表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/223

番外!後漢学園文化祭!その2[演芸]

 最初にたどり着いたのは北校舎の外れの旧部室棟。ここではチョウカクたち黄巾党(こうきんとう)の面々が出し物をしているという話だったのだが…


 黄巾党(こうきんとう)-かつてチョウカクのもとに集まった不良たちは黄色いバンダナを目印にして学園に反抗したことがあった。(※第1話~4話参照)


 だが、今は騒動も落着し、チョウカクたちはソウソウのもとに、妹のチョウホウはリューヘキと名を改め、俺の仲間となっている。(※第41話・56話参照)


「おや、リュービ殿、見学ですかな?」


 俺たちに気づいて声をかけてくれたのは、長い白髪(はくはつ)に黄色い道士服、手には杖も持った、ヒミコと同じぐらいの背丈の女生徒、黄巾党の主・チョウカクだ。

挿絵(By みてみん)


「チョウカクさん、久しぶりです」


「今回は宝子(たかこ)…君にはリューヘキと言うべきかな。妹を我らのとこで借りて悪かったね」


「いえいえ、今回はチョウカクさんにとっては最後の文化祭なんですし、リューヘキもこちらの方がいいですよ」


「気を使ってくれてありがとう。


 カンウ殿にチョーヒ殿も…おや、そちらのお子さんはリュービ殿の子供かな?母はカンウ殿?チョーヒ殿?」


「はい、私と兄さんの愛の結晶なんです」


「いや、オレがお腹を痛めて産んだ子なんだぜ」


 カンウとチョーヒが顔を赤らめながらシャレにならん冗談を言い出した。


「なんでそうなるんですか!カンウもチョーヒも悪ふざけしない!


 この子はヒミコ、文化祭に遊びに来ていたので一緒に廻ってるんですよ!」


「キャハハハハ


 あちしリューちゃんの子供なのだ!」


「ヒミコちゃん、それ絶対他の人に言わないでね」


「ハッハハ、リュービ殿は相変わらず女難に見舞われてますな。


 実は我らの出し物は『三国志の演芸』をテーマにした舞台なのですが、公演は午後からでしてな。ただ、これから練習するので見学していかれませんか?」


「そうですね、せっかくなので見学させてください」


 さっそく始まった黄巾党のお芝居は、どうも時代劇のようだ。着物のような格好のチンピラ風の青年が舞台袖より現れた。


『俺の名は劉備(りゅうび)、今はワラジ売りに身をやつしているが(かん)の皇帝の血を引くものだ!』


 ん?劉備(りゅうび)?どこかで聞いた名前だな…


 チンピラ劉備(りゅうび)は竜に捕まり天上界へと赴いた。


 場面変わって天上界ー今度はビキニの水着にマントを羽織った金髪ロングの女生徒・リューヘキが現れた。

挿絵(By みてみん)


 ちょっと格好際ど過ぎやしないか?


『私は竜王の娘じゃ。ここまで来た男・劉備(りゅうび)よ。お前が私の婿になるなら願いを一つ叶えよう』


『俺が望むのは肝だ。どんな苦しい時でもビクともしねぇ肝っ玉が欲しい』


『ならばお前に巨鬼の肝を与えよう。これでお前は人間界第一の剛胆な男だ』


 こうして竜女の婿(むこ)、人間界一の剛胆な男劉備(りゅうび)は地上に戻ると、彼の前に長い(ひげ)を伸ばした大男が現れた。


『たった今、天の声をお聞き申した!


 劉備殿!(りゅうび)!私を!!この関羽(かんう)をどうか家臣の末席にお加えくだされい!!』


「なんであの髭面(ひげづら)の大男が私と同じ名前なんですか?」


 次に現れたのは隻眼(せきがん)の大男であった。


『俺の名は張飛(ちょうひ)


 めぐりあわせじゃあ!!天下が俺を必要としはじめんじゃ!!俺を家臣に加えてくれ!!』 


「おい、なんであんなおっさんがオレと同じ名前なんだぜ!」


『俺は家来を持つほどの人間かわからねぇ。


 この(ちぎ)りは兄弟の(ちぎ)りとしよう』


『ならばせめて長兄は劉備(りゅうび)殿に』


『という事は関羽(かんう)が次兄で、この張飛(ちょうひ)が末弟か!まあ、しゃんめいな』


 こうしてガレキの中で兄弟の誓いをした三人は黄巾党を討つため立ち上がった。


 この三人も兄弟の誓いをするのか。まあ、弟と妹の違いはあるけど…


 黄巾党相手に快進撃を続ける劉備(りゅうび)たちの前についに黄巾党の主・張角(ちょうかく)が立ちはだかる。


『黄巾党の張角(ちょうかく)とは仮の姿、我こそは魔界の幻鐘(げんしょう)大王である!』


 おい待て、なんだ魔界の大王って。


 そこへ竜女扮するリューヘキが現れて劉備(りゅうび)に魔界の大王と戦う力を授ける。


『地上は人間のもの!


 人間たる俺が守る!!』


 激しい斬り合いの果て、ついに劉備(りゅうび)の剣は魔界の王を討ち砕いた!


 魔界の王を討ち取った劉備(りゅうび)のもとに、竜女は人間界に残り、二人はついに夫婦となったのであった。めでたしめでたし。


「キャハハハハ


 面白かったのだ!」


「ってチョウカクさん!何なんですかこの話!!」


 舞台が終わると同時に俺はチョウカクに詰め寄った。


「三国志の序盤、黄巾の乱の話を時代劇風に脚色を加えて書いてみた。ちなみに監督脚本はこのチョウカクだ。


 後、今回出てくる人名は同じに聞こえても別人だぞ」


「んな、無茶な。


 劉備(りゅうび)関羽(かんう)張飛(ちょうひ)と聞いたら他人事とは思えませんよ」


「なお、この話はこの後、義兄弟の誓いをした劉備(りゅうび)関羽(かんう)張飛(ちょうひ)の三人が、後漢王朝(ごかんおうちょう)を支配する董卓(とうたく)呂布(りょふ)、群雄の曹操(そうそう)袁紹(えんしょう)袁術(えんじゅつ)孫策(そんさく)とその弟の孫権(そんけん)劉表(りゅうひょう)らと戦っていくようになる予定だ」


「そんなに話広げて大丈夫なんです?」


「なに、その時は竜巻でもぶつけてみんな吹き飛ばすさ」


「そんな強引な終わり方でいいんですか…


 てか、そもそも俺たち別に黄巾党を倒したわけではないですし…


 それにそんな聞いたことあるようなないような名前何人も出されても…」


「そうですよ、あの名前で他人事とは思えません。


 それになんであの髭面(ひげづら)の大男が私なんですか!」


「オレもあんな大男にしやがって!オレへの背丈に対する嫌味かだぜ!」


 カンウ・チョーヒもご立腹だ。まあ、気持ちはわかるが、他にツッコミどころがあるだろ。俺もあんなむさい男たちの兄になるのは嫌だが…


「ハハ、すまんね。確かに脚色はあるがお前たち三人のような配役だな。


 それに今回、女優はリューヘキ一人だからな、他は全員男になるのは仕方がない」


「リューヘキといえばあの役はなんなのさ?」


「あたいの役は竜王の娘、不思議な力が使える劉備(りゅうび)の嫁さ」


 俺の質問に袖から舞台衣装の水着のまま現れたリューヘキが答えてくれた。


「なんでそんな設定の嫁を作るかな。


 てか、リューヘキ、その格好は露出が激し過ぎるからやめた方がよくないか」


「なんだリュービ、あたいの体に興奮しちゃったのか?


 それならさ、このまま一緒に舞台の裏にふけねーか。


 あたいはいつでも準備できてるしさ…」


 そこへ舞台で関羽(かんう)に扮していた大柄の男・キョウトが現れる。


「リュービの旦那、もし子供ができたら俺たちで面倒みやすからご安心くだせい。必ず黄巾党の次代の指導者に育ててみせやす!」


「いらんお世話だ!」


「そうです、なんで兄さんがあなたと子…子作りなんてするんですか!」


「そうだぜ!劇でも勝手にアニキの妻の役なんかやりやがって!」


「ああ、竜女の役はリューヘキの希望で作った」


「てか、なんで黄巾党の主が魔界の大王なんです?黄巾党の芝居なのに完全に悪者じゃないですか」


「はは、これ以上黄巾党に人が入らないに越したことはないから私は悪党でいいのさ。


 私もじきに卒業だしな」


「チョウカク…」


「ちなみに中国では古代より祭祀儀礼(さいしぎれい)の場で歌や舞は重要視されていた。これに物語性が加わり、演劇へと発展していったようだ。


 三国時代、まだいわゆるセリフ劇というものはなかったようで、この時代の主な演芸は「百劇(ひゃくげき)」と言われる楽舞や曲芸などの雑技が行われていた。


 有名な文人であった邯鄲淳(かんたんじゅん)を招いた曹植(そうしょく)(曹操の子)は、俳優を真似て自ら白粉(おしろい)を塗り、(かんむり)を脱ぎ半裸となって、異国の舞踏を踊り、ジャグリングや剣技を披露し、小話を口ずさんだという。


 また、()の宮中では綱渡りや逆立ちしながらの馬乗りといったサーカスのような曲芸が披露されていたそうだ。


 しかし、演目の中には物語性の伴ったものがすでに出てきてはいた。


 例えば(かん)代(二世紀頃)の墓室より発掘された画像には各種楽器や舞の他に、伝説の神獣に(ふん)した人や神話的な服装をした人物が描かれている。おそらく伝説の一場面を再現したものだろう。


 三国時代、()の宮中では曲芸などと共に『魚龍曼延(ぎょりゅうまんえん)()』というものが披露されている。これは獣から魚に転じ、最後に龍に変化するという()し物だったようだ。


 いわゆるセリフ劇は(そう)代以降(十~十二世紀以降)から普及していくが、その中身は偉人英雄の鎮魂を目的とした史劇が多く含まれていた。


 もちろん、その中には三国志にまつまる劇もたくさんあった。


 また(げん)代(十二~十四世紀頃)に演劇が大衆文化として浸透していくと、大衆は自分たちのよく知る歴史・伝承に基づく周知の演劇をいかに脚色されるかに注目が集まるようになっていった。


 現代でも、よく知られた歴史物語を脚色して多様な小説、漫画、アニメ、ゲームが生まれているからな。状況は似ているかも知れんな。


 以上の観点から、学園を救った英雄である君たちリュービ三兄妹を主人公に、天上界や魔界といった大幅脚色をしたこのお芝居は、中国の演劇に適っていると言えるわけだ」


「チョウカク、ものは言い様だな。てか、この長い説明ってこのお芝居の言い訳だったのか」


「後、この芝居のタイトルは『天地を食べる』という」


「その名前なんかカッコ悪くない?せめて“喰らう”とか…」


 その時、後ろの戸が勢いよく開けられた。


「ほお、ここは演劇か。


 さて、我輩のお眼鏡にかなう女優はいるかな」


 三人の女性・リジュ、カユウ、ジョエイを伴って現れたその男は、長身細身で、髪は七三に綺麗に分けられていたいかにも優等生風の容貌(ようぼう)であった。だが、顔は忘れもしない。お前は…


「トータク!!」


「ほお、我輩の名を知っているのか。


 我輩がここにいた期間は短かかったが、なかなか存在感を示せたようだな」


「さすがトータク様!見事ですトータク様!立派ですトータク様!」


「クックック フハハハ ワーッハッハッハ!


 そう誉めるなリジュよ」


 トータクの汚い笑い声が部室棟に響き渡る。


 かつてトータクは、交換学生として後漢(ごかん)学園にやってきて、(またた)く間に学園を掌握(しょうあく)。あわやのところで、俺やソウソウたち反トータク連合が彼の野望を打ち砕き、追い返すことに成功した。(※第5~14話参照)


「この学園を追放されたあなたがなぜここにいるのですか!」


 義妹・カンウが拳を構えてトータクの行く手を(さえぎ)る。


「あなた、トータク様に失礼ですよ!


 ここの学園祭は部外者の出入り自由だからわざわざ来たのですよ!」


 敵意()き出しのカンウに対し、トータクの隣に立つ茶髪にメガネをかけた女性・リジュが反論する。


「待てリジュよ。


 せっかく乳がでかくて美人の我輩好みの女が話しかけてくれたのだ。


 どうだ?向こうで二人きりで我輩の処分について話し合うというのは」


「私を忘れるとはいい度胸ですね!」


「おや、君のような美人とどこかで会ったかな」


「トータク様、こやつはカンウ、反トータク連合で戦っていた女です」


 黒い軍服の女性がそうトータクに報告くる。


「そうかカユウ、あの時にいたのか。


 あの時はソウソウやエンショウ、エンジュツ姉妹ばかりに目がいって、こんな美人を見逃していたとは、我輩の失態だな」


「やいトータク!これ以上、カン姉に近付くとオレが許さねーぜ!」


 今度はチョーヒがトータクの前に詰め寄った。


「お前は…ロリっ娘!!!」


「誰がロリだぜ!オレも同じ高校生だぜ!」 


 ロリ呼ばわりされて激怒するチョーヒに対し、トータクはトラウマでも呼び起こされたかのような怯えぶりであった。


「近付くな、ロリっ娘!


 我輩はあの時の反省からもうロリには手を出さんと決めたのだ!」


 お前、あれだけの騒動起こして反省したのそれだけかよ!


「何か知らんが、そろそろ公演準備があるから帰ってもらえんかの」


「ギャアアア!またロリっ娘だ!」


 今度はチョウカクを見て取り乱すトータク。


「てめえ、姉さんをロリ呼ばわりしてんじゃねー!」


 まだ水着姿のリューヘキがトータクに食って掛かる。


「おお、半裸の女だ。ああ、癒される」


「てめえ、見てんじゃねー!」


「おっさん、子供が怖いのか?」


 いつの間にかヒミコがトータクの隣に立っていた。


「ギャアアアァァァ!またまたロリっ娘だぁぁ!」


「ヒミコちゃん、その変態に近づいちゃダメだよ」


「リューちゃん、こいつ悪い奴なのか」


「そうだよ。とっても悪いから無闇に近づいちゃダメなんだよ」


「じゃあ、あちしが退治してあげるのだ!」


「え、ヒミコちゃんが退治?」


「まっかせるのだ!


 ヒミコミコミコヒミコミコ鬼道あちしがいーっぱいの術!」


「うわぁぁぁ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ