあるのか?
「リュービ見ろ、これは三国時代の碁盤だ。
現代の碁盤は19×19の線を格子状に引いた十九路盤が主流だが、後漢時代(三世紀頃)の出土品や、魏の邯鄲淳(演芸・書画の話に出てきた人物と同一)の書いた『芸経』によると17×17の十七路盤を使っていたようだ。
もっとも、十九路盤もすでに使われていたという説もあるがな」
「囲碁ってそんな昔からあるんだな」
「囲碁の起源は伝説によると、堯(神話時代の聖人)がその子の丹朱に教えたものだとか、舜(神話時代の聖人)がその子の商均に教えたものだとか、桀(夏王朝の最後の皇帝)の家臣の烏曹が始めたとか伝説時代の話ばかりで定かではない。
だが、『論語』(孔子の言動をまとめた儒教の聖典)や『春秋左氏伝』(孔子の編纂した歴史書『春秋』に左丘明が注釈を施したとされる本)に登場することから春秋時代(前六世紀頃)にはあったようだな。
囲碁は三国時代にも盛んで、魏には囲碁の名手として山子道・王九真・郭凱らがいたが、曹操の腕は彼らに匹敵したという。
他に碁にまつわる人物では、魏には先程出てきた『芸経』を書いた邯鄲淳、対局中の盤面がめちゃくちゃになっても完璧に元に戻した文人の王粲(動物の話に出てきた人物と同一)など。
呉には、現代に棋譜(囲碁の対局の記録)が残る孫策と呂範、敵に作戦がばれても囲碁を打ち平静を装った陸遜。
蜀漢には出陣前にその度胸を試そうと対局を挑んだ学者の来敏と兵士が鎧を身に付ける中、冷静に指した指揮官の費禕。
後は小説の三国志演義の話だが、右手の手術中にそのまま泰然と囲碁の対局をし続けた関羽(正史では宴会中の出来事)などがいるな」
「かなり一般的なゲームだったみたいだな」
「ちなみに孫策と呂範の対局を記録した棋譜は現存する最古の棋譜と言われ(後世の偽作説あり)、日本棋院(東京都千代田区五番町7-2)にある囲碁殿堂資料館に展示されているぞ」
「近くの人は行ってみよう」
「営業時間などしっかり確認して、感染症対策は万全にして行ってくださいね」
「こんなこと言ってるけど作者は行ったことないんだぜ!」
「さて、ではリュービ、私と一局やってみるか?」
「いや、俺囲碁のルールがよくわかんなくて…
ん?こっちのは?碁盤に似てるけど中央が盛り上がって山になってる…これも囲碁のやつ?」
俺は囲碁盤の横に、同じような盤だが、山なりになってる不思議な盤が置いてあるのを見つけた。
「それは弾棊(読み方は“だぎ”ともいう)の盤だな。
中央が盛り上がって山となった盤に、黒白各六個の石を向き合う形で置いて、交互に石を弾きあって、多くの敵の石に当てた方が勝ちというゲームだ。
盤が中央に盛り上がっているから、力が強すぎると相手の石を飛び越えてしまう。かといって弱すぎると山を登らない。力加減が難しい。
私の弟の私物だが勝手に持ってきた」
「悪いお姉さんだな…てかソウソウ弟いたんだ」
「ふっ、弟について知りたければ今後の学園戦記三国志の展開に期待するんだな」
「また直接的な宣伝を」
「さて、弾棊だが、前漢の時代(前一世紀頃)、蹴鞠(打毬のこと。球を蹴ってゴールに入れるサッカーのような競技)好きの皇帝・成帝が遊びすぎて過労になることを恐れ、劉向が献上したのが始まりとされる。
後漢の学者・蔡邕(書画の話に出てきた人物と同一)も『弾棊賦』(弾棊の歌)を作ったようだが、この時代、特に熱中したのは魏の曹丕(曹操の息子)だ。
曹丕は布切れで碁石を弾くと百発百中だったそうだ。
もっとも、自分の方が上手いと豪語する客人(名不明)にやらせると、曹丕より上手かったそうだから、一番の名人というわけではないようだがな。
しかし、宋の時代(十~十三世紀頃)ぐらいにはこの遊びは絶え、今は細かいルールなどはわかってない」
「わからないなら遊べないじゃん」
「まあ、ざっくりとなら遊べるからな。
ついでに室外の遊びだが、打毬(蹴鞠)について解説しておこう。
時代によってはホッケーのように足ではなく棒で打ち合ったり、馬に乗って行ったりしたようだ。
三国時代、どう遊ばれていたのかはわからんが、魏の宮殿には鞠室(打毬の競技場)があったそうだから遊ばれてはいたのは確かだろう」
見ると弾棊盤の横にまた別の盤面が置かれていた。
盤面の中央に四角が描かれ、その回りにL字やT字などの幾何学模様が並び、明らかに囲碁や弾棊の盤とは別物である。
「ソウソウ、これは何の盤?」
「それは六博(単に博とも呼ばれる)の盤だな。双六の一種と言われている」
「双六っていっても、この盤マス目ないけど?」
「ああ、そうだ。
六博は戦国時代後期(前三世紀頃)にはあった古いゲームだが、三国時代あたりから徐々に遊ばれなくなり、宋の時代(十~十三世紀頃)には完全に滅んでしまった。
双六のようにコマを進めて遊んだようなのだが、マス目がないから進め方もわからない上に、時代によっても遊び方が変わったようで、弾棊以上に謎のゲームだ」
「そんなわからないゲーム置くなよ」
「しかし、多少ならわかっていることもある。
湖南省長沙市の馬王堆で前漢時代(前二世紀)の利倉(蒼)とその妻子の墓が発掘されたが(料理その2の話の時に出てきたものと同一)、その副葬品に六博の道具一式があった。
ゲーム盤(博局という)、箸(スティック)が長いものが十二本、短いものが三十本、大きな駒が黒六個、白六個、小さな駒三十個、十八面体の賽子、小刀二種。
しかし、別の場所からは、ゲーム盤と箸六本、駒十二個のセットも出土している。
どうも、これが最低限必要なもので、馬王堆の出土品は豪華セットなのか、それを使った別のルールがあるのかわからん」
「この箸とか何に使うの?」
「どうも元々はこの箸が賽子の代わりであったようだ。
この箸には刻みが入れてあり、これで数字を表した。
この六本の箸を転がし、互いに六個ずつの駒を動かして勝敗を決めるゲームのようだ。
六本の箸と六個の駒を使うところから六博という。
また箸ではなく十八面体の賽子を使う場合もあった。
この賽子には一~十六の数字と「酒来」や「驕」といった文字が書かれていた。この文字は賽子によって違ったようだ」
「そこまで聞くと遊べそうな気もするが…やっぱりこのゲーム盤の幾何学模様がわからん」
「それが謎だな。
この幾何学模様にどういう順路で駒を進めれば勝ちなのかわからん。
しかし、出土資料からわかったことだが、この幾何学模様は占いに用いられていたようだ。
この『博局占』と名付けられた占いによると、この模様の各所にポイントが決められ、それぞれに名前があり、それは干支(十干十二支、日付を表す)に対応して順番が決まっていたようだ。
まだ謎の多いゲームではあるが、今後の研究によっては解明されるかもしれないな」
「こうしてみると当時も結構ゲームが盛んだったんだな。みんな暇な時に遊んでたんだろうか」
「何も戦ってただけではないということだ。
しかし、一方でこの手のゲームは賭け事にも使われていたようだな。
つまり博打だな。
賭けたのは金銭ばかりではなく、囲碁なんかだと書画や文具なども賭けていたようだ。
加えてそればかりに熱中するのも良くないということで、呉の太子の孫和(孫権の子)は韋曜(名は韋昭とも。飲料の話に出てきた人物と同一)に『博奕論』(博は六博、奕は囲碁を指す)を書かせ、博打に熱中することを批判したという。
遊んでばかりもいられなかったということだ。
さて、ではリュービ。
一つ遊んで行くか」
「いや、俺は囲碁のルール知らないし、弾棊や六博もルールがわかんじゃ…それにそろそろ時間も…」
「なに、三国志のゲームなら現代にもいくつもあるさ。
ウォーゲームなら雑誌・ゲームジャーナルの『魏武三国志』、『謀略級三国志』、『竜虎三国志』、『曹操最大の危機』。
カードゲームなら『SANGOKU!』、『三国殺』『三国志覇王』。
トレーディングカードゲームなら『三国志大戦』。
TRPGなら『三国志演技』、『転生三国志』…各種揃えてあるぞ」
「いや、ソウソウ、もう時間が…」
「そうです、私たちもそろそろ戻らないと」
「オレたちはお前と遊んでる時間なんてないんだぜ!」
「カンウ、チョーヒ、お前たちもやらんか?
優勝賞品はリュービを自由にできる権利だ!」
「やりましょう!」
「さっさとゲーム決めようぜ!」
「キャハハハハ
あちしもリューちゃん欲しいのだ!」
「おい、カンウ、チョーヒ!それにヒミコちゃんまで!なんでやる気になってんだよ!
それとTRPGに勝敗なんてないだろ!」
「安心しろ、私がクリア不可の極悪シナリオでお前たちを地獄に叩き落としてやる」
「GMがそんなことしちゃダメだろ!
カンウもチョーヒもヒミコちゃんもとにかく帰るよ!」
「まったく…ソウソウにはいつもひどい目に合わされる
てか、カンウやチョーヒも乗らないでよ」
「わ、私はソウソウさんに兄さんを好きなようにされないために参加しようとしただけで…」
「オ、オレもアニキを好きにしようなんて思っちゃいないんだぜ!」
「キャハハハハ!
人気者だねーリューちゃん!」
「そういえばヒミコちゃんの保護者、結局見つからなかったね」
「そうですね、どうしましょうか?
このまま私たちの店に連れていきましょうか?」
「キャハハハハ!
あちしはこのままでもかまわないのだ!」
「姉さん!」
その時、大きな声と共に一人の少年がこちらに駆け寄ってきた!
「ヒミコ姉さん、こんなところにいたのか。
捜したんだよ」
「タケル!ようやく会えたのだ!」
駆け寄ってきた少年は、頭に龍の髪飾りをつけ、青いシャツに白いズボン姿の少年だ。
まるで、オモシロカッコイイSDロボに乗る救世主のような出で立ちで、声は海賊王目指したり、空から落ちてきた女の子と三文字の呪文を唱えそうな男の子だ。
「もう、姉さん、勝手にどっかいかないでよ」
「キャハハハハ!
すまんのだ、リューちゃんたちと遊んでたのだ」
「すみません、姉がお世話になりました。
僕は弟の倭部タケルといいます」
「いや、俺たちもそんな大したことしてないし…
弟?君いくつ?」
「はい、13歳、邪馬台中学の一年生です」
「中1?じゃあヒミコちゃんって…」
「あちしは中2なのだ!」
「中2~!もっと子供だと思ってた…」
「ほら姉さん、お礼言って」
「ありがとうなのだ!
リューちゃん、カンちゃん、チョーちゃん、今日は楽しかったのだ!」
「俺たちも一緒に回れて楽しかったよ。
そうだ、うちの店でご飯ご馳走するって言ってたよね。
まだ時間があるならどうかな?タケル君も一緒に」
「僕も行っていいんですか」
「もちろんだぜ!」
「せっかくですからぜひ」
「行くのだタケル!」
こうして文化祭は過ぎていった。
そして俺たちの学園生活は元に戻っていく。
来年には再び選挙戦が始まるだろう。
最大勢力のソウソウ、俺たちが所属する南校舎のリュウヒョウ、東校舎のソンサク、西校舎のリュウショウ、そしてまだ知らぬ仲間や敵たち…
果たしてどんな戦いが待ち受けているだろうか…
番外編 終




